(雄麻様リク)
日程が、合わなすぎる。
デートなんてもういつからしてないっけ。
仕事の昼休み中。
100パーセントのオレンジジュースとランチパックなんていうベタな組み合わせを机に置き、携帯の液晶を眺めがっくりと肩を落とす。
「来週の、木曜日は、仕事なんだ、っと。」
大輔からのお誘いを残念ながら断らなくてはならなくて、謝罪のメールを返す。
それから、私の都合の良い日でのお誘いも加えた。
すると急にかかってきた電話。
それが大輔だと気付いた瞬間、心の中に風が入り込んだような、そんな心持ちになった。
ただ顔は熱くなる。
こんな自分を感じるほど、どれだけ彼のことが好きかを思い知らされる。
「もしもし!大輔?」
『もしもーし、今昼休み?』
「うん、って言っても後10分。」
『まじで?飯食えてる?』
「大丈夫大丈夫〜」
返事をしつつ、まだ開けてないランチパックを鞄の中に閉まって時計を見た。
『あぁ、そうだ、日曜はね、俺試合。』
「そっかぁー、うーん、いつ会えるかなぁ。」
『んー、空次日曜しか休みない?』
「うん、そうかも。夜も遅いもんなぁ私。」
『じゃあ、日曜会おうか。』
「大輔試合でしょ?疲れてると思うし、そんな」
『いーんだって。夜空けとける?』
「え、空けれるけど…」
『じゃあ決まり。仕事頑張ってね。俺も練習頑張ってくる。あと、飯ちゃんと食えよ?体調しっかり整えないと…』
「分かった分かった!もう大輔心配しすぎ。」
一気に言ってくる彼の言葉を遮って笑いながら言う。
すると、大輔も笑っていた。
『じゃ、また。日曜夜、無理そうだったらまた連絡してね。』
「はい、じゃあまたね。」
電話を切って、ふわふわした気持ちのまま一息ついた。
そして気合いを入れるため、「よし」と口の中で呟き席を立った。
*
時計台の下は、多くの人が待ち合わせ場所として使う。
それぞれの人がきっと、様々な心持ちで誰かを待っているんだと思うと何だか面白い。
みんな人だなぁって。
あぁあの人は少しそわそわと時計を見て焦っている。その横の女の子は誰かを探していて、あ、男の子も探してる。恋人同士かな。近くのサラリーマンは苛立ってるのがここからでも分かる。
あの恋人同士が出会うその瞬間が見たくて、歩く足を遅める。
そして、お互いに名前を呼び合い顔を合わせた瞬間の2人の笑顔を見て、胸がキュッてした。
私も、私も早く会いたい。
逸る気持ちは足の速度に変わる。
時計台から少し離れた所、少し隠れた所、ここが私たちの待ち合わせ場所。
壁にもたれかかるジャージ姿の長身。
見つけた瞬間に、
なぜだか泣きそうになった。
イヤホンをつけている大輔は、背中を壁につけてもたれ掛け、片足は緩く曲げて靴の底もその壁にくっつけている。
もう薄暗くなる空を見上げている様子は、本当に絵になる。
かっこいいよ。かっこよすぎる。
久々に見るせいか、ピストルでドキュンなんて可愛いもんじゃなく大砲級の威力を持つかっこよさ。
まだ少し距離はあるが、なんとなくこれ以上近付くのが怖くて、私はこの距離のまま名を呼ぼうとした。
スッと冷たい息を吸った所で、不意に大輔がこちらを向いて、驚いた表情を浮かべた。
「空!」
先に名を呼ばれてしまった。
大輔は私を見たままイヤホンを外して、目を細めてにっこりと笑った。
この笑顔の威力は、爆発的な威力。
私もつられて笑った。
泣きそうなのは隠した。
怖くて近寄れないなんてこと言ったけど、気付けば駆け寄っていた。
こっちが名を呼ぶ前に気付いてくれる感じとか、素直に嬉しそうに目を細めてくれる感じとか。大輔は私を喜ばす方法を知っているようだ。
本人は意識していないようだけど。
「大輔っ」
大きな、本物の、実在する大輔を見ると駆け寄ったその勢いのまま抱き付いてしまった。
