いつだって敵はただ1人。
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ああもう腹立つ。
あかんあかん。集中や。
荒れだしたり冷静になりだしたり、感情は自分の中で行き来を繰り返して忙しない。
理由?
んなのただひとつ。
バレーの事以外無いやろ。
誰だって、夢中になってしよること邪魔されたら腹立つやろ?
今その状態。
台上のコーチが打ってくれるサーブのカット練習をしてるんやけど、邪魔されてんねん。
指の痛みに。
親指の付け根らへん、テープまいとんやけどボールが腕にあたるだけで響く。
いちいち気になってイライラする。
せやけど、せっかく打ってくれててん、嫌な顔したら失礼。
カットがちゃんと帰らん事にも苛つく。
「くそったれーっ!!」て叫びたい。
「だーああっ!くそっったれェエィ!!!!」
体育館の端っこでしゃがみ込む女が叫び上げて、俺は思わずそっちに目をやる為に顔ごと見た。
俺が言ったんかと思ったやろ?ちゃうねん。いや、俺も同じように叫びたかったで。でも俺ちゃうよ。奴や。俺も自分で無意識のうちに言ってしもうたか思ったわ、おっさん見たいな声あげたもんやから。ハッハッハ。
いやー、しかしびっくりし……!!
よそ見をして心ん中の誰かとお喋りしてた所を、物凄いスピード&高い位置からの何かが頭にぶち当たった。
「…いっだああっ!!」
危ない危ない。
どっかのパンのヒーローみたく、頭飛んでってボールが頭になるところやったわ。
ありえへんけど。
ありえたら怖いけど。
「てか、いてぇ…」
そう呟きながら俺は自分で頭をさすった後、コーチに一言謝った。
「よそ見すんなー」とコーチは笑いながら言って、次がラストと言うことを伝えた。
ラストの一本だけは、ぐっと集中して納得の一本を終わらせて、自主練の休憩に入った。
俺はすぐさま、あのおっさん並みの叫び声をあげた空の元へ向かった。
「何してんねんお前…。」
「ごめん、気にしないで。」
「嫌でも気になるわ、あんなデカい声だされたら。お前のせいで俺はさっきアン○ンマンになるところやってんぞ。」
「はぁ?何言ってんの?」
「なんでもないわ。…で、どないしてん?」
「あんた自分から言っといてなんでもないって……あ、あぁテーピングがくしゃってなって腹が立って…」
「ちさっ!」
そんな事であんな怒んなや。マネージャーの癖に。
「達哉のために頑張ってあげてたのになぁ。」
「ん?」
「指痛いんでしょ?自分で適当に巻いたりなんかしたら、悪化するんだからね」
空は頬を膨らましながらそう言った。
「俺のために頑張ってくれたんや?」
嬉しいことやなー。
俺はたぶん今、嬉しい気持ちを包み隠さず顔に出してそう聞いた。
そんな俺をみた空は返事に困ったのか目線を右下にずらして、少し俯いた。
「…い、いや、達哉のためだけじゃないから、達哉が調子悪いとチームに関わるからであって……」
早口になっちゃってなかなか可愛いとこがある。
「え?俺別に調子悪ないで?」
「うそだっ!ちょっとイライラしてた!」
俺あんま感情外に出さへんのによう気づいたなあ。
「なんで分かったん?」
空の顔が赤くなっていく。
目線は泳いで定まらない。
唇を尖らして必死。
こっちはめっちゃ笑顔なんに気付いてないみたいだ。
「…見てたらわかるっ」
「なんで?」
「そりゃあ、ずっと見てるもん!!」
「へぇ」
空ははっと口元を抑えて俺を一旦見ると、直ぐに目線を床から離さなくなった。
「空、俺のことずっと見てくれてたんや?」
可愛いな、空。
目、見て言ってほしい。
分かってるけど、空って照れてあんま言ってくれへんから。
「なぁ、なんで?」
そう問いながら俺は空の顔に手を添えて俺と目線が合うように上げた。
「…すき、だからっ」
真っ赤になって熱い顔して言ってくれた。
可愛すぎる。
何も言わずに抱きしめさせてもらった。
いつだって敵はただ1人。
たぶんもう痛みは無いし
苛つきも無い。
次からはずっと集中できる。
俺はきっとアイツ不足だったんだ。
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