あぁ、

俺が立つ場所は

こんな気持ちで立ったらいけない。





そのままでいい





座る俺の前にそびえ立っている目の前の彼女は両手を擦る。
そして右の手のひらにハァと息を吐きかける。
9月といえどまだまだ暑さは残りまくっているこの時期にしては可笑しな行動。



俺はただそんな空をぼぅっと眺めてた。


そんなときだ。


だいぶ暖めた右掌を振りかざしたのに気づけば、すでに俺には雷のようなバチコーンと言う音と共に俺の左の頬を空の掌が叩き飛ばしていた。



目を瞑るヒマも、勿論避けるヒマも無かったよ。


俺はまだぼぅっとして、なかなか思考が開始してくれない。


やっと動いた腕は、ビンタされた頬を抑える。
熱を感じる自分の頬を確かめると、何事かと空を見る。





「中途半端な気持ちなら辞めてしまえ!!!」




叫び散らす空は唾と涙とついでに鼻水も散らす。

しかも既に言葉遣いはセンセイのようだ。



「辞めたいなら辞めなさいよお!!他にもっとコート立ちたい人だっているのよ!?代わりもたくさんいるわ!」



「空…?」




「だめなのよお…一言でも辞めたいなんて言ったらぁ…冗談でもぉ、ダメなのお…!!」




そう。俺はキツイ合宿を終えて試合も終えて、自分のチームに戻ってから、調子があがらなかった。

全日本とそこでの温度差に戸惑ってた。

そこで
優しい空に甘えて弱音をはいた。



その結果がこの頬。
未だジンジンと痛む。


いつもなら弱音を受け止めてくれる空。




「思い上がってんじゃないわよばぁっか!!!」



こんな怒る空は久々。酷い言葉はもう慣れてるし空の愛情表現って知ってるから、平気だけど…、



「空?ごめん空。俺が悪いな、」




「だいたい!!!」

謝る俺を他所にお怒りの空は叫ぶように続ける。




「無理しすぎなのよ、よしひこ。」



相変わらず一方的に話し出す空に俺は疑問符を隠しきれなかった。




「抱えきれないくるしさなら分けなさいよ、私に分けても消えない痛みなら…」



一呼吸置いて落ち着いたら空は、命令口調のまま強気で言うわりに泣きべそだ。



「分けても消えない痛みは、いっそのこと引き連れていっちゃいなさいよ。
そんでいつもみたいに飄々としてみなさいよ。できるでしょ?」



辛いばっかじゃん。
手厳しく叱ってくる空は珍しく久々。





「いちいちマイナスの方に変わらなくていいのよ。
―…いいじゃないそのままで。」



「空…」




「なによ!」




「久々だね、そんなに起こるの、」



「よしひこが久々に弱音吐くからじゃない。
…もう辞めるとか言わないでね。」




「うん、ごめん。」



「辞める、じゃなくて何が辛いのか言って。」



「分かった。」




「じゃなきゃ、またビンタだから。」




つんとしなから空はいうけど俺は少しだけ笑った。





「それでいいの。北京んときみたいなよしひこのままでいい。無理して強くなることもマイナスに下ってくことも無いんだから。」




そう囁いたのを聞き逃さなかったけど、今は黙って置いた。








もしも君がおかしな方へと足を勧めかけたときは
私がひっぱたいて向き直させてあげるからね。
君は君のままで私の目標のままでいて。


そのままの

君でいて。







(乱暴でごめんね、)





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