(「恋におちて」清水視点ver./あおい様リク)
あ、また居る。
そう気付いたときにはもう
君の存在は特別になっていたのかも。
恋におちて
-side change-
バレーは楽しい。
どんなキツい練習でも環境でも、出来る幸せを感じられる程好き。
しかもそれを応援してくれる人が居る。
たまに思い出す。
オレってもしかして世界一幸せなんじゃない?って。
大袈裟かもしれないけれど本気。
そんな事を考えていた試合前。
客席をぐるりと見回す。
このざわついた空気。
熱い雰囲気とわくわくが伝わる。
これからそんな中でセンターコートで試合するんだなって、みんなの視線が集まるんだなって、考えただけでピリッとする。
「…あー。あの子、また居る。」
小柄な女の子。
いつも一番近くで、飽きもせず頬を赤くさせてそわそわしてる。
練習も見にきてくれてんだよなぁ。
もうほとんど毎回。
いつの間にか、探すようになってたりして。
無意識に探していた自分に気付いたのは最近だ。
福澤が「見過ぎや」って言ってきてはっとした。
二度程軽く詫びて、また顔を背け際に彼女を横目で見ると、
(あ…、)
一瞬だけ目があった。
スローに見えた彼女の驚いた顔。
目をまん丸にして、ぱちくりと瞬きをしていた。
可愛いな、なんて思ってしまった。
有り?無し?
この気持ちは許されるのかな。
頭の悪いオレにはちょっと、分かんない。
顔がタイプなのかと言われたら別にそういう訳じゃない。いやタイプっちゃタイプかもしれないけど、ドストライクにハマった訳じゃない。
そう。見た目じゃない。
オレが「可愛い」と感じたのはルックスからだけじゃないと思う。
って、そもそもあの子がオレのことだけを見に来てる訳じゃないだろうし、どうしようって気はないんだけど。
「いだっ!?」
「ええ加減にせぇよ。」
ぼうっと色んな考えを巡らしていたオレの頭は、福澤に叩かれたことによって思考を寸断された。
…とりあえずは、試合に集中しなきゃ。
*
試合後、エンドラインの後ろの方で軽くストレッチをする。
自然に視線を向けた席はやっぱりあの子の席。
あぁそうそう。
こういう所。
試合後のあの子の表情を見るのが好きだったりするんだ。
負けた時は少しムッとしていて、怒られた気になる。
勝った時はニコニコとしていて満足そうな顔をしているから、勝って良かっただなんて思う。
そして、一度だけ、泣いている時があった。
あの時は確か接戦で、結果は負け。
肩を揺らすほど泣く彼女を見たとき、勝たなきゃって思った。
今日は、なんだかそわそわしてる?
1人で深呼吸してる?
試合も終わって、解散。
さぁ帰ろー。
ってときに、控え目な聞いたことの無い声。
顔を向けたら、あの子が居た。
うっそ、まじか。来てくれたってこと?色紙持ってるしな。
いつもは遠くに居る彼女が近くに居て感覚が訳分かんなくなる。
そして気づく。
思ったより好きになってる。
「やっべ」
無意識にそんな言葉が漏れて苦笑いをしてしまった。
「あ、あの!私っ」
「あ、いつも、来てくれてるよね?」
テンパって、顔を赤くする彼女に少し嬉しくなって、ついつい口元が緩む。
いつもはどうなんだろう。
普段はどんな子なんだろう。
もっと知りたいな。
「はいっ!…えっと、サインくださいっ」
渡された色紙を受け取り名前を教えて貰った。
空ちゃん、かぁ。
どうしよう。本気で気になってきたぞ。
アウト?セーフ?
