(やこやこヒット)
まだまだ終わらせない。
ひと
スポーツ選手に怪我は付き物。
この言葉を何度頭の中で反芻してみたって、納得なんて出来るわけなんてなくて。
きっと、こう思うのは俺だけじゃない。
分かっちゃいるんだけど、どうして俺なんだ、とヘコむことだってあるわけで。
こう、落ち込んで、モチベーションが下がっている時は、何を言われても響かないし、吸収しようとしてもそれは上辺だけで、本当の中の方には届かない。
都合良いなー、とか、あんたには分かんないだろ、とか考えてしまう。
そんな自分にも腹が立つんだけど。
「大輔ー、暖かいもの飲む?」
大切な彼女が隣に居るのに、やっぱりなんだか機嫌よく出来ない。
我ながらガキだ。
空なら許してくれる、そんな甘え。
つまり八つ当たり。
「もらう。ありがとう。」
機嫌が良くない俺を、と言うより落ち込んでいる俺を気遣って、笑顔で紅茶を作りに行った空。
キッチンに目を向けると、落ち着いた様子の空の背中。
せっかく久々に会えたのに、こんな俺でいいのか?
そんな思いが込み上げてきた。
情けねーなって。
重たい腰を上げて、体のあちこちが軋むのを感じながらキッチンの空の元へと行ってみた。
「どしたの?座ってていいよ?」
驚いた表情の空は「もう出来るよ」と付け加えて言う。
そんな空の小さな後ろ姿に、抱き付いてみた。
なんとなく、離れていくな、なんて我が儘な気持ち。
けど「離れていくな」なんてこと、俺は言えない。
「だい、すけ…?」
「ごめんな。」
空が俺の名を呼び終わらないくらいの時に、詫びた。
「なにが?」
「だめだよな、こんなんじゃ。」
空の肩がストンと、力が抜けた気がした。
「空に気ぃ遣わせて、久々に会ったのに、まじごめん。」
空を抱く俺の腕を、彼女はぎゅっと握ってきた。
「そんなの、気にしないで?どうせ、大輔のことだから、今まで頑張って笑ってたんでしょ。私の前では、無理しなくていいよ。」
一つ一つの言葉を慎重にとるように話す空。
選ばれた言葉達は俺の鼓膜に小さく響いて落ちていく。
そして気付かされる。
「だいじょうぶ。分かってるから。私は、嬉しいよ。頼ってもらえるの。」
あぁ俺は、幸せ者だ。
空は、すごい。
きっとただ「好き」だけで付き合っている訳じゃない。
「好き」だけで成り立っている恋愛じゃない。
「ありがとう。」
そう言えば、空は小さく笑って
「ほら、せっかく煎れたのに、冷めちゃう。向こうで飲もう?」
そう言うから、手を離す。
くるりとこちらを向く空の笑顔がやけに優しくて、何故か辛くなる。
カップを1つずつ持って、座る。
空は俺の隣、ぴったりとくっついて座る。
「大輔ー、」
「ん?」
「ありがとう。」
言葉の理由が分からず、空へと顔を向けるが、空はカップの中を見つめている。
「たいしたこと、出来なくてごめんね。」
困ったように笑いながら零す空。
何を言ってんだ。
「たいしたこと、してる」
ちゃんと俺を支えてくれてる。
本当にささやかな行動で、言葉で、こんなにも俺の力になってるんだ。それが、「たいしたことない」なんて言わせられない。
「ほんとう?」
優しく微笑む空に、真面目に数回頷いた。すると、空はようやく顔を上げて、再び「ありがとう」と言った。
礼を言うべきは俺の方だ。
「こっちのセリフだって。」
苦笑い気味に言えば、控えめにくすくすと笑うから、俺まで少し顔が綻んだ。
とん、と空の頭が俺に寄りかかった。
同時に体重も少しだけ預けてきた。
さあ、こんな空間を何と呼ぼうか。
俺はたまらず空の肩に腕を回し、抱き寄せた。
そして俺からも、小さい空の頭にそれを乗せた。
お互いがお互いの体重を預け合う。ほんの少しだけ。
なぁ、こんな風にこれからも、
支えあえれば良いと思うんだ。
共に「ありがとう」と素直に言い合えて、
お互いの辛い部分を預け合えて、
君さえいればもう
こわいものなんてない。
(君の眩しい笑顔の裏側に張り付く影を、私にだけ見せて欲しいの。)
エンド
アトガキ
はい!初八子です!ごめんなさい。糖分控えめです。感謝の気持ちを込めました。ここまで読んでくださりありがとうございました!