お前がこの手を、この腕を、
この声を、この言葉を、
望むと言うなら、俺は喜んで
この手や腕をもいで、
この声を千切って、この言葉を書いてあげるよ。





そこに在るものは何だろう





パーマがかかった栗色のきらきらした柔らかい肩までの長さの髪が、俺は好き。
まあ、他にも好きな所を上げれば切りがないけれど。



俺の腕に乗る空の頭はずっしりとしていて、色んな事を吸収し溜め込み考えに考え、誰にも話さず決断をする空の性格を現しているようだった。


この小さな頭には、俺の知らないこともたくさん詰まっているんだと思う。
そして爆発する寸前にまで来ていることも、なんとなく分かる。



そんな可哀想な空の頭を優しく撫でれば、気持ちよさそうに息をついて眠る。



前に溜め込みすぎるなと言ったところ、達哉だって一緒だよと言い返された時はまいった。



ベッドの上で静かに眠る空を見つめながら、俺の頬は綻んだ。




すると、かすかに睫毛が揺れた。
一瞬眉をしかめると、小さく唸り目を薄く開けた。





「おはよ。」



そう挨拶をすると、空は掠れた声で「んー」と呟いた。



「あれ?あれ?いま、何時?」


急に混乱しだした空をどうしたものかと暫く見ていたら、がばっと体を起こした。




「きゃ、あ、そうだ…そうだった…」




体を起こした事により、シーツが体から剥がれて上半身が丸裸になり、焦っている。
そして昨夜の事を思い出したのか顔を赤くしながらシーツで胸元を隠す。
そんな様子が可笑しくて笑ってしまった。




「空?何しとんねん。」



笑いながらそう言うと、空は赤に染めた頬のまま苦笑した。




「そっか、今日仕事休みだった…」




「そうそう。せやからもっかい寝よな。」




未だに放心気味な空の肩を無理やり引き寄せてベッドに倒す。



そしてまた横に来た空の頬にキスをした。




「昨日の空も可愛いかったで?」



こうして意地悪を言うのが好きだ。
可愛かったことは事実だが、こういう話しをすると空は恥ずかしがって嫌がるから、その様子がどうにも好きなのだ。




「知らない覚えてない忘れた」



間髪入れずにそう言う空。




「ほんまに覚えてへんの?」




ふと、気になった。




「…う、ん……」




「え、絶対覚えとるやん。その反応。」




「いっいや覚えてないよっ、てゆか…うんー、ところどころ……」




へぇそうなんや。
覚えてないとか、なんか寂しいなと思いつつ、そう呟く空が可愛くて頭を撫でた。





「はやくー、とか言っとったで?」




「そっ、そんなこと言ってないし!」



悪戯に言えば、本気で覚えていないのか驚いた顔をしていた。


こうなったらどこまで覚えていて、どこから忘れているのか調べたくなった。



「ほんならあれは?足、こうやって…」



「やだやだやだっ、恥ずかしいっ」



手で表しながら言ってやれば、このことは覚えてるらしい。恥ずかしそうに目を背け、顔を染めた。




「ええとこ覚えてへんねんなぁ…」



「そんなっ、残念そうな顔しないでよ。しょうがないじゃない覚えてないんだもん…」




わざとらしく表情に出すと、拗ねた様子の空。

しかし何で覚えてへんのやろう。



「さびしいやんか。」



「…私だって寂しいよ。」





ええと、可愛いんですが空ちゃん。
何やかんや言ってたけど、空も何だかんだ覚えていたいんや。



にやついた俺の顔を見て、空は「もうっ」と言って、俺の胸にぴったりとくっついてきた。



「だって…2人きりなのに、同じことしてるのに覚えてないなんて、勿体無い。」



小さな声で呟く空が可愛いすぎて、もう愛しすぎて、空の薄い背中をあやすように撫でた。




「ほんまやなぁ…繋がっとる筈なんやけどな。」



「…うん。」




「でも、何か理由があるんやろな。ただ理由なく記憶とぶなんて無いやろう。」




意味不明と書いてある顔をこちらに向けてきた空。
俺も自分で何言っとんか分からへん。ごめんな。




「あー、でも、そうかもね…」


「ん?」



「だってさ、赤ちゃんつくるときにさ、頭で理解してつくるなんて、きっと私にはできないもん。」



「……」



「達哉、意味分かってない?」



苦笑で返すと、ぺちんと胸板を軽く叩かれた。




「だからぁ、…命をつくるんだよ?命を生むんだよ?そんなときの記憶なんてあったら、私怖くて、きっと逃げ出すよ。もう二度とこんなことしたくないって。」




「わかる?」と再度聞かれたが、よく分からないと返した。
すごく複雑なことを言っている気がする。雰囲気でしか分からない。

女ってゆうのはそうなのだろうか。
男ってゆうのはこうなのだろうか。

ただ気持ちよさを求めることを重視しているような存在が男なんだ。だから男は馬鹿なんだ。




ただじわじわと俺を包むこの暖かさは何だろう。
じんわり、広がるこの嬉しさは何だろう。





「何がおかしいのよ。」




顔を緩ます俺に、不満気に空は頬をふくらます。





「分からへん。けど、何か嬉しいねん。」














前言撤回。


お前が求める俺のこの腕や手や声や言葉を切り離してあげると言ったけど、

そんなもんより俺のこの心臓をあげる。
いらないと言われても、
腕や手や声や言葉の方が欲しいと言われても、
心臓だけをお前にあげる。











エンド





アトガキ
難しいですね。そして重いですね。つまるところ、男と女の意識の差を書きたかった訳なのですが、私みたいな未熟なやつにはそんなこと良く分かりませんでした。甘くもなく、意味も分からなくなり申し訳ありませんでした。一生懸命かいてみました。ここまで読んでくださりありがとうございました!
消すかもしれない!