(あやち様リク)




来年も、こうして。




初詣




舞い散る雪。
暗い大空からきらきらと落ちてくる。

白い息が口から漏れる。
寒いなあと思って、隣の空と繋ぐ手に力を込めてぐっと引き寄せる。



「どしたの?」



頬を赤く染めて見上げ問うてくる空に

「さっむい」

と笑いながら返すと、「なにそれ」って困ったように笑う。



こんなに人が多いのに、屋台も出て賑わっているのに、儚げな気持ちになるのは何でだろうな。





今年の終わり

だからかな。



「あ、あと3分で今年終わりかぁ」



「え?もう?」



「うん。早いねぇ」



空の前髪に落ちた雪を目で追って、再び、はかないと感じた。



ふと、人混みから抜けて神社の一角に立ち止まる。



「今年はどうでした?」



空が落ち着いた様子で問いかけてきた。



「色々、学んだなぁ。」



今年一年を思い返しながらそう答える。


「空は?どうだった?」

「たーくさん笑ったし、たーくさん苦しかった。」



苦笑いを浮かべ肩をすくめる彼女に、俺も同じ様に苦い笑みを浮かべることしか出来なかった。

ただ言いたいことはよく分かる。


空にとってもオレにとっても、それぞれの事としてもお互いの事としても、苦しい一年ではあったんだ。



だけど、その上でこうしてまだ手を繋いで居られることは、本当にすてきな事だと思うんだ。

ありきたりな言葉でしか言い表せないけど、本当にそう思う。


「お互い、お疲れ様だったね。」



オレが空の頭に手を伸ばし、くしゃくしゃと撫でると空ははにかんで笑って頬を染めた。



「よく越えたよ、2人とも。えらいえらい。」



幼い子供を褒めるように言えば、空からも背伸びをして手を延ばしてきたから、ちょっと驚いたけど、空の手が届くように身をかがめた。

そうすると、オレの真似をするように「えらいえらい」と言って頭を撫でてきた。



大の大人がするには何だか可笑しくて、笑ってしまう。



もう一度、オレのせいで少し乱れた髪を整えるように梳いてやると、空は泣きそうな顔をしていた。



瞳をゆらゆらと揺らして、口を固く結んでいる。



「頑張ったもんなぁ」



オレはそんなありきたりな言葉を言って、片手で空の頭を自分へと寄せて軽く抱く。



「うあ〜、越えられて良かったぁ…」



悲観的ではなく安堵感のある声色でそう良いながら、控えめにオレにもたれ掛かる。



なだめるように背中をトントンと軽く叩いてやるとすぐに、もたれ掛かるのを止めて顔を上げた。
鼻を啜る子供みたいな顔が可愛くて、頬が弛緩する。



「鼻真っ赤だよ。」



言いながら小さな空の鼻先を人差し指と親指で摘む。


その時、





ゴーン、



低く腹に届くような鐘がゆっくりと鳴り響く。




「「あ、」」




鼻を摘まれて変な声の空と呆気ない声が重なった。



手を離し、改めて向かい合う。



「明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。」



「おめでとう。こちらこそ、よろしく。」




空が深々と頭を下げ丁寧に決まり文句を言うのに対して、オレは簡略に言いにこにこしていた。

年を越す瞬間に、一年間ずっと支え合えた人と一緒に居られることがまず嬉しくて。それから、年の一番最後と最初を空の隣に居られる幸せがどうしても顔に出るんだ。









御賽銭を投げ、手を併せる。



今年も空と一緒に支え合えますように。

あ、それから、今年こそ空の仕事が少しでも楽になりますように。



そう願って1人満足した。
隣の空も同じくらいのタイミングで目をあけた。



人も多いし帰ろうか、とまた手を取り歩き出した。




「邦広、何てお願いした?」



「えーと、空と一緒に居たいてことと、仕事楽になりますようにって…」



「えっ!?私のことばっかじゃん!」



「あ、ほんとだ。」



気付かなかったなぁ。
恥ずかしそうに笑う空が可愛いから良しとしよう。


「ちゃんと必勝祈願しなきゃ〜」


「あっ!忘れてた!もっかい戻ろう、」



「あはは!何よそれ。…あ、でも大丈夫だよ邦広。私がしといた。」



うわー、さすが空。
良かった良かった。



「そういえば、空は何て願った?」



「私はねぇ、邦広が怪我なく結果を残せますようにってことと、後は今年も一緒にって。邦広と同じ。」



指折り教えてくれる空の横顔は少しだけ照れているようだ。



「ん?あれ?空もオレのことばっかじゃん。」



「…ははっ、ほんとだ。」



しかも一つは同じことって。



「でもさ、私のことはちゃんと邦広がやってくれたから大丈夫だね。」



「おう。オレも大丈夫だ。」





今年、もしも去年よりも逆境に立たされて立ち向かう壁が高くても、空と一緒なら何も怖くないなって本気で思った。




来年の今も、こうして笑っていられたら良い。
この幸せの為に、頑張ろう。




「空、」


「ん?」



「えいっ」



道端で、ちょっと強引に抱きしめてみた。ぎゅーっと。




「く、邦広?どしたのっ」



「さっむいから。」




テキトーに理由をつけて言えば、空は「またそれ?」って笑いながら抱きしめ返してくれた。







「初抱き。」


「いただきました。」











エンド






アトガキ
すてきなリクエスト感謝です!初詣ネタでしたのにもうその時期から1ヶ月オーバーで申し訳ありませんでした。仲良しカップルを目指し、そして初詣の雰囲気を必死に思い出し、こんな感じになってしまいました。イメージと違っていましたら申し訳ないです!最後まで読んで下さりありがとうございました!