(MELTWATER)
「雪だぁ」
二人肩を並べ雪の積もる道を歩いていたら、太陽は出ているのにぱらぱらとまた降り始めた。
ぎゅっと足元が鳴る。
雪特有のそんな音が幼い頃はやけに嬉しくて、誰の足跡もないところを態と歩いてたっけ。
横の小さな彼女が見つめる先を俺も見てみる。
「ほんまやな。」
太陽の光できらきらと輝きながら舞い降りるそれは、眩しいくらいでついつい見惚れた。
溶け始める地面の白も眩しい。
「やったーっ!もっと降れーっ」
ぽっけに突っ込んでいた手。その腕に片手を組ませていた空の腕がするりと抜けて、空は犬のように辺りを駆けていった。
きらきらのビジョンの中にいるピンクな空。
楽しそうにくるくる回ってる。
めっちゃ可愛いやん。
どうしよう?いやいや、別にどうしようという気もないけど。なんかもう愛しいてたまらん。どうしたもんや。
「空!転けんな……よ?」
こっちに向けて走る最中に、俺の忠告を横へ跳ね飛ばすかのように転んだ空。
呆れ半分、心配半分ってとこか?
空のそばへ寄って、脇を抱えて立たせてやる。
「言ったそばから!」
笑いながらそう言うと、空は楽しそうにケラケラと乾いた笑いをこぼしている。無邪気な子供みたいやな。
「たのしいーい」
桃色の鼻と頬。
睫についた雪。
冬って化粧やな。
飾らない、ナチュラルな化粧。
綺麗やで。そう言えば空はきょとんとするやろう。
腰についた雪を払ってやると、ありがとうとまた笑う。
「寒いのに元気やなぁ」
「悪いー?」
「いや。健康的でええやん。」
「えー、絶対そんなこと思ってないでしょ。」
「思ってるって」
頬を膨らませ納得のいかないような表情で目を細め言う空に、俺は思わず笑いながら言った。
「達哉、動いた方が暖かいんだよ?」
教え込むかのように言う空だけど、忘れないで欲しい。俺はプレイヤーです。
それくらい分かるわっ!
「誰に言っとんねん!」
そう返すと、くすくすと上品に笑っている。
「じゃあさ、達哉!おにごっこしようよ!」
「はあ?」
急な提案についつい口を突いて出て惚けた声。
「え?私に負けるのが恐いのかしら?」
肩を竦めながらふふんと得意げに言ってくる。そんな空が可愛いから、
「のぞむところや。」
そう言ってやった。そして俺がオニ。そう勝手に決めた。
そして雪の積もる道端で、おにごっこがスタートした。
大の大人が、誰が見ても楽しそうにケラケラ笑いながら。
空なんてすぐ捕まえられるから、最初は手を抜いてた。思っていたより、あまりにも楽しかったからすぐ捕まえるのは勿体なかったわけだ。
けど、そろそろ疲れてるみたいだから、ちょっと本気出してみて手を伸ばす。
空の肩を捕まえて、そのまま後ろから抱き付いた。
逃げないようにぎゅっと、包み込む。
「つーかまーえた。」
空は肩で息をしながら、まだ余韻で笑ってる。
けど、それもすぐ治まって、寒いからか動いたせいか、それとも俺のせいか(後方だとめっちゃ嬉しいんやけど)、耳を真っ赤に染めていた。
「達哉、暖かいね。」
空の胸元に回して組んでる俺の腕を掴みながらそう言ってきた。
「空が暖かいわ。」
「達哉も暖かいよ?」
「雪、すぐ溶けそうやな。」
「どうして?」
「暖かいからやん。」
「ふふ、達哉ばかみたい。」
「うっせ。空よりマシじゃ。」
「じゃあ、チューしようか。」
「あほか。」
抱き合ったまま、そんな成り立たない甘ったるい会話をしていた。
心の芯がほっこりしてくる。
「好き」が止め処ない。
きっと、空も同じ。
空を一旦離して、こっちを向かせる。
そして、雪の積もる道端、触れるだけの軽い口付けを交わした。
雪が溶け、水が落ちた音がした。
エンド