幸せの朝の理由





二人で寝そべるシングルベッド。
お互い裸なのも気にせず、1つの布団をかけている。



わたしは何故か慶彦が愛しくなって、可笑しな事を口にしていた。




「まつやん、」



「…なに?」



私が突然そうやって呼んだもんだから、慶彦の声はかすれてた。




「もしもね、私がまつやんに、バレー止めてくれなきゃ嫌だって言ったらどうする?…いや、ホントもしもの話。」



二人して天井を眺めて言う。




「やめるかなーあ。」



慶彦がそう言ったから私は心底驚いた。




「いや、嘘だけどね。」



嘘かい、
なんてずっこけるような空気でもなければ、冗談かます空気でもないと思うのはどうやら私だけのようだ。




「てゆうか、その呼び方今はしないで。」



慶彦は寝返りをうつようにして私のほうを向きながらそう言った。



「へ?」




「まつやんって、」




「あぁ、慶彦ね、」




すると慶彦は満足そうに微笑んだ。(きっとその微笑は私以外の誰もが満足そうとは思えないだろうけど長年の付き合いからして私はギリで分かった)




「で、さっきのハナシなんだけど…」



私も慶彦と向き合うように寝返りをうちながら話をもどしてみた。





そして慶彦の細長い手を握って繋いだ。


実際自分でも、慶彦のどんな言葉を求めてるのか正直解らない…。




「おれ、そんなん絶対選べねー、」



少しだけ口端をつり上げて言った。




「でも、空の為にバレーしてるもんなあ。」



「え?」



慶彦はそういいながら私の前髪を撫でた。


「だって、バレーしてるおれを見る空が、すごく幸せそうに見える、」




「…ふふっ」



自然と笑みが溢れた。



「おれの気のせい?」



「ううん、たしかたしか。」



繋いでた手に力がこもった。




「おれのやりたいことで空がつらいなら止めるかもね。」




「っ幸せだから頑張ってね。」




いつしか必死になって応援してしまっていた。



慶彦は優しく微笑んだ後に私に触れるだけのキスをした。




「うまく言えないけど、すごく、大切だから、空が。」




照れくさそうに、だけど言葉を貴重に扱ってそう言ってくれた慶彦はちょっと赤くなっていた。





私は慶彦の胸板にぴったりくっついた。





「慶彦も松本選手も大好き。」






とにかく愛されてる。
バレーしてる慶彦も好きな私は愛されてる。




こんな愛しい朝があるなら、ずっと朝がいい。

こんな愛しい朝がくるなら、ずっと生きていたい。

ちょっとずつ開いて聞いて
愛を確かめて。




それだけでもう、何もいらない。








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