(なおこ様リク)










「君の笑顔を
僕だけのものに」
なんて
らしくもないことを
思ってしまっている。










appeal











「「空っ」」







「わ、横田とハモった。」






俺が一瞬嫌な顔をしたのにも関わらず、空を挟んで向こう側に居る八子は何故かニンマリと笑ってきた。







「たぶん、俺のがちょっと早かったよ?」







何でも良い。
空と一緒に帰るのは俺がいい。






「ウソだ。多分俺がちょっと早かった。」







だから何でお前はそう楽しそうなのか。



ここ最近はもうずっとこんな感じだ。
お互い口には出していないけど、お互い知っている。
八子は空のことが好き。
だけど俺だって空のことが好き。







「…ってアレ?」





肝心な空が居なくなっている事に気付いたのは、たった今。




小さいから見えないんだよ。多分俺達がデカすぎるんだろうけどさ。







「ほら、いなくなっちゃったじゃん。」






そう言いむっと口を結んだら、八子もキョトン顔をして辺りを見回した。






こんなやり取りも嫌いじゃないと思えるのは、相手がコイツだから。
俺なら自分みたいな陰湿な奴はイヤだけど。


苛立つ時も決まってコイツだから、真っ向から向かえる。





だがそろそろ、男を見せたい。





空も鈍感じゃないから分かっている筈だ。俺と八子の熱烈なアピール。







「みっけ」






真っ直ぐ見た先。体育館を出て屋根の着いた渡り廊下の様な所をてくてくと歩く空。
遠くに見える。






走って追いかけようと小走りを始めた頃。
後ろから同じような小走りの足音。

ふと後ろを振り返る。










「や、こぉお!?」



「俺んが先に見つけたからっ」



「いや、俺だし、ってか速え!」





何が嬉しくて試合の後に全力疾走しなくちゃいけないんだ。


あちこち痛いっつーの!





2人して「うおおお」なんて叫びながら走る。



トレーニングかよ。





抜かされては追い越し、それを繰り返し先を見ると、




「きゃああああっ」





空は悲鳴を上げ逃げていた。

そりゃあそうさ。
190オーバーの大男が2人して全力疾走で迫ってきているんだから。





冷静に考えればバカな話だ。




普段は冷静な方だ。
だけど、真面目な性格のせいで熱くなったときにはとことん入り込む。

証拠に、今だって走っている。
全力で。








どうにか空を止めて、俺は肩で息をする。
空はというと、けらけらと楽しそうに笑っているけれど。







「やっと、追い、ついた……」




尚も隣に並ぶ八子は膝に手をついてそう零す。
俺は腰に片手を当てる。






「なあに?2人して。」







薄く微笑みかけ首を傾がせる彼女。



あぁ、こうして空を改めて見ると言葉につまる。




隣に居るアイツもきっとそう。




体が熱いのは、走ったっていう理由だけじゃない。











「「あのさ、」」





まさかここでまたハモると思わず、八子とはたりと目が合った。









「待って八子、お前は空に何て言うんだ?」






「え?俺?えーっと…一緒に帰ろって。」








少し照れた様子の彼に、俺は俯きながら「言っとくけど!」と多少声を荒げた。






「俺は、」






そう、俺は、
俺も、最初は「一緒に帰ろう」と誘うつもりだった。


だけど、いつも同じじゃダメだから。




例えば、八子と同じ練習メニューをしたとしても、俺よりも八子の方が上達が早いのと同じ。
八子が出来上がる時間よりも、俺は少し時間が必要なんだ。




後乗せの『補習』じゃ駄目なんだ。
それじゃあ遅いんだ。


ズルくても、少しでもスタートを早くしなくちゃいけない。








だからつまり、








「俺は、空に、」






真っ直ぐと八子を見ると驚き目を丸くしていた。
ちらりと横目で戸惑う空を写して一呼吸置いた。

そして、息を吸った。









「俺は空に、好きって言いに来た。」








そう言えば、いわゆる草食系男子の八子は驚いたままの目をぱちくりとさせただけだった。






横を向き、空を見ると真っ赤な顔をしていて、今すぐにでも抱きしめ、その熱そうな頬を両手に挟んで温度を感じたくなった。







「そうゆうことで、」





勢いで言ってしまったから、急に俺自身照れた気持ちが込み上げて体中が熱くなる。


だけど、空に少しでも意識して欲しくて、早くからアピールした分時間をかけて俺を好きになって欲しくて。







「空のこと、大好き。」







飾り気のない、素朴な言葉を紡いだ。





薄く唇を噛んだ空は目をそらしたから、今すぐに返事は無いと分かった。
だから、無理になんて言いたくないから返事は催促しなかった。






後ろから、長いため息が聞こえた。
八子の口から漏れたものだろう。








「横田ぁ、ずるいぞ、お前。」





むっと口を尖らせた八子も何故だか照れていて、拗ねたようでもあったけどその後に苦笑を漏らしてきた。







「ルールなんて、ないだろ?」





ニッと口角を上げると、「そうだな」って参ったような表情を浮かべた。
だけどその細められた目の奥にはまだ「諦め」なんて言葉は浮かんでいなかった。







「空、返事はいつでも良いよ。俺ずっと、待ってるから。」







真面目過ぎるだろうか。


いやでも、それこそが俺だろう。










      *



―後日







「横田っ!」






練習後、空が学生の頃と同じ様に名字で名を読んできた。


顔を向けると、ジェスチャーで指をちょいと数回動かしおいでとしてきたので向かう。








「どーした?」






春の風が頬を掠め、空の髪を靡かせる。

体育館の出入り口。
改まった様子の空の表情にいつもの無邪気な笑顔は無く、返事が来るという謎の雰囲気を感じ取った。






「この間の返事だけど、」






ゆっくりとした間合いで告げられる言葉は微かに震えていて、空がどれだけ考えたかが伝わってくる。

きっとあの後に八子にも想いを告げられただろう。
奥手な八子でも、目の前であんなことされたんじゃあさすがにそうしたことだろう。






優しい空を悩ませることは分かっていた。
それでも伝えたくてどうしようもなかった。




空が息を小さく吸った事から、次の言葉がどうであろうと受け入れる覚悟を決めた。




空はジッと俺を見上げた。

そして、








「私も、横田が好き。」







飾らない言葉が、空の口から紡がれた。

ふんわり笑う空の頬は桜色。












思わず力強く抱き寄せてしまった、春の始まり。














エンド







オマケ










「おい八子、空にベタベタするなよな」




「ルールなんてないって言ったのは横田だろ?」




「え…?」




「まだ諦めてねーもん。」






眩しい笑顔を見せる奴。
あぁそれでこそ君だ。



「なぁ?」って笑いかけられた空が一瞬緩んだ表情を浮かべたもんだから、





「空、こっち!」







八子の隣りに立つ空(空に悪意は無い)の手をぐいっと引く。





「今空は俺と喋ってたんだけど!」





空は反対の手をぐいっと八子に引かれた。






「ちょっ、2人とも、痛いし!」





戸惑う空を挟んで、また彼女の頭上で今日も火花を散らす。














エンドエンドエンド












アトガキ


なおこ様、素敵なリクエストをありがとうございました!もっと若々しくフラットな感じにしたい思いがあったのですが、少し重くなってしまったので最後に少しまたバトルを繰り広げさせたのですがどうだろう、という感じになってしまいました。初横田さん夢、イメージと違っていましたら申し訳ありません。長くなりましたが最後まで読んで下さりありがとうございました!