バチっ


「「いてっ!」」





乾燥注意報





邦広が私の頬っぺたに触れた瞬間、私は頬っぺたに、何かが刺さったような痛みを感じた。




咄嗟に言った言葉が邦広と上手くハモったから笑ってしまった。

おそらく邦広は指先にその痛みを感じたんだろう。





「静電気だー」



そう。今邦広が言ったように、犯人は静電気。


せっかく良いムードだったのに…。




「台無し…、」



私はそう呟いた。
邦広はというと、相変わらず笑ってるから、私が呟いたのもきっと聞こえて無いだろう。





「乾燥してんのかな?」



邦広は笑いながら、痛みを感じたと思われる指先を見る。
私もつられて笑った。




「しょっちゅう注意報出てるみたいだしねぇ、タオル濡らして干してくる!」




台無しになってしまったラブラブモードを取り返そうという気にもなれず、立ち上がってタオルを濡らした。




あーぁっ

本当に久しぶりだったのに、あのキュンとする雰囲気。
ついてないわあ、




そんな事をうだうだ考えつつもまた邦広の横に座る。




「空ー?リップある?」



「ん、あるよー、はいっ」



「ありがとー」




私はいつも香りのあるリップを使うんだけど、邦広が使う薬品っぽいリップも最近はよく使ってて持っていたからそっちを渡した。




リップを付けた後、邦広が私の肩をトントンと軽く叩いた。

振り向くと、薄く微笑む邦広。
どこか大人らしい笑顔を浮かべる。




「間接キスだね、」




そんな事を言うから、長く付き合ってる私たちはいつまでも新鮮だ。


そして、普通に何気ない事なのに、照れちゃう。




「うん。」



緩む口元を我慢しきれずに返事をした。





「空の唇はカサカサになんないねー、俺すぐなるよ。練習中とかさ、気付かないうちに勝手に切れて血ーでてるし。」




「私はメイクとかもするし、結構マメにリップつけてるしね」




「あー、そっかあ」





邦広があんまりジッと私の口元を観察してるから、ちょっと恥ずかしくなって、背もたれから背中を離して俯いた。


すると隣の邦広は、真っ直ぐ向き直った。



「空、」




「ん?」




「おいでー」




胡座をかいて座る彼は、自分の膝をパンパンと叩いて、イタズラっぽい笑顔で言ってきた。





「いくー」



お言葉に甘える事にして、大きくて逞しい邦広の足の間に座った。


そして安心する逞しい胸板に後頭部を預けた。





おちつくな、





邦広の大きな手が私のお腹辺りで組まれたから、私はその手を握った。





「タオルの成果ってすごー」



「ん?」




「静電気こなかったね、」




「そうゆうことね」




別にタオルはあんまり関係もない気がするけど、と言おうと思ったけど黙っといた。


なんでって…、
またいいムード戻ってきたから、静電気を記憶から抹消したかったから。←






「じゃあ、今度は大丈夫かなあ?」




今日の邦広はよく喋るな、そう思いながら、「何が?」と尋ねた。





手がスルリとほどけたかと思ったら、邦広の右手は私と繋いで、
左手は私の顎まで来て、くいっと持ち上げて、私は自然と天井を見るかたちになった。




すっと邦広の顔が見えた。


真剣な顔して、真っ直ぐに私を見つめる邦広が、いつもよりかっこよくて、見とれてしまった。




すると、邦広は、私の鼻の先に触れるだけのキスをした。



驚いたのか照れたのか分からないけど、笑ってしまった。





そんな私を邦広はヒョイッと持ち上げて、正面を向かせた。


動物みたいに私を動かしちゃう邦広。
身長差がこれだけあるとそうなっちゃうのかな。





そして邦広と、やっと、口付けた。




なんの深さもない、長いキス。









「「…っ!?Σ」」





邦広が、私の耳あたりを触れた瞬間だった。






やつが来たのは…、






驚いて二人離れた。






「…静、電気……?」





私が言えば、邦広は顔を赤くして目元を片手で覆っていた。







「ありえないね、今のは」




邦広は苦笑しつつ言った。




もう、そんなん、笑うしかないじゃん。





暫し二人して笑ってた。







「もー、静電気きらいーっ」



「つか、なんでこんなに乾燥してるの?」





けたけたとバカみたいに笑ってた。







「キスくらい、いつでも出来るよ」



「そだね、」







君といると、

全部がプラスに変わっていくね。








乾燥注意報、乾燥注意報


キスの取り扱いに、

ご注意下さい。








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