青い風が吹いて、冬の香りが鼻をくすぐる。
白い息を吐けば、寒さを感じる。
さて、そろそろ彼が来る。
今日は久々のデート。
私はちょっとだけ早めに着いてしまったらしく、待ち合わせ場所の時計台には邦広はまだ居なかった。
腕時計を見れば、長い針は10を指していた。
待ち合わせ時間は午後5時。
10分前についてしまった。
「空!」
背後からのいきなりの声に驚き素早く振り向いたら、邦広が居た。
「びっくりし…」
「ごめん!待った!?」
私の言葉を遮って、さらに音量も上回って言ってくる邦広に少しだけ笑った。
「んーんっ、さっき来たとこ。」
「良かったあ」と呟く邦広。
「いこっか」と私が言えば、二人で並んで街を歩く。
並ぶ影もいつの間にか消えていた。
「日が短くなったんだね」
空を見上げて空に向けて白い息を吐きながら邦広は言った。
「もう暗いね。」
「寒いしねえ」
そんなありきたりな会話らしい会話をしていたら、ふと左手が暖かくなった。
交互に重なる指。
私とは比べ物にならないくらい大きな手は、すごく暖かかった。
「空の手ぇめっちゃつめたい」
「邦広の手はあったかいね」
「手袋持ってないんだ?」
「いや、つけないだけ」
ギュッと手に力を込める邦広。
優しい笑顔に、胸がどきどきしてしまう。
どうしてこんなに暖かく笑えるんだろう?
「でもまあ…」
そこまで言って一呼吸置いて、今度は少しだけ恥ずかしそうな微笑みを浮かべた。
「オレが暖めてあげるから要らないか。」
歩くのに合わせて繋いだ手を振る。
男らしくて分厚くて大きな邦広の手と、照れ臭い言葉に、早くも私の手も暖かくなった。
「邦広、好き。」
堪えきれず溢れ出た言葉。
もちろん邦広は聞き逃さなくて、突然強引に抱き寄せられた。
そんな行動とは裏腹に、笑顔の二人。
「うはは」
邦広のふざけた声。
覆い被さる邦広に、私は少しだけ背中を反る形で苦しい。
「くるしー」
笑いながら言った。
繋いだ手は離さないままで。
邦広は私の耳に口を寄せた。
「大好きだよ。」
そう呟いた。
繋いだ手
離さないでいて。
ずっと、
ずっと。
エンド