宙を舞う君の平手をタイミングよく交わすことも出来たけど、そうしなかったのは、俺がその制裁を受けるべきだと判断したからだ。
振り上げられた手は俺の頬を叩いた。
涙目の空は凶暴なことに俺の胸ぐらを掴んでいたから、俺は屈んだ大勢だった。
もう一発くらいくるんちゃうかって思ったけど、胸ぐらを掴む空の手は震えながら離れていった。
思ったより痛くなかったなぁなんて考える俺の脳内はわりと冷静。
その代わり空の瞳からはボロボロと涙がこぼれ落ち、冷静なんてわけなかった。
「最っ低。」
薄い唇から放たれた言葉。それは「まさにその通り!」って言ってやりたい程に今の俺を現す言葉。
「別れる?」
首を傾がせてへらりと笑って言ってやれば、
「バイバイ」
と言って泣きながら背を向けた。
俺らしくもない。いや俺だってこんなアホなマネしたくなかった。
けど、俺のこと大嫌いになって貰わへんとお前はまた戻ってくるやろ?
この先俺が空を嫌いになることなんて二度となくて、死ぬまで好きで、本当は死んでも離したくない。
けど、それが空を悩ませて苦しめて、甘えさせてしまうことに繋がるのなら、そこに愛は育たない。
ただ別れるんじゃ駄目なんだ。
「いってぇ…」
ジンジンする頬を抑えてみて苦笑いが出てきた。
俺がもっとフラットな考え方の持ち主で、空を怒れて許せる大人な男なら、こんなことにはならなかった。
空が悪い訳じゃない。
あんなに傷つけて、俺はというと逃げて。
「あああっ」
しゃがんで近くなった床に向けて軽く叫んで見ても、俺の生き方が変わるわけでもない。
これで良い。これで良かった。
呪文のように繰り返し心に唱える。
空以外の女に口付けて、それを空に見せて、傷付いた空を突き放して、
頭で考えれば考える程、意味不明な俺の行動。
だけど、これが2人のためだった。
「好き」だけじゃ越えられない壁だってある。
2人きりの世界じゃない。
学生みたいな恋愛は終わり。
俺より空に合うやつはいるだろう。
こんな最低なやつはとっと忘れて、もっと良い奴に幸せにして貰えばいい。
分かってる。分かってる分かってる。空が側にいることが当たり前だなんて思ったことは一度もないから。
空の存在をなくしてから気付くことだって、そりゃああると思うけど、だいたいは覚悟出来ている。
「あほらし」
立ち上がって
また
歩き出す。
そうするしかないから。
エンド
アトガキ(補足)
付き合っている彼女は寂しがり屋で忙しい福澤さんは彼女に寂しい思いをさせたくない。それにあわせて、福澤さんのお友達が彼女のことを好きになってしまう。友達も大切な福澤さん。病みます。そして、ネガティブ福澤さんの出来上がりです。真面目故にこんなこともあるのではと。