1人でも大丈夫。
あなたが居ても居なくても変わりはない。



そんなのは





「終わりにしよう、俺たち。」



突然告げられた言葉。
最後までカッコイイ女でいたい、そんな強がりを盛大に発揮した私は泣きもしなかった。



好きで、好きで好きで、愛している慶彦が離れていく。
心底呆れたように目も合わせずに、離れていく。










あれから、何日たったかなんて、覚えていない。

だけど、暗く苦しい夜を何度越えたかは覚えている。



日常で当たり前にいた慶彦の姿が居なくて。
幻覚さえ感じてしまって、朝起きたらだいたい睫が濡れていた。


頭を押すように撫でる慶彦の手のひらの感触は、いつも撫でてくれていた場所が覚えていた。


私も大人だし、それなりの恋をしてきたから、別れがいつかあることくらい知っている。
だから、辛くない。そう思っていたのに、


知ってしまった。
人生で一番好きな人は慶彦だったということ。



あぁこれが、そうなんだね。
失ってからしか気付けないなんて、人間の機能はどうかしてる。



普通な日常。
慶彦と付き合う前に戻っただけ。

それなのに、一度覚えてしまった慶彦の纏う、ゆるくて、自由で、ふんわり漂う微かな暖かさとか、そんな独特な雰囲気に触れられないことが物足りなく感じる。



好きなんだ。今でも。

思い出が、幸せすぎる。





慶彦が視界に入ると、胸が潰れそうだ。


職業上、別れてからも慶彦とは関わる。



「空?大丈夫?」



ぐっと眉をよせる私に、慶彦が聞いてくる。
彼氏でもない、ましてや私のこと好きじゃないような人が、心配そうな顔をしてくる。



涙が、とうとう溢れた。

あぁもう、出るな。
そう思っても、ぱたぱたと頬をつたう。



「空…?」



やめて、やめて、どっかいけ、慶彦。
そんな願いと裏腹に、慶彦はゆっくりと近付いて、私の頭に手を伸ばす。



ぽん、と私の頭にのった慶彦の手のひらは、押すように撫でる。あの頃と同じ。
せっかく、せっかく少しずつ忘れていたこの感触はまた、私に刻まれた。




「空、どした?」


…優しくなんて、しないで。



「そんな気ないくせに、優しくしないでよ…!」



泣きじゃくりながら、叫ぶ私はガキで、バカで、だけど、悔しくて。

なんで、なんで私は動けないの?



「忘れようと、してるのに……」



喉が熱い。振り絞る声は、慶彦まで届いただろうか。



消えない過去が、苦しくて苦しくて、忘れなきゃ前に進めそうもなくて、前に進みたいから、忘れようとしてるのに。



困った様子の慶彦は、手を離し、行方を失ったその手は自分の頭をかいた。



「…空。大好きだった。」



そんなこと、言わないで。
お願い、やめて。



そうやって慶彦はまた私を1人動けないままおいていくんでしょう。



あなたのその「好き」というたった2文字で、私はもうきっと、進むことが出来ない。

今、慶彦が私のことをもう好きじゃないとしても。






出会わなければ良かった。



好きになりたくなかった。





だって意味がない。
得たものがない。
なのに失ったようなこの感じは一体なんなんだろう。




「ごめん。」




あぁ、面倒臭そうな顔。被害妄想かな。
口先だけの言葉。すべてが悪く見える。

心が、ない。




どうせなら、嫌いにならせて。
そんな願いからだろうか。
慶彦が悪い人みたいだ。




止まらない涙をとめたくて、一度冷静になってみる。



ごしごしと目を擦って、目も合わせずに私の口をついて出た言葉は、心無いものだった。









「だいきらい」















そう、これも嘘。

本当は私まだ慶彦が好き。忘れられない。



あとどれだけ涙を流したら、この恋に決着がつくのだろうか。












エンド




※書き直し予定あり