kiss me!!






足が重い。けど、隣で空が笑ってる今なら、気持ちは軽い。

この棒のようになった足も、心なしかいつもよりかは軽いような気がする。



体育館を出て、玄関までの道のりを2人で喋りながら歩くこの時間が俺は好き。




「あ、ちょっと飲み物買ってもいい?」




目線の先にある自動販売機を指差し言う空に頷けば、小走りで近寄る。




「空、ちょい待ち。俺出すやん。」



ジャージのポケットから財布を取り出しながら言えば、「これくらい自分で出すよ」と困った用に笑いながら俺の手を掴み動きを止められた。




空の表情を伺えば、「ね?」と首を傾がせてきた。


あー、なんやろ。かわいーなあ。
ぼけぇとしている間に空はお茶を買っていた。





「彼氏らしいことさせてぇや。」




冗談混じりにそう言えば、上品に笑う空。


ほんま、普段忙しいてなかなかデートとか出来ひんのやし、ちょっとくらい彼氏らしいことさせてくれても良いのに。





「いいの。今度いっぱいしてもらうから。」




こうやって、相手が気を使わないように気を配る辺りも、俺が空に惚れた理由の1つ。


健気やなあ。俺の彼女。






「ちょっと、座ろか。」



「え?大丈夫?」



「あー?何があ?」



「疲れてるでしょ?早くかえった方が」



「ええよ。もっと喋りたいねん。今日は。」





空が心配そうに眉を寄せ喋ってる上から被せてそう言ってやり、へらりと笑って見せた。



確かに疲れてるけど、この疲れ癒すのは紛れもなくお前なんやで?



心の中でそう呟き、先にベンチに腰掛けた空の頭をぽんぽんと軽く押した。



すると空を俺を見上げて恥ずかしそうにはにかむ。
顔をほんのりと朱に染めて。




どんっだけ可愛いねん。

誰かに自慢してやりたい。頭撫でただけで赤面すんねんぞどうや俺の空!見てみぃっつって。いやでもやっぱり嫌やな。こんな可愛らしい空知っとんのは俺1人で良い。誰にも見せたくないわ。



…はあ。末期、か?

我に返った俺は小さく息をついた。

こんなに一つ一つの動作にどきどきする子初めてだ。






「外、すごい風っぽいねぇ」




空が外を眺め呟く。
俺もざわめく木々に目を向けて相槌を打つ。




「寒いかなあ?」



「どうやろ?そうは言ってもまだジメジメしよるんちゃう?」




他愛無い話し。それでも幸せ。
やっと手に入ってくれた空が、こうして横におるんやから。



今までとは違う距離。
心も、体も。





愛しすぎて、大事にしすぎてしまう。

いや違うな。

愛しすぎて、臆病になる。




毎日が初恋の時みたいだ。
また空の反応も同じ様に、初々しいから。




こつん、と空の肩が触れた。



ばち、と目と目が合った。




何故だか分からないけど、フリーズしてしまった。

あぁ、キスしたい。



空の頬に手を添えると、その表情は堅くなり、今から俺に何をされるのかは理解しているようだった。





全身の血が勢い良く巡る感じがした。
心臓が元気に高鳴る。

指先に感じる空の柔らかい頬の感触と熱が、妙に生々しくてやり切れなくなる。



時間がスローに感じる。

おかしいな。いつもならこんなに、緊張せえへんかったのに。




空がゆっくりと薄く目を閉じたから、そのまま首を傾けた。


あと、数センチのドキドキ感がたまらない。







−−…ちゅ







小さなリップ音を鳴らした。

空と唇を離して薄く目を開ければ、空は照れたように微笑んだ。







「空、もっかい、させて?」





空の頬に添えていた手の親指で、彼女の膨らんだ下唇を軽くなぞりながらそう問えば、答える代わりに顎をくいっと上げてきた。





あかん。あかんってほんま。
そんなことされたんじゃ今度はさっきみたいな可愛いもんじゃ済まされへん。





軽く口を開いて、もう本当にその気になってもう一度キスをしようとしたら、


あと数センチのドキドキ感を破られた。






俺の携帯が、うるさく鳴りやがった。
空が驚き肩を跳ねさせて目を開けた。





「…、なんやねんもうっ」




「ははっ、出て良いよ?」





緊張の糸が切れたのか空は砕けた笑いを浮かべる。





「いや、あんなもん後でええ!」




「あんなもんって!大事な連絡かもしんなっ…ん!」





ええい知るか!
空の説教は直接口で封じさせて貰った。





口付けている間、機械的になり響く携帯。



何度も角度を変えて唇を啄む。

コールが鳴り終わるのと共に、口を離すと、目と唇を潤ませた赤い顔の空に睨まれた。





「可愛いな、お前。」





思ったまんまがそのまま口を突いて出てしまった。
空はというと「もう」と小さく呟き目線を落とす。




幸せすぎて、死ねそう。
いくらキツい練習でも、その後こうして空と過ごせるんならもう、いくらでもいつまでもキツい練習したって良いと思える。





「もう今日俺ん家きいや、空。」



「却下。私まだ仕事あるもん。」




こう言われる事は分かっていたけど。





「じゃあ、もっかいキスさせろ。」




冗談でふざけて笑いながら言えば、空は立ち上がった。




「冗談やん」と、告げようとした瞬間、座ったままの俺の口に降ってきた小さな唇。





一瞬だけど、触れるだけの空らしいキス。





いたずらに笑う彼女は


「じゃ、また明日ね。」


とくるりと背中を向けてまた体育館の方へと行ってしまった。

多分、片付けとかあるんやろな。
マネージャーはマネージャーの仕事とか。







………あぁ、もう、俺、
マジで幸せすぎてどうしたらええの?














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