(葉月様リク)



あなたの
そんざい





you love





空の良いところなんてあげればきりがないし、悪い癖とかもそれも含めて好きなんだけど、1つあるとすれば、





「ぎゃーっ」




ちょっと、抜けてるっていうか。




たまげた叫び声を上げた彼女に驚き顔を向けると、すってんころりん、


しそうだったから、慌てて腰に腕を回して支える。



「あっありがとー」



ほんのり桃色に染めた頬でふんわり笑う空が可愛い。



「いいよ。もう、気をつけろよ」



笑いながら言ってやると、苦笑いを浮かべる空。


よく言われるんだ。どっかのライバルで親友の男なんか特に。「お前らほんま心配や、2人してぽーっとしやがって」って。


だからやっぱりオレがしっかりしなきゃなって思ったんだけど、案外あまり気負う暇もない。
オレよりも空の方がぽーっとしているから。









ある日、空は頭が落ちるんじゃないかってくらいに首をもたげていた。「
空?どした?」



問うと、瞳を潤してこちらを見てきた。
するとその瞳からはじわじわと涙が溜まってきた。



「え?まじどした?なんかあった?」



「邦広ぉおっ」



どちらともなく抱き合うと、あぁまた何かやったんだなと思った。
体と体が触れ合う所から感じる。そんなに心配する必要はないことを。



「なになに?」



苦笑気味に空の背中をとんとんと叩いてなだめてやる。



「邦広から、もらった、やつ、ネックレス、」



誕生日にプレゼントしたものだ。オレが空に贈った、初めてのプレゼント。



「あれっ、なくしちゃって…」



わんわん泣きながら伝えられた内容はあまりにも些細なことだった。



「なーんだ、そんなこと?」



わははって愉快に笑いながら言うと、ぽかんと口を開ける空。
だけど目からは、たぱーっと涙を流している。



「また、買ってあげる。」

「そういう問題じゃないっ!邦広からもらったものだもん。宝物だったのに…」



宝物か。嬉しい。



「いっぱい探したのにぃ…」
ん?あれ?待てよ。あのネックレス、つい昨晩見たぞ…



「いつから無いの?」


「今朝無いの気づいた…」


「…今朝?」



俺は「ちょっと待ってて」と空を離して記憶を辿る。

たしか、洗面所にあったような。


その場所に向かうと、案の定そこにはやけに輝くネックレス。



ちゃんと探したって、たぶん自分の部屋をちゃんと探したんだろうな。そりゃあ見つからないよな。

って、はぁ…。空の涙はあまりにも勿体無い。



「空〜、ちょっとこっちおいで。」



「なあに?」



泣きべそな空は、肩を落としたままこちらへゆたゆたと来た。



ネックレスを指さすと、空は落としていた肩を途端に強ばらせてそれを手に取る。



「あ、あ、あったああ!!」



声おっきいなぁ。
良かった良かった。


「邦広、ありがとうっ」


「ん、いーよいーよ。」



頭をぽんぽんと撫でながらふぅと息をつき言うと、先程の嬉しそうな華やかな表情から一変してしゅんとしてしまう空。


「ごめんね、いつも騒がしくて…。焦りすぎなの分かってるけど、なんかやっぱ焦っちゃって…」



空が反省してる。
そんな空を見ているとこっちまでしゅんとしてしまう。

だからほんと、空には笑っていてほしい。



「大丈夫だよ空。オレだってバタバタしてるじゃん。」


「けど…」


「大丈夫大丈夫。空に足りないとこは、俺が補えばいいし、俺に足りないとこは空が補えばいい。」



オレがへらへらと笑いながら言えば、空はばふっと音をたてて抱きついてきた。



「ありがと」



小さい声で呟かれた言葉は、オレの胸を暖かくするから、小さな空を覆う様に優しく抱き締め返した。




「ドジなの、直したい…」


苦笑混じりで空はそう言った。



「ドジなとこも好き。」



オレがそんなことを言ったら空は恥ずかしがって黙ってしまった。



