恋だの愛だのくだらない。
こうゆうのを、まるで自分は全て知っていますってゆう顔でアツく語る奴にろくなのはいない。よね?
discerning baby
あー暑い。暑い暑い。
別に季節に好き嫌いは無いんだけど暑いのは嫌いだ。夏は夏で良いことが有るから別に構わないけれど。
こんなアツいのに世の中の恋人達はどうしてあんなにくっついて居られるのだろうかと思う。
別に、僻みとかではない。
だってこの私の隣にも恋人が居るから。
そう、昔から親や先生に「あんたは冷めてる」だの「冷酷」だの好き勝手言われてきた私にも、こうして好きな人も出来てありがたいことにお付き合いさせてもらってる。
しかし暑い。日本ももう終わるんじゃないかと思う。
どーでもいいけど。今までうまくやってきたのだから、これからだって何とかなるだろう。私が仕切るわけでもないし。
協力すべきところで大人しく協力したらいいんじゃないかな、とそんな感じ。
さて話しを戻して、そんな「冷めてる」らしい私に恋人が出来るなんて、高校の時の友達が聞いたらきっと信じてくれないだろう。
「空、どっか座ろか。」
街をふらふらと探索していたが、私は少しだけ歩くのに疲れてきていた。それに気づいたのは達哉の言葉に触れてからだった。
私が頷くと、手を引いてよく見る有名な喫茶店に入っていった。
クーラーがよく効いている店内は人が何組か入っていて、ある程度賑わっていた。
周りの普通の成人に比べれば頭も一つ分かそれ以上飛び抜けていて、さらに体つきも良いから店に入るだけで少しだけ視線を集める。
バレーをしている彼はそんなに目立たない、寧ろ小さいようにも見えるのに。
達哉はきっと、この店の中のどっかの誰かの話題になってるのだろうな。
そう思えば、なんで彼は私なんかと付き合ってくれているのだろう。
達哉に目を向ければ、「ご注文お決まりでしょうか?」とにこやかに訊ねる店のお姉さんに愛想の笑顔を浮かべながらアイスコーヒーを2つ頼んでいた。
膝をつくお店のお姉さんの頬が赤に染まる。
たぶん、私の方が年下。若い。そして私の方が細い。胸は…負けてるけど。髪も彼女の方が長いけど、毛先は傷んでるし明るい色をしている。
達哉は髪の色が明るいのはあんまり、と前に清水くんに話していた。
すると、そのお姉さんが離れてからほっとした。その瞬間、自分が彼女と比べていた事にはっとした。
何、知らない人と戦ってるんだ。
それ程達哉のことが好きになっているのか。
「おんなじので良かったやんな?」
オーダーしたものの話しだろうか。今更。
「うん、べつに。」
「せやろ、そう言うと思てん。」
普通に笑顔で聞いてきたから、うつったかのように笑って答えたら、もっと眩しい笑顔で返ってきた。
子供みたいに笑うくせに、どこか品のある笑い方をする。
明らかに頭良さそうだ。
実際に頭良いんだけど。
達哉は冷徹な私を知っている。
父や母よりも私を理解している、と思う。
前にそれを達哉に直接言ったら、「嬉しいけど、それはないで、親って見てないようで見てんで。」とやけに大人ぶった言い方をしたからむかついたのを覚えてる。
でも、私にとってはこんなに理解してくれるような人、達哉しか居ないと思っている。
それに、達哉はバレー以外のスポーツでもトップレベルでやれるだろうと言われる程の身体能力とか運動神経を持ってる上に、頭も良くて弁護士としてもやっていけるらしい。
性格も健気で努力を惜しまない人だし、私と違って人に合わせて良い顔をする器用さも持ち合わせていて誰からも好かれるような人。それであって自分の意見も持っていて、うまく伝えることも出来る。
こんな凄い人が、私の目の前でアイスコーヒーを甘くしているなんて。
ますます分からなくなってきた。
まあ付き合っている以上は「好き」に変わりはないんだからいいか。
私がストローをくわえながら達哉を見ていたら、達哉は「げ、甘くしすぎた」なんて事をぼやいていた。
「ねぇねぇ。こんなののどこが好きなの?」
我ながら面倒臭い女だと思う。
でも気になる。
聞いて愛だの恋だの語る気になれるだろうか。
達哉はそんな私の問いに対して驚いたのか、むせ返してる。
「げほっ…ごほ」
「ごめん大丈夫?」
お手拭きを渡すとそれを受け取り口元を抑えながら苦笑いを浮かべていた。
「なんや急に、なんかあった?」
「いや、別に…」
「空のことやからまた1人でごちゃごちゃ考えたんやろな。」
そうなのかな。いつでも頭の中はごちゃごちゃしてるけど。
「どこがええとかどうでもええやん。全部好き、はいおしまい。」
聞き様によっては適当にもとれるこの言葉は、達哉だからこその重みがあった。
さっきまでの頭の中のぐちゃぐちゃを一つの箱の中に綺麗に収納された感じ。
一番求めていない言葉を聞いてがっくりする筈なのに、何故か「一緒」に安心した。
すると達哉はゆっくりと口を開いた。
「いやぶっちゃけな、なんやこいつ冷たいなって思ったで、今やらから言うけど。でもそのうちな…」
そこで一呼吸置いて私としっかり視線を合わせた。
「空を俺のこの手で温めたいなって思い始めてん。なかなか照れて顔も赤ならんけど、たまーに目ぇ反らして照れたときにはほんっま嬉しいんやで?」
最後の方はイヤミだろうか。意地悪く笑いながらそう言ってきた。
「無表情やったけど最近はよう笑うようなったしな。」
育成されてるのか私は。と少しだけ呆れた。
「ちょっと笑うだけでもう、ぎゅーってしたくなんねんぞ。」
照れながら笑う達哉。良いことを…言われてるんだろうか?なんか複雑。そんなに?って。
「空は自分を造らへんから。ありのままでおるからええねん。」
そう言うとまたアイスコーヒーを飲んだ。
「私も、最初はなんだこの天才って興味本位で付き合ってた。」
「それは若干ショックやぞ。」
乾いた笑いで全然ショックに見えない。
続けて「今は?」と聞いてきた。
「好き。」
率直なきもちを伝えたら、達哉は額をテーブルにつけて伏せた。
「好きだし、尊敬してる。」
飾らない言葉をそのまま伝えれば、伏せたままの彼の耳が赤くなってるのが見えた。
「ごめん大丈夫?」
そう言ってまだ冷たそうな達哉のアイスコーヒーの入ったコップを彼の耳に寄せてつけた。
熱そうなくらい赤くなってたから。
「…照れます。」
小さな声でそう聞こえた。
やっぱり、
愛だの恋だの語るような気にもならなかった。
そんなことを長々と語るやつはいい恋愛をしてないと思う。
ひとつ言うとしたら、
愛や恋は感じるものでしょってことくらい。
ねぇ、達哉。
(僕たちはよく似てる。)
エンド
アトガキ
また意味の分からないものになってしまい申し訳ありませんでした。もう少しスタイリッシュな福澤くんにしたかったのですが、やっぱり、空さんが好きでたまらないのです。これもリハビリ作品です。福澤くんの良いところを書くのが楽しかったです(笑)長くなりましたがここまで読んで下さり本当にありがとうございました!