暖かい風で君の柔らかい髪を靡かせて乾かすときに感じる、この気持ちを、

一言で現すにはあまりにも足りないのに、

長々と語るには軽すぎる。




                blow





俺の足の間に座る空。
風呂上がりでシャンプーの自然な良い香りがする。



タオルを頭にかけてのんびりとテレビを見ながら髪を拭く彼女。

オレンジ混じりの茶色の短い髪は量が多い。


そっと後ろから、空の頭のタオルで拭いてやる。



するとくるりとこちらに顔を向けて、満足そうな笑顔を浮かべる。



「拭いてくれるの?」


「おう。テレビ、見てていいよ。」


「へへ、ありがとう。」



照れたように笑う空が可愛くて、こっちまで照れてしまう。
こんなことは実はよくあることで、2人してだらしなくヘラヘラしていることはしょっちゅうだ。



空の髪をわしゃわしゃと拭く。


線の細い髪の毛の一本一本まで愛しいと思うのは秘密。

だって、いっつも言われるんだ。「大輔は恥ずかしいこと言い過ぎ」って。


元々、気持ちは言葉にしたり行動に移したりしないと不安になる性分ではあるんだ。

それに、いくら言っても足りないくらい好きなんだからしょうがない。




「きーもちーい」



そんな空の微睡んだ声が聞こえてきた。



「ほんと?あ、ドライヤーする?」


「え、ドライヤーもしてくれるの?」



空の後頭部との会話。



「いいよ?」



そう返せば、空は立ち上がって、「取ってくる」と小走りでそれを取りに行った。



少しするとまたパタパタと戻ってきて、俺の足の間にちょこんと座った。



「お願いしますっ」


「はいよ。」



機械的な風の低い音を立てながら、空の髪に空気を持たせる。



柔らかい髪質で、指の間を少し熱いくらいの温風と共に流れていく。

その温風に乗せられて、浴室のような香りも漂う。



「大輔ー」


「ん?」

ドライヤーの音のせいで聞き取りにくい空の声。



「眠たくなってきたー」



欠伸混じりにそう言う空は素直だ。
俺とおんなじくらい素直だ。



「寝たらだめだよ?」


「なんでー?」


「もうちょい俺の相手して。」


そう返したら、空からの返事は返ってこなかった。

何か言ったのかもしれないけど、聞こえなかった。



十分髪が乾いたから、ドライヤーを切る。



そうしたら頬をピンクに染めた空が顎を目一杯上げて、後ろの俺を見上げてきた。
だから俺も天井を向く空の顔を覗きこんでやった。



「ありがとうございました。」



「いえいえ。」



丸い額とか、温まった色をする頬とか、なんだか無性に可愛くて笑ってしまった。



せっかく、小さい空が少し無理な体勢をしてこっちを見てくれているから、何もしないのは勿体無い。



逆さまの空の顔。
唇に口付けた。


目を開け口を離すと、「うわあ」なんてうなだれて、体を横に向けて俺の胴体に抱きついてきた空。



「ごめん、なんか、衝動的にしたくなっちゃった。空が可愛いから。」


俺が言えば、空は「いーけど!」なんて言いながらも嬉しそうに笑っている。



「大輔、恥ずかしいこと、言い過ぎだってば…」



「え?うそ、どこ?」



あんまり言っている意識はないんだけど。



「可愛いとか、言わないで。」


「いやそれは空が恥ずかしがりすぎだよ。」



「そんなことないー。」



ぴったりくっついて離れない空。
うんー、やっぱり「可愛い」って言ってやりたい。



「俺さ、空の髪好き。触るのすげー気持ちいい。」



頭を撫でながら言うと、これまた空がスゴいこと、言ってくれた。



「私は大輔のぜんぶ好き。」



「え…だったら俺も空の全部好き。特に髪がってこと。」


「私は、特に大輔の笑顔が好きかなぁ。」



笑顔?そんなん聞いたら俺ずっと笑ってられる。死ぬまで、死ぬ瞬間まで、いや死んでからも笑っていられる。



「だったら俺、ずっと空のために笑ってる。」


ぱっと見上げてきた空。

だから俺はにんまりと笑ってやった。



「それ、ほんと、瞬殺だからね。」



そう言いながら空は照れてはにかんだ。


いちいちこうして照れてくれるから、俺も素直に言葉にたいと思うんだよ。



「俺まじこの顔で良かったー。」


「…顔だけじゃないけどね。」


「まじで?」


「うん。」


「やった。じゃあ言うけど俺も空の全部好き。いとしーってこれかって感じ。」



また、言い過ぎか?って思ったけど、俺はこれでスッキリしたわけでありまして、空が俺の腕の中で顔を熱くさせていようと、口は止まらない。



「空、また髪乾かしたげる。ほんと、俺こうしてんの好きだから。」




俺の足の間で座る感じとか、乾かした後でそのまま体重預けてくれたりだとか、このふんわりと暖かい雰囲気が大好きだ。





「じゃぁ、よろしくお願いします…」




俺の胸に顔をくっつけたまま照れ屋な空がそう答えた。






あたたかい風はいつまでも

俺の手を絡めた君の髪を撫でて

ふたりの頬を赤く染める。









エンド