(葉月様リク)






きみが幸せだと、それが
ぼくの幸せに変わるから。







シアワセ






このオフは空にも休みをとってもらって温泉旅行へ行くことにした。


ずっと行きたい行きたいと言っていた空は心なしか少しテンションが上がっている様な気もする。


そんな空を見てオレはテンション上がりまくりなんだけど。






旅館の部屋に着き、荷物も下ろさないままに部屋をうろうろと歩き周り観察する空。





「見て見て、海見えるよ。」




外を眺めて言う空の隣に立つ。

夕日に照らされる海はきらきらと眩しくて、空が目を細める。



ふとこちらに目を向ける空は恥ずかしそうにはにかむ。




「邦広、私じゃなくて、あっち見てよ。」




「え?あはは、うん、」


海じゃなくて空を見ていた俺に気付いた空に苦く笑って頷く。


ほんとは海より空を見ていたい。


こんなことを言う勇気はないけど本気でそう思ってしまった。



「あ、温泉入りたいな!」


「いいね、行こうか。」




荷物を置いて座る間もなくまた部屋を出る。






―――…






温泉が思いの外良い感じだったので、また今日中に入りたいなとか考えながら「男」と書かれた青い暖簾を上げて出る。





空はもう上がってるかな。


当たりを見渡すと、オレと同じように浴衣姿の空の後ろ姿を見つけた。



名を呼ぶ前にこっちに気付いたから、近くに寄るとふんわり香る風呂の匂い。


赤い頬を緩ませ笑う空が可愛くて、すぐにでも触れたくなった。




「顔あっか!」




笑いながら言ってやり、人差し指で頬をつんつんとツツくと、嫌がる様子もなくへらりと力無く笑った。




「のぼせちゃったよー。」



「オレもオレも。部屋戻ろっか。」




頭を撫でると髪が少し湿っていたから、部屋に戻ったら拭いてあげようと思う。












部屋に付いてふぅと息をつく空はぺたんと座る。

オレは自分の首にかけていたタオルを取って空の前にしゃがむ。



そしてキョトンとした顔の空にタオルを被せる。




「なまがわきー。風邪ひくよ!」




わしゃわしゃと犬を撫で回すように、優しくとは言えない手つきで髪を拭いてやる。



一度手を止め、頭からかぶるタオルの端で空の顔を包む。



顔の上半分が隠れている状態だけど、音を立てて唇にキスをした。





「ばあ。」



言いながらタオルを外し空の首にかけて顔を見ると真っ赤な顔の空。





「あつー。」




空が拗ねたみたいに口を尖らせて片手でパタパタと自分の顔を扇ぐ。


可愛いなぁ。




オレも一緒になって扇いであげようと邪魔な袖を片手で肩まで捲り上げた。

その後、空の顔を扇ぐ。








…―ピリリッ、ピリリッ





和やかな雰囲気を遮るように響く機械音。
携帯だ。オレの。最悪、バイブにするの忘れてた。
しかも電話。






「鳴ってるよ?出ないの?」


「んー…」



「あはは、出て良いよ?」



「んじゃあ一回出てすぐ切る!」



「え…それは…」




空の優しい気遣いを断るのもまた気を遣わせそうだったから、そう答えて携帯に手を伸ばす。




空の向こうに携帯があるから、座る空を倒して頭の斜め上に片手を付いてぐっと手を伸ばす。




空に覆いかぶさった状態のまま携帯に出る。


ちょうど空の顔の上にオレの胸あたりがくるような体勢。





「もしもし。福澤?サヨウナラ。」



相手が福澤だったから、約束通り一瞬で切ってやった。
なんか言いかけてたけどまぁいいか。
あ、もうサイレントにしとこ。





「ごめんな空。…って何してるの?」





目一杯に下を向いて空を見ると、たまらないと言う様な表情を浮かべて片手で口元を覆っていた。





「…だってさ、だって、ズルいよそんなん、…ちょっと見える胸板とかさ見えそうで見えない腹筋とかさ、なによう、ネックレスとか、かっこいいじゃない…っ!」


