幼なじみ設定





「雷こわ〜い!」とか、
「暗いの苦手なのぉ」とか、
「怖い話?ヤダァ」とか、

言えない性分です。

ましてや女性特有の黄色い声なんて出たこと無いです。
あの「キャーッ!」ってやつ。
ジェットコースターに乗ったって、「だあああ」って叫んじゃいます。



らしさ





「どぅわっ!カメムシ!」


「あ、ほんまや。良かったな、踏まんで。」


…えーすっごい残念そうな顔してんだけど、この長身のお兄さん。


「踏めば良かったのにって聞こえるんですけど。」


「それはアナタの被害妄想やで。」


「そりゃ失礼。」と顔をひくつかせる私に対して、達哉はおもしろくなさそうな顔を浮かべる。


「しかしお前、もっと可愛らしい声でえへんの?」


「何よ今更。私の性格知った上でお付き合いしてくれてんでしょ?」


「このガキほんま腹立つ言い方しかせーへんのな。」


何か言いましたかな?
私から顔をそらして呟き声が何やら聞こえた。

てゆうかガキじゃないし。同級生だし。更に言えば幼なじみだし。
今更よ、どれもこれも!アナタは私にうっかり着いて来ちゃった迷子の子猫チャンよ!


「誰が子猫チャンやアホ!」


「あ、ごめ、心の声もれてた?」


「ダダモレや!迷子はお前の可愛げの問題ですわ。」


ほほう、言うじゃないのよ。
…じゃなくて。可愛げ?達哉は私に可愛げを求めてるの?

長い溜め息を零す彼。北風もそこそこ吹いて寒いというのにも関わらず、公園のベンチでバカみないな言い合いをする意味が不明だ。と言うようだ。


「あら、可愛げのある子がお好み?」


「そうゆう意味ちゃう。空に女らしくなってほしいだけや。」


「つまりそうゆう意味じゃん。」


だったら他の子でも取っ捕まえればいいじゃん!ぷんぷん!なんて言ってやらねーぜ。へっ。誰が手放すかばーかばーか。好きですごめんなさい。


「じゃあ聞くけどさ、私がキャーカメムシー!やだやだこぉわぁいぃ!って言ったら、キモくない?」


「ぶっははは!可愛いやん。」


私がわざとらしくぶりっこしてみたら、なんと達哉は爆笑ときた。嘘つけ馬鹿野郎!


「う、うそだ…」


「ほんまやし。せっかく髪も伸びてちょっとは女らしいなったんやから、立ち振る舞いも女らしいせーよ。」


うわ普通に説教されたし。
ズレてる。達哉は何かズレてる。
いやしかし昔から何か普通に恥ずかしいことを言っちゃう事はあったな。


「演技しろと?」


「うんー…演技とゆうかなぁ…。あーでも…、」


「ん?」


「お前がこれ以上女らしなったら、悪い虫つきそうやんな。」


少し照れたような、それであって大人びた笑顔でそう言われて、私はつい驚き目を見開いたまま固まってしまった。


「せやからやっぱ空は今までどーりでええかぁ。」


目を細めて笑い、頭を抑えるように撫でてきたから肩をすくめた。
それと同時に、ぼんっと音がするかのように顔が赤くなったことが自分でも良く分かった。


「うは、お前照れたんか?」


「てっ、照れてないし!」


「嘘つきぃや、よう顔見せてみ?」

「やだよバカっ」


顔を覗き込む達哉を振り払うよう俯く。達哉、今すっごい意地悪そうな顔して笑ってるんだろうなぁ。


「ほら、こっち向けって。」

顎を持たれて無理やり顔を上げさせられた。


「ええ顔できるやん。」


余裕そうにそう言う達哉だって、顔赤くなってる。
そんなことを考えていたら、ゆっくりと顔を近付ける達哉。
顎を固定されていることで逃げれない私はぎゅっとまぶたを閉じた。


唇に唇が重なる。

角度を変えて何度も。
キスっぽい音が何度も何度も聞こえて、ものすごく恥ずかしい。
そして、相手が達哉だという事実が何よりも胸を鳴らす。


「空、口ちょい開けて?」


かすれた声で、そう囁かれたらもう反論どころか言葉も出ずにただ従うだけだ。


半開きにした口に再び食いつくようにキスをされる。
大人なキスに脳みそがどろどろになりそうだ。


達哉は昔から知っているのに、いつの間にこんなに大人になったんだろう?
いつの間にこんなに男っぽくなったんだろう?
だとしたら私も、もっと女っぽくなくちゃ釣り合わないのかな?


「んっ…、」


唇が離れて、至近距離の達哉を見つめる。


「ちょ、空、それは、反則やで…」


達哉が顔の下半分くらいを手の甲で隠しながらそんなことを言ってきて、私は訳も分からず首を傾がせた。

「じゅうぶん、女らしいやんか。」


困ったように笑う達哉は、私の頭をぐしゃぐしゃにかき回した。犬かい?私は。


「もーあかんなぁ!お前絶対今まで通りでええからな!」


「え?なんでよ?」


「せやから、空がこれ以上可愛くなったら…」


「あああっ言わなくていい言わなくていい!分かったから!」

またあんな恥ずかしいことを言われてたまるか!顔がまだ熱い。必死で達哉の言葉を止めた。


「空の女らしいとこ知っとんのは、俺だけでじゅうぶんや!」


誇らしげに言うお兄様。
待って、普段まったく女らしくないと言われているんだろうか。だとしたら怒らなければ。
だけど何だろう。すっごいすっごい嬉し恥ずかしいんだけど。


「何、にやついとんか?あぁ、嬉しいんやろ?素直になれや2人んときくらいー」


「うううるさい変態オヤジ!」


「はいはい、まーた赤くなって。もっかいチューしたろか。」


なんでそうなる。
だれかこのハイテンション達哉を止めてください。
だれかこの私のあっつい熱を冷ましてください。



「あああこっちくるな!公共の場だバカ達哉」


「あ、ほらほら虫踏むで?」


「どあああ!あぶなっ」

迫り来る達哉から必死で暴れていたら、意地悪な胡散臭い笑顔の彼に虫の存在に気付かされた。

あぶない。もう少しであの忌々しい生物にこの私の靴が触れるところだった。
と、あせって逃げた先に達哉が居て、

気づけばまた口付けられていた。


「んぅっ!?……」


口を離されてもまた固まってしまう私。そして少ししてからまた顔に熱が溜まってしまうのだ。


「ははっ!いっそがしいなぁ空。女らしなったり元戻ったり。」


「誰のせいじゃコラ。」


弄ばれてるよねこれ。私いま完全に遊ばれてるよね。
もうやだなにこれ恥ずかしい。
こんな自分が恥ずかしい。


「これからもっと色んな空を見つけたるからな?」


にいっと、無邪気な笑顔の彼はまるで今から冒険の旅にでも出るかのようで。


「楽しみやなぁ、空が俺の手で女になっていくの。」


耳元に口を寄せ囁かれた。
これも彼の手口なのだろうか。
しかしまんまとハマる私も私だ。


「だっだからなんでそんな恥ずかしいこと言えんの!?」





どんどん熱くなるこの顔を、冷たい風が撫でていった。








無理に「女らしく」なんてしなくても、
小さく隠れた女らしさを、引っ張り出してくれる。

だって

達哉がこんなにもかっこいい。








(どんな君も君だから美しい。)





エンド