いつも側に居れたなら…



冷たい手




本当に最近、一気に冷えた。
道の端に溜まる茶色の落ち葉を踏んで、音を鳴らしてみる。


トレーニング、したいな。
きっと身体が温まる。


オレでさえこんなに寒いんだから、空はもっと寒いのかな。
なんて、考えたら、待たせてたらどうしよう、なんて方向に考え出して、走って待ち合わせ場所に向かう。

頭が足りないから、ちょっと早めに家を出たことも今思い出した。



あぁ、やっぱり。早く着きすぎた。



それでも、空は少し待てば来てくれた。



「ごめんっ!邦広、待った?」


小走りで駆け寄ってくる栗色のふわふわした髪の子を笑顔で迎える。
どうしても口が緩むんだ。



「全然。はは、前髪、上がってるよ?」



走ってきたせいか、普段は見えない小さな丸っこい額が少しだけ覗いてる。

なんだか可笑しくて笑って指摘してやる。
そして空が直す前に、俺が直して、さり気に撫でてやった。

撫でたくなるのは、子供扱いしてるんじゃなくって、愛しいから。




「さっむー」



肩を竦める空。

うん、確かに寒そう。
空はいっつも暖かいからなぁ。他の人より寒がりなんだと思う。



「手が、寒いよ。」



そう言いながら両手を擦り合わせる空。


指先、赤い。


空の手は今日ここに来る前に見た落ち葉のようだった。



「かして?」



そう言い空の手を取ると、本当に冷たかった。



「うわ冷たあ、」



空の両手を俺の両手で包んで暖めてやる。



「邦広、あったかいね。」



「オレあんまり冷たくなんないよ。」



「いいなぁ。私冷え症だから、羨ましい。」



ふんわりと笑う表情を見るだけで嬉しくなる。

空の手を包んだまま、そんな話しを続ける。



「夜とかね、眠れないんだよ。足とか冷たくなっちゃって、」



空はオレの手を見つめながらそう言った。

え、冷え症って眠れなくなるんだ。
かわいそうだな。寒い夜に眠れないなんて。



「つらいね、」



気の利いた言葉が思いつかないからそのままの感想を言った。
たぶん空はオレに気の利いた言葉なんて期待してないから、別に大丈夫だけど。



「こうやって、邦広がいっつも暖めてくれたらいいのに…。」


穏やかな表情で、そう呟いた空。

聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声を逃さなかった。



可愛いこと、言うなぁ。


って、まず第一にそんなことをぼんやりと思ったオレは、良い彼氏ではないのかもしれない。



「ずっと、一緒にいれたらいいのにな。」



ずっとっていうのは、永遠て意味じゃなくて、一分一秒のこと。
待ち合わせなんてしなくて良いくらい、片時も離れなかったら良いのに。



「ほんとね。」



空は困ったように笑いながらそう言ってくれた。




「ずっと一緒に、いようよ。オレと。」




空の控え気味に伏せられた目に向けてそう言う。

すると空は驚いたように目を開き、顔を上げておれの方を見たから、目が合い、見つめあえる。



みるみるうちに空の頬が赤に染まっていく。


オレの頬はというと緩みっぱなしな訳で。




「うん。ずっと一緒にいよ?」



そんなオレを見つめる黒い大きな瞳が細く歪む。
はにかみ笑いながら、そう言い、嬉しそうだ。
良かった良かった。





暖めるために包んだままの手。


いつの間にか空の手はオレの温度になっていた。




「あー、オレさ、冬好きだ。」


幸せに微睡んだ脳みそをそのままに、そうぼやくと、空は不思議そうに首を傾がせる。



「どうして?」



「空のこと、暖められる。」



いつも支えてくれる空に、オレに出来る些細なこと。


バカで頭悪くて、そんなオレにも出来ること。




「それに、空とくっつける。」



悪戯に笑い言えば、空はしっかり照れてくれる。



「ありがと。」



空はそう言うと、手を自分の頬に持って行き、オレの手の甲を頬にくっつける。

強くく目を閉じて「んーっ」と言い大切そうにしている。


そうゆう仕草が、可愛いんだよなぁ。




「すごい、手、暖かくなった!」


手を離したら空は嬉しそうに目を細める。
オレも嬉しくなって、相も変わらずだらしなく笑った。


「良かった。」







ずっと一緒に居れたなら、
オレに出来る少ないことを
ひとつひとつ見つけて、

冷たい彼女の手とか、
普段の見えない苦労とか、
少しでも楽にしてあげたい。

不器用なオレには、
一生をかけてもお返しできないから。
だから、この先も、
一生、そばに居て欲しい。











エンド




アトガキ
ここまで読んで下さりありがとうございました!短めでした。チューなしハグなしの甘さを求めたのですが…ううん、難しい。