どうしてそんなにも

辛い道を選ぶ?


今自分に出来ることがあってる?



こんなに切ない運命だとゆうのに


どうして俺らは惹かれあった?






"「ゆ…う……、」"



夜、ケータイが震えた。
画面を開くと
空の名前。



俺は、何かを考える暇もなく、電話にでた。


すると、

聞こえたのが空の震えた声だった。




「空!?どうしたの?!今どこッ!?」




自然と立ち上がった俺は落ち着く事を忘れた。


生ぬるい風が俺を撫でた。



ぞっとした悪寒は、春には冷たすぎる。




小さな聞き取りにくい空の
「公園」と言った声に、俺は急いで家を飛び出した。




空は、俺がサントリーに入った時から知り合った(マネだった)女の友達だ。



空には彼氏がいて、俺の出る幕はナシ。


…一方的な片想い。


ついこの前も



「優とは大の親友だよ!!」



なんて、嬉しいのか悲しいのか複雑な言葉を浴びせられたばかり。




公園についた俺は辺りを見回した。


直ぐに見つけた。ベンチの上。


うつむき座る空。




直ぐに駆け寄って空の前にしゃがむ。



「空!!」



びくっとはねあがった空の顔は

酷いものだった。



唇の端は青くなってて、目は腫れて赤くなって、顔色はこれまでみた事がないくらい悪かった。



「ゆぅ…」



か弱く、聞こえるか聞こえないかぐらいでそう呼べば、
ふと倒れて、俺によりかかった。



俺は状況が読めた気がした。


空の彼氏は、暴力男。

前も何度かアザを作ってたのを知ってるし、
実際、暴力をふるわれた空を見たことがあった。



あの時俺は、空を守ろうとしたんだ。

だけど、


空の彼氏は

「何もしてない、」と言って帰った。



とりあえず俺は
空をベンチに横にさせた。


目を閉じてる空の頬には涙の跡があった。






………



「…ん、」



空が顔をしかめた。


そしてゆっくりと起き上がった。


目が覚めたみたいだ。



「何があったか、教えて?」




辛いけど、言ってもらわなきゃ何も起こらないだろう。


俺はそう決断した。



「彼氏にやられた?」




口をつむって開けない空に俺から問いかけてみれば
思ったより安易に頷いた。




「とりあえず、うち近いから来なよ。傷、手当て,しなきゃだし。」



ゆたゆたと覚束ない足取りの空の腕をもってゆっくり歩くのもなかなか
じれったかった俺は、空をおぶって自宅までついた。



………


「いたっ」



「よし、OK」



空の口角に絆創膏をつければ、俺は本題に入った。




「やられたのは何回目?」



「わかんない……」



空は、俺が淹れたコーヒーを一口のんだ後答えた。




もう、別れろよ。



俺がそう言おうとした瞬間、空が薄めに笑って言う。



「なんで別れないのって思った?」



驚いたけど、そのまま頷いた。



「あの人は、私を思ってくれてる。愛してくれてる。
暴力だって、それは、愛してるからやってしまうものだと思うの。あの人にとって。」



暫く

黙る事しか出来なかった。




なら、どうして空は今ここにいるんだ?




「けどね、やっぱり怖くなるの。
でもそんな時、こんな風に優が居てくれる。
だから…辛くても、怖くても、平気な気がする、」




だけど俺は空に何もしてない。




俺なら、
まず、空に怖い思いさせたり、辛い思いさせるような事はしない、



そう思った瞬間、空は俺の心を読んだかのように言った。





「やっぱりでも…私はあの人と別れる事が最大の恐怖だよ…。」




そう言って、泣き出した空。




「恐怖の中での恋愛ってどうなの?」



思わず俺は言ってしまった。





「空は相手を愛してる?」



「うん、ちゃんと愛してる。……皆、早く別れろってゆうの…。そんなこと言って
私から幸せを奪うの、
優だけは、分かってくれるよね、」




俺は得体の知れない何かの狭間で、息が出来ない感触がした。



「1人になるのが、怖いのは、あるかもしんないけど、
空の彼氏がしてる事は、愛なんかじゃない。」




俺が言えば、空は潤んだ瞳で俺を見ている。


「ゆう…」



「…辛い、はずでしょ。でなきゃ、空はここにこないじゃん、」



俺より空が辛いのは知ってる。
こんな言葉が欲しい訳じゃないのも知ってる。



だけど、



大人になれない俺は、大粒の涙を流す空をほっとけなかった。



優しく、優しく、
俺なりに、かなり優しく
空を抱き寄せた。



「ゆう…、違うの。彼がわたしを殴るのは、わたしが悪いから。」



「空は悪くない。」



抱き締めたままの会話。
妙に胸がチクチクと痛む。



「彼はわたしを愛してくれるたった1人の人だから、」



「そんなことない。」



「辛くても頑張れるの。孤独より、ずっと平気だと思うの。」


「…。」



泣きながら言われたって、説得力ないだろ。




「空の事を愛してるのは、あの人1人なんかじゃない。」



俺は、空の幸せがあればいいんだ。

今、空は
幸せなんかじゃないだろう、




「俺が……、」



言いかけた時だった。

空の携帯から音が鳴る。


着信は、


彼からだ。



空は、携帯を通した相手の声と会話をする。

「ううん、大丈夫…わたしこそごめん、…約束ね、」


泣いてた筈の空が、

あんなに辛そうだった空が


あんなに幸せそうに

  微笑んでた。




幸せを
空の幸せを1番に願うんじゃなかったのか、

今俺がやってる事はなんだ、

違う、
だろう。




携帯を切った空。



「ごめんね。もう、帰らなきゃ。」




「空。」



呼び止めてしまった事に、俺は遅くもしまったと思いながら、


「…ごめん、なんでもない!また、辛くなったら連絡しろよ。」



きっと今俺は、これでもかって程切ない顔をしただろう。



それでも空は

また涙を溢して「ありがとう」と笑った。









親友でいい。


君が幸せであるなら俺は


これでもいいよ。


ただ

許せる訳などない、

なのに俺は
何かをする立場でもない


せめて
人知れず辛い道を選ぶ君を
サポートしたくなった。


それが君にとって幸せだろう。


それが



二人の間の幸せな関係だろう。












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