大輔は両手で受け止めて、ぎゅっと肩を抱いてくれた。
「久しぶり、だ。」
そう呟く大輔。
やっぱり、泣きそう。
最近仕事ばっかりで疲れてるんだ。だから涙腺がこんなに…、
「空?泣いてる?どした、なんかあった?」
いや、違う。疲れてるとか関係ない。
やっぱり、大輔に会えたから。
会いたい会いたいと何度も心の中で唱えた願いが叶ったんだ。
そりゃあ涙も出る。
私は顔を左右に振って泣き笑いで、心配そうな大輔を見上げた。
「大輔のせいなんだから!」
そう言ってやれば、一瞬驚き目を丸くさせた大輔。
その後、私から目をそらして唇を軽く結んだ。
その照れたような仕草も、私にとっては苦しいくらいに幸せに感じさせてくれる大切な仕草。
あぁもう、まばたき、したくない。
大輔は、困ったように笑った。
「可愛いすぎるんだけど。」
そう零す大輔に私も照れて笑った。
「すげー…、会えなかったぶん、今俺我慢できない。ガキくさいな、ごめん空。」
抱きしめながら、たぶん少し笑いつつ言う大輔。
「私も同じだよ。」
そう返したら、「ははっ」って満足そうな笑い声が聞こえた。
きらきらな笑顔がもう一度見たくて、体を離して大輔を見つめてみる。
大輔は、やっぱり明るい笑顔を浮かべて額と額をコツンと合わせてきた。
こうしたときに曲がる彼の背中。
これもまた、愛おしい。
「キスしてい?」
少し真面目な顔をした大輔は、顔と顔が至近距離なまま問うてきた。
一応外だし、気を遣って聞いてきたのだろう。
「したい。」
私はニッと口角を上げて言うと、再び困ったように笑ってきた。
そして大きな手は私の耳をかすめ頬を包む。
頬と掌の間の自分の髪の毛がもどかしい。
顔を傾けた大輔が薄目を開けてゆっくりと近づく。
私は薄く目を閉じた。
その瞬間に、唇に感じる幸せ。
1秒で離れるそれがたまらなく切ない。
離れてまた視線を交え合わせると、大輔は私から顔背け「もー、」と呟いた。
「ここ、あんま周りから見えないよね?」
大輔の問いに、辺りを見回す。
「大丈夫じゃない?大輔の背が高くて目立っちゃうからって見つけた絶好の待ち合わせ場所じゃん。」
私が少し前のことを思い出しながらそう答えた。
すると、「だよね」なんて言った彼。
今度は、私の頬にかかる髪の毛の下に手を入れて直に頬を覆う。
すごい、気持ちが伝わったみたい。
そんなことをぼんやり考えていると2度目のキスが降ってきた。
「好き。」
真剣な顔のまま聞こえるか聞こえないかくらいの声で、しかもやけに色っぽくかすれた声で、そう告げられて息が止まりそうになった。
私も好き、とそう伝える前にまた口付けられて言えなかった。
唇を啄むように、だけどすごく優しく。
角度を変えて何度も降り注ぐそれは、今までの会えなかった時間の分を取り返すかのよう。
それから、お互いどこかで感じていること、きっとまた会えない日々が続きその上頑張らなければならない日々も続く。
その時の分まで、また会える時まで頑張れるように、って言いあっているみたい。
どろどろに溶けそうな意識のまま、夢中になった。
「私も、だいすき。」
伝えることに、
夢中になった。
つま先立ち、まがる背中
(きみを、補給!)
「空、」
「うん?」
「仕事も頑張って欲しいけど、俺のこともたまには相手してよ?」
「…っ!?」
可愛いすぎるイケメン。
それ私が言うべきじゃなかった?
こっちがキュンってしちゃったじゃん。
エンド
アトガキ
雄麻様、素敵なリクエストをありがとうございました!長々とまとまりのない文章になってしまいました。それから接吻の嵐、すいません。イメージと違っておりましたら申し訳ありません。最後まで読んで下さりありがとうございました!