海の香りと少しだけ強めの風。
べたつく髪も肌も、もう今更気にしない。
みんなと「ばいばい」したのは5分くらい前。
今日は久々に会った地元の友達で集まって花火をした。
余韻で頭の中はまだ楽しいままで、急に静かになった今でもなんとなく興奮気味だった。
でもそんな精神状態は隣りに一緒に歩く清水のせいでもあるのかも。
こんな時間にこうして二人きりで歩くなんて、まるで恋人同士みたいだ。
大きな彼とは幼なじみで、だからといって特別仲が良い訳でもないのだけれど、帰る方向が一緒だから2人でこうして歩くのは当たり前。
私的には「当たり前」なんかじゃないんだけどな。
私よりずっと高い背。
見上げて顔を見つめてみたって、気づきはしないだろう。
「バレー頑張ってんだね。」
何の気なしにそう声をかけると、清水は相変わらず前を向いたままにこにことしている。
「おう。そっちは?最近どうなん?」
「私は普通に女子大生やってるよ。良かったね、今日来れて。」
「ん?なんで?」
「練習忙しいんでしょ?」
もう少し愛嬌のある話し方ができないものかと自分に呆れる。
だけどなぜか頑張らない自分でいれるのは、清水の独特な雰囲気のせいだろう。
清水は「あー、」と思いついたような顔をした後、乾いた笑いを零した。
「なんか、オレの予定に合わせてくれたみたい。」
「へー、そうなんだ。」
「知らなかった?」
「うん、だって私企画してないもん。」
そうだったんだ、と思いながら相変わらず足を進める。
「彼氏は?」
「は?」
唐突な質問に、何とも呆けた声が出た。
「彼氏、出来た?」
いや、出来るわけないじゃん。
清水のこと、ずっと
なんて事は言えないけど。
「いや、いないいない。」
苦笑混じりに答えると「だめじゃん」と言われた。うっせ、ばーか。
「そうゆう清水はどうなのよ。」
少しむっとしたから真顔で聞いてやった。
「気になる?」
「うん。」
「できてー……ないっ!」
いたずらな笑顔に素直に頷けば、清水はもったいぶった言い方したようだけど「できて」と言った時点でもう、あぁ出来てないんだなと理解出来た。
1人で笑う清水が気の毒で、そんな清水が面白くて私も笑った。
「清水だってだめじゃん。」
言い返せば、相変わらず笑う清水。
清水はばかで子供みたいに見えるのに、たまにどうしてかこっちが子供扱いされているような気になる。
海岸沿いを真っ直ぐ歩く。
ゆっくりゆっくりと。
少ない電灯は乏しい光しか与えないけどそれがまた落ち着く感じ。
波の音が微かに聞こえてくる。
こんな所で愛の告白?
うん、悪くない。でも、フられたらキツいかな。一生この場所が嫌いになりそうだ。いや、新しく恋をして新しい彼氏が出来た時にここでデートをしてやろう。
この先どうにでもなりそうだ。
ならこの素敵な場所で想いを伝えてみるのもいいんじゃないか、そんな風に思った。
「清水」
「空」
言葉が重なった。
はた、と目があって洒落にならないくらいドキドキしてきた。
心音がバレそうとはよく言うけど、まさにその通りだ。
「先、言っていい?」
1人で胸を押さえて煩い心臓を止めようとしていると、落ち着いた声で清水は言ってきたから、こくこくと数回頷いた。
すると清水は立ち止まって、不意に海の先を見つめていた。
「その前に…ちょっと浜まで行こう。」
伝えようとした事を溜めた様子のままの清水は、少し強引に私の手首を掴んで引っ張るように一気に砂浜まで行った。
早歩きの清水に小走りでついて行ってもまだ追いつけないくらいだった。
あっとゆう間に海水のすぐ側まで来てしまった。
驚いた私は声も出なかった。
ただ頭の中では、そんなとこ持たれたら脈でどきどきがバレるんじゃないかなんてゆう、可愛げもくそも無い不安でいっぱいだった。
すると、清水は「よし」と小さく呟いた。
「いい?よく聞いてて。」
私はまだうまく思考回路が回らないまま頷いた。
思いっきり、息を吸って只でさえ分厚い胸を膨らます清水。
「好きだーっ!!」
耳がビリビリするくらいの大きな声。
海の先に広く響くような低い声。
そして、胸を締め付けるような素敵な言葉。
ねぇ、それって私のことでいいんだよね?
海に向いていた清水は、私へと向きを変えて、照れたように後頭部を掻いた。
「返事、下さい。」
優しく笑いながら言う彼に、私のことだったんだと確信すると私も海の方を見た。
小さい胸を目一杯膨らませて息を吸う。
海の先、どっか遠いとこまで、そして何より隣に居るこの人に届くように。
「私も好きぃぃー」
籠もったような全然可愛い声じゃないけど息の続く限り語尾を伸ばした。
これがまたびっくりするくらい気持ちよかったんだ。
すると、背中が急に熱くなり、逞しい腕が肩を締め付け彼の髪の毛が頬に触れた。
後ろから包み込まれるように抱きしめられた私は、黙ってしまった。
「まじ?」
低い声が鼓膜を震わせる。
「まじ。」
「本気?」
「本気。」
「じゃあ……」
そう清水は言い、私は肩を持たれて無理やりぐるりと清水の方へと方向転換させられた。
「付き合ってください!」
改まって、嬉しそうな彼は言ってきた。
「お願いします!」
そう返した私も、清水以上に嬉しそうな顔をしているんだと思う。
家に着くまでの帰り道は、手を繋いで歩いた。
ここは結局、一生大好きな場所になった。
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