そんな君








「空?」





「……」





「おーい、空ちゃん?」






「…………」






「空ッ!」








ハッと気付いた時には既に両方の頬に微かな一瞬の衝撃があり、温もりが残った。



目の前の達哉が私の頬をとっても軽くたたいて、そのまま顔を包み込んでいた。







「な、に、考えとったん?」





穏やかに微笑む表情とは裏腹に、私の頬にある達哉の手には力が込められて頬を押さえつけられる。

ぐっと近付いた顔を見るとどきどきしてしまう。






「いや、べべべつに…」





目線をそらして言えば、彼は不服そうな顔をあからさまにしてきて、手を離した。








「空、なんかあったんか?最近上の空ちゃう?」






「っ…、なっなんでもないよう!」






顎に手を添えて細目をして私を疑う達哉に、後押しするように「ねっ?」と首を傾がせてみる。







ぶっちゃけ図星だった。
そして達哉も私が何か変なのももう分かってるだろう。




私の悩みは、言えない悩み。
自分でも恥ずかしいんだ。





達哉が…性的な事を望んでこないのが、不安だなんて……。







「なにが「ねっ」やねん。なぁ、言って?なにがあったん?」



「や、ほんと、なんでもないの。」




「嘘やんー?ほら、言ってみ?お兄さんが受け止めたるやん。」



ふざけながら笑って、両手を広げて言う達哉。



そんな仕草されたらその逞しい胸に飛び込みたくなるじゃん。




いやいや今はそんなことしてられない。…から、隣に移動して変わりに達哉の腕を抱きしめた。







「ほら、なんかあるんやん?」





「や、ちがう」





「えぇ、じゃあ何やのこの感じ?」





困惑気味の達哉は空いた方の片手で、私の頭を子供をなだめるように優しく撫でた。









「なぁ、お前の悩み、共有したいねんけど。」





「…」





「俺、何のための彼氏なん?」







切なそうな顔、そんな表情も出来るんだ。

そんな顔されたら、言うしかないよね。








「あっ、あの、ね…?」





恐々と達哉の顔を伺うと、優しく微笑んでくれた。







「た、達哉が…その……、」





「え?俺っ!?」





大きな声で聞き返したから、びっくりして肩がビクッと震えてしまった。






「うん…あの、」





「なにっ!?」






「なんか、…あの達哉が、性的なものをさ、ほら、何にもないじゃん?だってさ、友達だった頃なんか、性欲の塊みたいなものだったのに…」





変わらず達哉の腕をぎゅっと抱き締めながら目を会わせずに言ってみたが、やっぱり不安は膨らんで、そのまま視線を達哉に向けた。







「そうゆう雰囲気になることはあったけど、何にもないから…魅力ないのかなぁって…。それに、私たち、ずっと友達の延長なのかなって…」






達哉の顔を見ていたら不安が涙になってたまってきた。







すると、呆然としていた達哉が急に、笑い出した。







「うっはは、なんやそれ〜!」




今度は私の方が呆然としてしまう。




すると達哉は、私の涙を拭いながらこう言った。







「なぁ、気づいてなかったん?俺、ずっと我慢しとったんで。例えばさっきだって、腕にしがみついて泣いて、可愛くてしゃあないねん。」







「でもな、空は俺にとってやっと手に入った大切な大切な人やねん。…大事にしたいやん?」








それを聞いて、安堵感か、また涙が止まらなくなった。








「だから、」





そう達哉が低く呟いたと思うと、私は優しく包まれてゆっくりと仰向けになった。
上にはもちろん達哉が重なって。









「泣くなって、空。」








いつものヘラヘラとは違う、凛とした表情で、耳元に低く重い声でそう言われて、背筋がぞっとした。









「言わせてみれば、性欲の塊とか言いやがって、なんやその地味にヒドい感じ。」






にこり、と微笑み、また私に安心感をくれた。
私も少し笑ってしまった。










「なぁ空。もう我慢せんでええってことやな?」








真剣に聞く彼に、私は慎重に頷いた。










すると、達哉は優しいキスを落とした。




















エンド






アトガキ
うらに続きつくります!ここまで読んでくださりありがとうございました!