「あ、空だから好きって意味だよ。」


次いで告げたら、腰に巻きつく腕の力が強まった。



「空なら悪いところも全部が好き。」



何度言っても足りないのに、それ以上の言葉をオレは思いつかない。
空は黙ったままだけど、もう一度。



「だって、それが空だから。オレの好きな。」



そう告げて空をゆっくり離すと、真っ赤な顔をした空は俯いている。



「空?」



「…っ、て、照れるんだけど!」



あーもー、思った通り過ぎる。
普段こんな話しをしないせいか、「好き」という響きはすごく新鮮。
好きって思うことは常にあるけど、言葉にすることは少なかったりする。


照れた空の顔が見たくて、垂れ下がる空の横の髪を梳くようにしながら赤い耳に掛けてやる。

そして、熱い頬に手を添えて顔を上げさせた。



「かーわいい」



だらしなく笑いながらそう言うと、空はぷくっと頬を膨らました。


もう気を落としてそうもないし、ひと安心。



「ばかにしてる?」


「誰が誰を?」


「邦広が私を!」


「してないしてない。人のことバカに出来るほどオレはえらくない。」


「あ、そっか。」


「いや納得するの早い。」



さっきまで無駄に泣いていたくせに。なんて心の中で悪態をつくと、なんだか可笑しくなってきて、ふっと小さく笑ってしまった。



「なに、なんで笑ってるの?」



「なんでもない。ほら、また無くす前につけとこ。」



じろりと見てくる空の手からネックレスを取って後ろを向かせてつけてやる。



「あ、ありがと、」



ネックレスをつけてあげたら、ちょっと焦ったように礼を言われた。

そのまま後ろから抱きしめてみると、空の肩がぴくりと震えた。



「コレ、宝物?」



耳の横でそう問うと、頷く空。
あ、また耳赤くなってきた。



「へぇ、宝物かぁ。」



「なによう、」



「嬉しいなって」



緩む口元を空の髪につける。

胸の奥の方が暖かくなって、空に対する想いが強まってきた。

これってやっぱり言葉にしたからだろうか。
言って伝えたぶんだけ、また堪らなく「好き」が溢れ出す。





何度も言ったって構わないけど、「好き」って言う千回分くらいのキスがしたい。




首に口付けると、空の身体が強張る。




「ちょ、と、邦広?」




あ、やば。
なんか今日は変だ。



空の向きを変えて、正面から口付けようとした。



そう、口付けようとしたんだけど、ガタンガシャンバチャンという不吉な三拍子が聞こえてそれは遮られた。



迫るオレに少し下がった空の手が、洗面台に先程オレが置いたケータイに当たって、そのケータイが空が下がるにつれてズルズルと移動したようだ。

そして、近くに置いてあった水を張ったコップと共に落下。


見事。床にじゃなくて、ちゃんと洗面台の中に落ちたオレのケータイとコップの水。




ん?ケータイと、水?





「「わああっ!」」




2人して叫んでケータイをとりあえず救出。

空は急いでタオルを持ってきてくれた。



「わあ…水没。」



ケータイを拭きながら虚しく呟くと、空が眉を寄せた。



「ご、ごめんね?」



「いや、大丈夫。オレがこんなとこに置いたのが悪い。」





そうそして、急に空に口付けようとしたのが悪い。
驚くよなあ。普通に。



いやでも、良かった良かった。
たぶんあのままキスしてたら、今のオレなら止まらなくなっちゃってたし。






まだあわあわとしている空を横目に見てそんなことを思った昼下がり。













たいせつな
そんざい









エンド





アトガキ
長くなってすいません。どうにかまとめようと思ったのですが、長いですね。葉月様、素敵なリクエストをありがとうございました。清水くん、彼女にベタ惚れみたいな感じになっちゃいました。イメージと違っていましたら申し訳ありません。最後まで読んで頂きありがとうございました!