たぶんアウト。けど、秘密なら許されたりしないかな。
下心?そんなんじゃない。
ほんとうに大切って思ったんだ。
空ちゃんなら、大丈夫なんじゃないかなって。
いやてゆーか、空ちゃんがどうとかじゃなくて
ただ
オレがそうしたいだけ。
色々考えながらサインを書いて、結果的に我ながら良い考えだと思うんだけど、色紙の裏の隅っこに小さく連絡先を書いてみた。
そして、オレよりはるかに小さい空ちゃんに合わせて身をかがめる。
内緒話をするみたいに耳と口を寄せ合って言う。
「番号書いてるから、良かったら、連絡ちょうだい?」
内緒だよ。と付け加えて言ったのを空ちゃんは聞いたのか聞いていないのか、すごく嬉しそうな表情を浮かべてくれた。
そして、元気の良い返事もくれた。
無邪気だ、と思いつつ空の反応が嬉しくて笑ってしまう。
そして今、一番言っておきたいこと。
うまく言葉になるか分からないけれどとりあえず言ってみる。
「空ちゃんが来てくれてると、オレすごい頑張れるから。また来てね。」
空ちゃんの喜ぶ顔が見たかったのか、無意識に空ちゃんの頭をくしゃくしゃと撫でていた。
オレはズルいかな?
だけどほら、やっぱりすごく嬉しそうな表情をくれるから、こっちまで嬉しくて照れてしまう。
空ちゃんは、オレの顔を覗き込むようにして見て、軽く下唇を噛んではにかんで笑う。
くすぐったい。この空気。
可愛いって、やっぱり思った。胸がぎゅっとした。
「ちょい、ダメだって、そんな顔したら……」
いたたまれなくなったオレは片手で顔の半分を覆って小さく呟いた。
はぁー、と息をついて、意を決した。
無しでもアウトでもいい。
もう、この今の瞬間の気持ちは伝えなきゃ勿体無いと思うんだ。
「空ちゃん、急にでびっくりさせるかもしんないけど、まじ、連絡ちょうだいね。見ただけじゃ分かんないとこまでオレのこと好きになって欲しいから。」
うん、言って正解。
すごいきもちーよ。
なんかめちゃくちゃ楽しいよ。
さっきよりも赤い顔をして空はまた大きな声で素敵な返事をしてくれた。
きらきらした空ちゃんの瞳が、オレの胸を何回も刺激する。
もう少し話していたい気もするけど、時間切れかな。
この何とも言えない温い空気が、オレに染み付けばいいのに。
「ごめん、もう行くから。またねー。」
重たい荷物を持ち上げて手をひらひらと振った。
控えめに手を振りかえしてくれる空ちゃん。
背中に甘くくすぐったい視線を感じながらその場を後にした。
これからが楽しみで、今より幸せになれそうで、
わくわくもするんだけどやっぱり、
好きだなぁって。
***
それから何度かメールをしたりして、電話とかしてみたりもして、なんてゆうか、空ちゃんはやっぱり空ちゃんで、いつもオレの言動にいちいち可愛い反応をしてくれる。
そして、本当にバレーが好きな所とか、実は恐いくらいオレのファンだった所とか、知れば知る程好きになっていった。
今日も練習を見に来てくれている。
練習が終わって空ちゃんに手を振れば、くしゃっと笑いながら小さくだけど強く手を振り返してくれた。
一緒に帰りたいなー。そう思いつつ一旦目を離してもう一度空ちゃんを見たら、両手で覆った顔をぶんぶんと振って興奮気味だった。
すっごい喜んでるなぁ。
もしオレが「好きだよ、付き合って」だなんて言ったら、空ちゃんは一体どうなっちゃうのかと思う。
頭から湯気出してぶっ倒れるのかな。
あ、今見たいかも。
そう思ったオレは、急いで更衣室に戻ってメールする。
「一緒にかえろうかー」って。
「待ってます」っていう返事に気を良くして、オレは待ち合わせ場所を指定して急いで着替えた。
*
「ごめん!待ったよね?」
「全然っ大丈夫ですっ」
「あ、空ちゃん」
「はいっ」
「好きだよ。付き合って?」
正面に立ち、空ちゃんの目線に合うように腰を少し曲げて告白。
「えっ!?へ?すっ、すすす」
「好き」
「〜〜ッ、私もですっ!!」
ばふっという音を立てて飛びついてきた空ちゃんを受け止める。
予想外。
予想外に可愛すぎたよ。
エンド
アトガキ
なち様から頂いたリクエストの別サイドのリクエスト頂きました。あおい様、なち様共にありがとうございました。いやあ、楽しかったです。本当最後に少しだけストーリー付け足しただけで、面白味がありませんでしたかね、と少し心配です。イメージと違っていましたら申し訳ありません。長かったですが最後まで読んで頂きありがとうございました!