風邪ひくとさ、途端に不安に煽られて、訳も分からず寂しくなって、急に泣きそうになっちゃうよね。


これってどうしてだろう。


こんな私を、ゆるしてくれるかな。





give




『は?熱?』


「んー、だからさ、うつるとだめだから、今日家来たらだめだよ?」


『はぁー、…まぁゆっくり寝ときな?』


「はぁーい。」



受話器から呆れた声が聞こえてくる。
呆れたような言い方するのに、最後の一言は温かみに包まれていて、私の鼻の奥はツンとなる。



半1人暮らし。
もともとは私も達哉も1人暮らしをしているのだけど、ここ1年くらいはだいたいどちらかの家にどちらかが入り浸ったりする。
同棲ほど一緒にはいないんだけど。

帰るのめんどくさーって時は泊まるし、明日早いんだーって時は帰るし、みたいな。
合い鍵あるけど。




人肌恋しい、本当に甘えん坊になってしまう。
だけど達哉は試合まだまだあるし、風邪ひかすわけにはいかないし、

そんなことを考えているうちに、深い眠りにおちていっていた。



ガタン、と言う玄関が開く音が突然、静かな部屋に響き私の耳にも届いた。



部屋も私の身体もあまりにも静寂だったせいで、その音がやけに大きく響いたから、私は驚き目を開けた。



誰かが来たんだ、とそれに気付くには時間はかからなかった。

聞き慣れた声がすぐに鼓膜まで届いたからだ。



「起きてへんかな、」





独り言のような呟き声。
柔らかく訛る達哉の声。




「おー、おったおった。」



いつもよりも静かに喋る達哉は、相変わらず饒舌でぺらぺらと口を動かすけれど、煩くないのは彼自身が非常に落ち着いているからだと思う。



私が仰向けに寝るベッドの縁にゆっくりと腰掛ける達哉。



「あら、思ったよりしんどそうやん。」



私の頭をくしゃくしゃと撫で回しながら、顔を覗き込んでくる。



「うつるから来たらダメって…」



「アホ、彼女がツラい時に一緒に居らんで何が彼氏やねん。ほんまに俺来ぃへんて思た?」



うん、確かによく考えたら達哉なら何を言ったって来てくれるよね。だって、私だってもし立場が逆なら達哉と同じことしてた、って思いながら、笑いながら問うてくる達哉を見つめた。




頬に触れた達哉の掌。
その生々しいリアルな温もりが、あぁ私が求めてたやつだって気付かせてきた。



今一番欲しかったものだ。

私ももう子供じゃないんだし、しっかり気張ってなきゃと思っていたんだけど、目がじんわり熱くなるのを堪えきれなかった。



「熱ありそうやな。飯食えそ?寒くない?」



ビニール袋には先程買って持ってきたと思われるものがたくさん入っていて、その中から、てきぱきと熱冷ましのシートを出しながら聞いてくる。



「ご飯はいらないかも…、寒くはないかな。」



返事をしたら「はいよ」と達哉は言って、私の額にシートを貼り付ける。



「冷たいなぁ。我慢やで?」



ひんやりとする。冷たすぎてしかめた私の顔を見たのか、達哉は微笑みながら、父というより母のように言ってくれた。




そして達哉はやっぱりてきぱきと動いて、飲み物を用意してくれたり、看病と言える看病をソツなくこなしてくれた。





本当に完璧なんだなこの人。





「なんか食って薬飲もな?あ、食わしたろか?」



「け、結構です。…自分でたべる。」



「あーんってしたるやん。」



けけけってイタズラ好きな子供みたいに笑いながら言ってくるけど、丁重にお断りしてゼリーを食べて薬を飲んだ。

因みに薬を飲むときも「飲める?飲ましたろか?なぁしたるで?」って言ってきたけど、それはスルーしておいた。



達哉は冗談でそうやってからかってくるけど、私はわりと本気でどきどきして熱くなっていたことはここだけの話。





「さ、寝ときな?」




再び横になると、ベッドの横でしゃがむ達哉が言ってきた。


うわー、かっこいいなぁ。ってぼんやりと思った。



帰っちゃうのかなぁ。
十分看病してもらっちゃったし、もう帰るよね。




「空、そんな不安そうな顔せんでもここにずっと居ったるから、目ぇ閉じ?」



苦笑をもらしながら達哉は言うと、私のまぶたに口付けた。



「そ、そんなっ、うつっちゃうから、大丈夫だよ?」



うつすのが一番イヤ。
達哉の夢の邪魔することが一番イヤ。
だから、帰っていいよ。って思うのに…





「うつるからって、…ならもういっそ、うつしてや?」




そう言うと達哉は唇にキスを落としてきた。





「空の風邪ならもらったるわ。俺がもらって、ぶっ飛ばしたる。」





へらり、と笑う達哉。

あぁもう、愛しい。



なんだか胸が凄く苦しくなった。




「息しんどい?」




達哉が不意に訊ねてきて、そんなに苦しくないよと咄嗟に首を左右に振った。





そうしたら、先程よりもしっかりとした口付け。
少し大人で、少し苦しくて、すごく甘い。



リップ音と共に離れた唇。
少し顔を離したときに、達哉が自身の唇をぺろりと舐めたそんな仕草がやけに色っぽかった。




「空の風邪、全部もらえたやろか?」




悪戯っぽく笑う達哉に、困る私。




「ほんと、絶対うつったよ。あぁでも、今私絶対熱上がってる。」



そう言ってやれば、満足そうに笑う達哉。








「はいはい、ほんなら今度こそ寝よな。」



「ん。そこ居てね?」



「おったるよ。ずっと。おやすみ。」



「おやすみ。」

















もう今更うつるとか言ってらんないよね。
あんなことしといてさ。
だからもうそばに居て。





お腹辺りに達哉の手の重さを感じながら、私は眠りについた。













エンド









アトガキ
看病のお話は全部似たような話になっちまいます。レパートリー無くて申し訳ないです。リクエストありがとうございました!