(りぃ様リク)






遠い君を手に入れることは




できない。





きっときっと




向こうからしたらただのファンだから、これ以上の関わりになるなんて無理だと知っている。

だけど諦められない事実は確かで、どうせダメならしっかり彼自身から「無理だよ」って言ってもらえた方が、気持ちも楽になるのじゃないかと考えた。



だから、


伝えてみたんだけど、




「本当に、大好きなんですっ、恋愛的な意味で…」




「ありがとうございます。」






長身の彼は飄々としていて、薄く笑ってそんな言葉をくれた。



応援してるだけじゃ苦しくて、
好きだけじゃ、足りない。


だから、だから届いて欲しいよ。


難しいことくらい分かってる。
だけど1パーセントの確率だとしても、そんな小さなものに縋ってみたいんだ。




「あの、本当に…」


「いつも応援ありがとうね。知ってるよー、いつも来てくれてんの。」




私の言葉にかぶせて告げられた言葉は、今の私には苦しすぎた。



「じゃあ」と片手を上げて行ってしまう阿部さん。
嫌だ行かないで、私まだ、何にも伝えられてない。

そんなことを心で叫んだ頃には、体が勝手に動いて追いかけていて、あろうことか阿部さんのジャージの裾を掴んでいた。



驚いた阿部さんの表情を見たことを最後に、私は目をそらしてしまったし掴んだ裾からも手を離した。




「えぇと…」



困っているのだろう、阿部さんはそう呟いた。



「ご、ごめんなさい!でも、あの、本当に好きで、ずっと側で支えたいし、付き合っ…」



「ごめんな、それ以上、言わないでくれるか?」



ぱっと阿部さんの顔を見ると、眉を寄せて首に手をかけていた。



あぁ私、泣きそう。泣きそうだ。


伝えるだけで十分だって思っていたけど、やっぱり届いて欲しくて。




「名前は?」



「…空、です。」



「空ちゃん。」



名前を呼ばれただけで心臓が破裂しそうで、破裂するかわりに涙腺が崩壊した。



「冷静に考えてな、空ちゃんは応援してくれるファンで、俺とは世界が違ってて、付き合ったとしても、苦しませることになる。」



柔らかく話してくれる。
だけど言葉そのものはストレートで、突き刺さる。



「俺の中で空ちゃんはやっぱり、たくさんいる人のうちの1人。」



そんなこと、分かっていた。
聞きたくない言葉が紡がれ続けて、もう耳を塞いでしまいたいけど、今耳を塞いでしまえば私がこうして気持ちを伝えた意味はなくなる。

だからぜんぶ、ぜんぶちゃんと拾って集めようと思った。



そう思ってからは、逆立っていた気持ちがだんだん宥められてきた。






「俺は空ちゃんのこと、まだなにも知らない、だろ?だから…」






置かれた一呼吸分で、私はこの気持ちを終わらせる覚悟を決めた。






「…だから、っつって、ふる理由はたくさん在るんだけど、そんなに泣いて、一生懸命追ってくれたら、嫌でも空ちゃんが特別になる。」





困ったように笑う阿部さんは、私の頭に手を置いて、指だけを動かしてぽんぽんと数回軽くたたいた。


突然伸ばされた手に驚いてしまったけど、線の細い阿部さんの手のひらから感じられる温もりは途轍もない安心感をくれた。




「急に付き合うなんてことは出来ないけど、もっと空ちゃんのこと知りたい。」



腰を少しかがめて目線を合わせてくれた。
そして発せられた言葉に、私の顔はどんどん熱くなってくる。



「連絡先教えて?」



「は、はいっ」




にっこり笑ってくれる阿部さんに、一瞬ぽーっとしてしまった。



一瞬でたくさんの事を考えて、ずっと先のことまでも見据えて行動出来るあたりは、ポジション的にもらしさのある性格だと思った。


そして、言葉が不意をついてくる感じも阿部さんらしい。



何にも考えないで突っ走る私には無いものを持っていて憧れる気持ちもある。






携帯の赤外線を使って連絡先を交換している間の、阿部さんとの距離感が生々しくてドキドキする。




「ん…、来た、かな?」


「あ、送れたみたいです。」


「じゃ、連絡するから。」


「はいっ!お願いします!」





大人な阿部さんに対してのこの私の子供っぽさ。
ふと冷静になると恥ずかしくなる。

だけど、溢れんばかりの嬉しさは本当の気持ちで、隠す必要も無いし、全面に笑顔として出してみる。




「じゃ、またね。」


「はい、失礼しますっ」



笑った時に上がる口角が、なんだか少し意地悪そうで、少し子供っぽく見えて、好き。


阿部さんの背中を見送りつつも、まだ心臓がばくばく鳴るのを感じていた。






「あ、そうだ、」




阿部さんは何かを思い出したかのように言うと、振り返ってきた。






「俺のことも、まだ知らないトコたくさんあるでしょ。だから浮気すんなよ。」







怠そうに放たれる言葉。
いたずらに笑う表情。







「ぜっったいしないです!絶対絶対、阿部さん一筋です!」








必死になって叫ぶと、阿部さんは目を見開いて驚いた顔をした。


そうしてすぐに、くすくすと笑った。











私の夢が叶って、彼女になれたのは、少し先のこと。








(あぁ、知れば知るほど好きになる。)











エンド







アトガキ
阿部さん的には気になる存在であった筈です。そして彼女を苦しめたくないという事を一番に考えた筈です。だから本当に振ろうかなとも思ったけども…と、一瞬でめちゃくちゃたくさんのことを考えていれば良いです。阿部さんsideが書きたい衝動に駆られました。片思いの時に、一生懸命伝えようとしたら届く気持ちもきっと在るのではないかな、と。願いが叶うか叶わないかは別ですが。りぃ様、すてきなリクエストをありがとうございました!阿部さん初挑戦で正直うまく書けたかどうか。イメージと違っていましたら申し訳ありません。最後まで読んで頂きありがとうございました!本文が頼りないとアトガキが長くなる(笑)