小さい声で一気に言う空。




それでそんな顔してるとか、それこそズルいよ。




そう思い笑ってしまう。





「なんだよそれ、」



「だって、だって!!」




「可愛いすぎるって。」






空がそんな仕草でそんな可愛いこと言ってくれるんなら、本当に鍛えてよかったと思うしネックレスも付けっぱなしで良かったと思えてくる。






「すきっ」





空は相変わらずオレに触れもしない体勢のままで、オレの浴衣の隙間に向かってそんな事を言うから、複雑な感じがしないこともない。





「空ー、それはちゃんとオレに言ってくれてる?」





オレの体とかだけじゃなくて、オレの全部に言っていて欲しい。





「もちろん!」





空の返事と屈託の無い笑顔に見事に打ち抜かれたオレは、緩む口元を抑えきれない。




「そお?」





にやけながらも言い、少し下にさがりゆっくり抱き締める。




空の熱い体温と、どくんどくんと響く心音がどれだけ緊張しているかを伝えてくる。

そしてそれがまた、オレに「好きだよ」って言ってくれているみたいで。






一度オレだけ身体を起こす。
何という訳じゃないけど空を見ると、空がさっき一気に言ったことがなんとなく分かった気がした。






「空…」



「ん?」




「浴衣ってエロいんだと思う。」





オレの突拍子も無い言葉に、一度驚いた表情を浮かべたが、すぐにくすくすと女の子らしく笑った。





「エロいとかそうゆうんじゃないよ。」





困ったように笑う空。
違うのかな?と思いつつ、やっぱり見える鎖骨とか白い首とかに妙な気持ちになる。






「だって、知ってた?この浴衣って1枚の布と帯でしかないんだよ?」




「そんなこと知って…んう!?」







たまらず口付ける。





唇を離すと共に薄く開いた瞳の先にうつる空が、すごく幸せそうに唇を結ぶから、オレは声を出して笑う。







「そんな可愛い顔するなよ。」





片目を細めて困ったように微笑んでみせてそう言うと、空はぺちんと音を立ててオレの顔を小さい手で挟んだ。






「こっちのセリフだよ。」






そんなことを言う空から受け取るメッセージ。
言葉の隣にある自然に溢れる感情は、幸せに満ちているようなそんな気がする。


それはきっと、オレが今とんでもなく幸せだから。

もしも空の心に悩みや不安があったとしても、それさえものみ込む程の力強い幸せをオレが持っているから。





逆もそうなら良いなぁ。

いや、そうなのかも。
だって俺の悩みや不安は空に会うと吹き飛ぶ。






「あー、今日来て良かった。」




オレのそんな呟きに疑問符を浮かべる空。





「なんか、空がちょっとコーフンしてくれたってゆうか…」




「いや、興奮ってゆうかね。邦広浴衣似合いすぎだもん。」





「オレ、普段もずっとこれ着とこうかな。」





「や、それはやめとこ!?」





オレの冗談に眉を下げ笑って返す空。





冗談だけど、本当にそうしたいくらい空が好きだよ。

空が好きだって、照れて笑ってくれるオレでいたい。

そう思うのは自然だろ?








寝そべる空をぎゅうっと抱き締める。






「…邦広?」




「もーちょいこのままでいさせて。」




「ご飯準備しにくる人、来ちゃうよ?」




「うん。けど、今はご飯より空が食べたいなー」






「…ばかっ」













エンド











アトガキ
落ちない!素敵なリクエストをありがとうございました、葉月様。チラリズムをどうしてやろうかと考えたのですがこんな結果になってしまいました。更に最後落ちきれていないという残念なことになりました。こういういちゃつきは永遠続けさせてしまいます。イメージと違っていましたら申し訳ありません。最後まで読んで下さりありがとうございました!