紙一重だとおもう。
不幸と思える時点で幸せだなんて
君にしか言えない。
幸と不幸
僕の彼女は下半身不随で車椅子生活を送っています。
いつもこの公園の並木道を散歩する。俺が練習や試合で疲れはてた時は少し休んで夜に行ったりするんだけど、今日みたいな特別な日には、夕日の眩しい木漏れ日を浴びながらゆっくりと空の乗った車椅子を押して歩く。
「誕生日おめでとう、空」
「ありがとう、たかあき」
この散歩は退屈な日々の中で一番の楽しみだと言う空は、幸せそうな声でいって振り返り笑った。
「だいぶ涼しいね。」
風が吹いて空の髪を靡かせた時に、おもったよりも冷たい風が俺の頬を撫でていったものだから、思わずそういった。
「去年はもっと暑かった気がするな。」
俺たちを吹き抜けて行った風のように微かで穏やかな声で空は言った。
「嬉しいなあ…」
続けて空は呟いたから俺は「何が?」と小さく問いかけた。
「今年もたかあきとこうして居られる事が。…私は幸せ者ね。」
女の子らしく鼻でふふっと笑った空。
あれだけ絶望を体験した空が幸せと言える事に、俺は強い違和感を感じた。
それと一緒に何故か切なさもあった。それが何故かなんて俺が知ることもなく。
空はバレーが好きだった。俺と同じくらいバレーが好きで、下半身が動かなくなるまでは、プレイヤーとしていた。
襲った悲劇は事故。
あのとき俺は誓った。
見てられない程にかれはてた空を見て。
空を守ろうと。
「わたし、たかあきが居なきゃここまで生きて無かったよ。…あの時、バレーを失った時からわたしは、人生も終わるとおもってた。バレーが私の人生だったからね、」
俺は足を止めた。
「どうしてわたしなのって、わたしだけが辛くて惨めで不幸ものだと思ってたの。
だけどね、たかあき。」
「ん?」
震え出した空の声に切なくなった俺は声が少しだけ強ばってかすれた。
「たかあきが居てくれたから…。」
俺は空の前に行ってシャガンで目線を合わせた。
「不幸だと思えることだけでも幸せだなって思った。たとえ…歩ける足がなくても、ジャンプする足がなくても、今出来ることがあった。それが…たかあきの為の存在になること。」
淡々とはなす空の瞳はとうとう、溢れ出す雫を留めきれずに溢れ出す。
「ありがとう、」
空は鼻と目を真っ赤にしてそういった。
こっちの台詞だよ。
俺は空がいたから、ここまで這い上がれたんだ。
自分には立派な足があって、ちょっとやそっとでへこむなと教えてくれたのは、紛れもなくこの目の前の空だろう。
「こちらこそ、ありがとう。」
そう伝えたら空は小さく笑った。
「幸せのすぐそばに不幸ってあって、同じように不幸のすぐそばに幸せってある、のよね?」
いつだったか俺が空に言った言葉。空はよく言う。こんなに強くなった空はどこかまだ切ないけれど、現実を受け止めてまだ頑張る空は、俺の守るべき人であり、それと同時に憧れの人。
自分一人が辛いという思い込みはヤメにしよう。
誰かの為に生きてみよう。
そうすればあらたな木漏れ日が君を包むから。
絶望の狭間に希望がある。
希望の狭間に絶望がある。
幸と不幸もいつだって隣り合わせだ。
教えてくれたのは君だ。
たったひとりの
かけがえのない君なんだ。
「そろそろかえろうか。」
エンド
アトガキ
たまにはええんでないかい。