君に気持ちを伝えるときは

雨の降る日にしようと思うんだ。
















薄暗い今日という日は、やけに雲が低くて分厚いから気味が悪い。


じめじめと湿気が濃くて、しかも蒸し暑い。この籠もった暑さはダルくなるし、しかも変な汗まででてくるからタチが悪い。






この空気のお陰で、いつもより体育館のフロアが湿っていて、必要以上にシューズの滑りが悪くて、オレ的には動きやすかったりした。






今はシューズの靴紐を解いて、さらに緩めていた。



雨の音が外から聞こえる。









「清水くん、氷嚢はそこ置いたままでいいからねー?」






もうみんな帰っちゃって静まり返った体育館に向けて外からマネージャーの空ちゃんがそう言ってきた。







「はーい。」








空ちゃんは可愛い。
見た目も勿論だけど、行動もだけど、性格も。


そして、優しい。
性格だけじゃなくて、すべてが。



オレには、オレみたいなヤツには空ちゃんみたいな子が必要だと思う。






重たい腰を持ち上げて立ち上がる。







「ぶっ!」




氷嚢を近くのベンチに置いて、外へ出ようとしたら、体育館に入ろうとした空ちゃんにぶつかった。

ぶつかった空ちゃんは、見事に壁にでもぶつかったんじゃないかというような声をだした。






「あ、ごめん!大丈夫っすか?」




「あはは、ごめんね!大丈夫だよ。」







すると、外が一瞬光った。


暗かった空が急に光った、しかも腹に響く様な音と共に。








「っ!!」





雷か、と気づいた時には、空ちゃんは小さく悲鳴を上げて、オレの胸にくっついてきた。





まじですか。
なんかもう、凄い状態。
頭が回転しなくなって、そのまま固まったまま。








「やだっ!怖い怖い!ほんっとに無理ッ!絶対やだ…」






小さな声で呪文みたくそう繰り返す空ちゃんの肩は細かく震えていた。







「空ちゃん?」






「あっ、…ご、めん!」







雷はその一回だけで、空ちゃんはすぐパッと離れてしまった。







それでも震える肩。

ほんと可愛い。

また雷鳴ればいいのに、とそんな下心丸出しなオレの願いは叶わず。





さて、この虚しい気持ちを置いて、さっさと帰ろう。







「すごい雨…」






空ちゃんのそんな独り言に返事をしないまま、帰る支度をした。





変わらず雨の音がノイズのように聞こえてくる。





靴をはいて、さぁ帰るぞ。




エナメル質のスポーツバッグをかけて、両手が何故か寂しい。



…あ、





「傘、持ってきてない!」






ショッキング。
達哉がいたのならきっとツッコミいれられてる。「気付くの遅いわ」って。







「清水くん、気づくの遅くない?」






後ろから、苦笑まじりに空ちゃんが言ってきた。





だからオレも苦笑で返してみた。
意味もなく、後頭部を軽めに掻きながら。






「あ、傘、貸そうか?」





慌てて空ちゃんは手に持つ薄紫の紫陽花のような色の傘を、オレへと差し出した。






「いやいやっ、大丈夫!走って帰るし!オレがそれさして帰ったら、今度は空ちゃんが濡れるやん。」



「んー、まぁそうだけど…」



自分より周りのことを考えられるところが空ちゃんの良いところだ、そんな風に思った瞬間だった。




「ありがとう、空ちゃん。」




心配そうな空ちゃんの顔を見て微笑んでやるけど、未だに難しい顔をしている。



オレの微笑みも苦いものに変わっていく。





止む気配のない土砂降りの雨を目の前に立ち尽くす。
雨が騒ぐから沈黙も気にならない。





「あっ!」



急に思い付いたような声を出して、そんな彼女の頭の上に電気マークが点滅してるように見える。




「じゃあ、一緒に帰ろう!傘2人で使ってさ。」





「えっ!?いいの?」




そんなオレの言葉が聞こえなかったのか、傘を広げだした。





もうオレの言葉を聞きそうにも思えないから、急いで傘の下に入って、空ちゃんの手から傘を取って持った。




右の肩は触れ合ってて、左の肩は濡れてる。





普通な事なんだけど、幸せが溢れるんだ。







雨の音。


胸の音、








「空ちゃん、





オレと付き合わない?」


















エンド