俺も忙しいし、
俺以上に、彼女だって忙しい。
俺に迷惑かけないようにしているんだろうけど、

もう少し、寂しがって欲しい。


あぁ、俺はわがままかな。




言葉





クリスマスがやってくる。
街もだいぶクリスマスカラーに彩られちゃったりして、周りの奴らの脳内もジングルベールとかって鳴っちゃって浮ついてる。



クリスマスは彼女と過ごす。なんて決まりはいったい誰が考えたんだ?

彼女が居たって、一緒に居れるわけじゃない。


あぁでも、プレゼントくらいは、あげたい。


…いや。出来るのなら、俺だって彼女と過ごしたい。



そう思い、携帯を開く。
忙しいかもしれないが、電話をしようと思う。


すると、規則的な機械音を鳴らす俺の携帯。
驚き液晶を覗くと、そこには「空」の文字。

空から電話だ。



「もしもし。」


『もしもーし、空です。』


「すげー。今俺も空に電話しようとしてた。」


『うっそお!すごい!』


けらけらと笑う空の後ろが騒がしい。街かどこか出歩いているのだろうか。
サービス業だからか、あちこち走り回る空をいつだったか見かけたことがある。


「な。すげぇな。…で、どした?」


『あ、えーっと、私来週の日曜日、休み何だけど、会えないかなって…』


「来週の日曜日、か。うわ、俺試合あるわ。」


最悪。まぁいつものことだ。
どっちかが休みならどっちかが用あるし。


『あぁ、そうっかあ…。なら、しょうがないね。』


こんなときはどうすべきか。
世間一般から見る俺は器用なのかもしれないが、実際はそうでもない。
周りに劣った部分を埋めるために努力してきたものが、器用そうに見えるだけであって。


「あ、夜からでも会う?」


『いっいいよ!疲れるんだろうし、気にしないで?また今度にしよう。』


ほらねー。いっつもそうやって言う。
俺は空に会いたいのに、空は俺に会えなくても大丈夫みたいで、なんかちょっと気に入らない。
でもここで俺が意地張ったってな、


「いや、俺が会いたいし…」


素直に笑いながら伝えると、受話器の向こうの空が黙り込んだ。

まずかったか?
今のは言うべきことではなかったか?

探るように「もしもし?」と言ってみる。


『えっ、あ、ごめん。えーと、じゃあ…お願いします。』


やべー。顔見たい。
すっごい嬉しそうな顔、してる気がするんだけど。





***




今日の試合は絶好調だった。
何だ、このあと空に会えるってだけでこんなに調子に影響するとか…俺は女子か?



仲間達に小突かれつつも、いつもより急いで空との待ち合わせ場所(いつも待ち合わせる場所は街の時計の下って決まってる)へ向かう。



手を擦り会わせ、寒そうに立つ空。
久しぶりに見る。

あぁなんか、ちょっと痩せた?
髪伸びた?

話したいこともたくさんある。
やばい。これは、どうすればいいんだ。


「空!」


「裕太ぁ!」


呼ぶと嬉しそうにくしゃりと笑う空。

思わず、抱きついてしまった。

最初は戸惑っていた空も、少ししたらぎゅっと回した腕に力を入れてくれた。


「うわー。空だ。」


「あはは、裕太だあ。久しぶりすぎるよー」


つま先立ちになってしまってる空。
可愛すぎるでしょ。


「ごめん、恥ずかしい?」


公共の場でこんなことをしてしまうなんて、いい歳して申し訳ない。そう思いつつも、離さずにそう問うてみる。


「恥ずかしいけど、嬉しい。」


なんとも空らしい返答。
見たくて見たくてしょうがなかった空の顔を覗き込む。


少し顔を赤くして、照れた様な笑顔。


あぁそうだ。この顔に、会いたかった。


久しぶりに会うせいか、破壊力がすごい。
空の行動一つ一つが俺の心臓を突っつく。



「なぁ空ー」



きらきらとしている街で手を繋ぎながら歩く。
そして呼びかけてみる。

「はぁい?」


「クリスマス、仕事?」


「うんー、たぶん仕事かな。」


残念。日を変えてまたプレゼント渡すしかないか。
今日じゃ早いし。


「あ、でも…、会いたい、なぁ…」


うっわ。まじか。
なんこの可愛さ。
大丈夫かい、俺は。


「じゃあ、会おっか。何時になっても大丈夫だからさ。」


頭をポンポンと叩いてやると、肩を竦める空。



「あとさ、空。気にしないでいいからさ。会いたい時には会いたいと言いなさい。」




目線を合わせる為に身体を屈めて言えば、目をまん丸に見開く。
そのまま、「はい」と呟く空。
俺はゆっくり笑って「よし!」と言ってやる。



久々に空と会って、気付いたことが1つある。

空だって俺と同じ気持ちだったってこと。


空から言葉を貰った訳じゃないけれど、顔を見たら分かるんだ。
俺から言葉で伝えたことは少ないけど、どうしようもなく抱き締めたくなるこの気持ちだけで、分かるんだ。



「裕太〜っ!」



ふと急に叫んで抱きついてきた空。ばふって音を立てて、ジャンピングハグ。
驚いたけど受け止めた。

「どうしたどうした」


笑いながら言えば、同じように「ははは」と笑っていた。



クリスマスプレゼントは何にしようかな。




「好きだよ。」



「へへっ。私も好きだよ。」



「うん、知ってるよ。」



「公共の場でこんなことしちゃってごめんなさいね?」



「お互いさまお互いさま。」





言葉って大切だ。あんまり考えすぎない方がいいんじゃない?って気になる。








(信じること。言葉にすること。)






エンド






アトガキ
米山さん初めてです。なんだか毎日24時間いろんなことを考えているけれど、案外軽め軽めに考えていて、やっぱりすんなり問題解決しそうなイメージがあるんです。優しいけどアツい人なイメージです。
ごちゃごちゃしてしまいすいません!ここまで読んで下さりありがとうございました!