(りぃ様リク)






少し、驚かせてやろうかな、なんて思って空に黙って日本に帰ってきた。

驚かせたいのもあったけど、時間が無かったというのも理由のひとつなんだけど。



長い間待たせてきた分、今日から少し休みもあるし、たくさん甘えさせてやりたい。

俺自身、たくさん空と喋りたいし。




久しぶりに会う空。
はやく会いたい。変わったかな?髪伸びたかな?




空が1人で住むマンションが見えてきた辺りで、俺は信じられない光景を目にした。


ちょっと待て。
落ち着け俺。

何度も何度も自分に言い聞かす。



空が他の男と居る。

笑顔で手を振っている。


悪い想像しかできないんだけど。
ってゆーか、事実なんじゃない?さっきまで、家に呼んでいて、今ばいばい的な?

あぁ腹立つ。意味分かんないんだけど。


今思えば、俺が海外行く事も嫌がらなかったし、向こう行ってもそんなに寂しそうな素振り見せなかったし。


なんだ。そうゆうこと?



家に帰る空を追って、俺も空の元へと足を進めた。




「空。」


呼び止めたら、驚いた表情を浮かべた後、嬉しそうに笑う。


「優!帰るなら言ってよ!びっくりしたあ」



嬉しそうに笑うその、会いたくてしょうがなかった空の顔も、今の俺には悔しさにしかならない。うまくも笑えない。



「空、さっきの男さ。なに?」



俺が自然と放つ冷たい雰囲気に空は怪訝そうに眉を寄せた。



「え…?」



「あんまり連絡も無いし、俺が海外行くのだって嫌がらなかったし。そうゆうことだったんだ。俺自惚れてたのかな。ずっと待ってくれるって思ってたし。」



悔しさを隠しきれずに、いつもより早口で一気に喋ってしまう。それに、イライラしてまだまだ言い足りない。



空が泣きそうな顔になる。

なんでお前がそんな顔してんの?
泣きたいのはこっちだよ。



「まじ、がっかりなんだけど。俺んこと好きじゃないんでしょ?だったら早いとこ別れよっか?」



自分でも分かんないけど、何故か笑えてきて、笑顔でそう言う。

とうとう涙を零す空は一生懸命首を横に振る。



「違うっ!なんでそうなるのよ、さっきの人はただの友達だし、優の事だって嫌いな訳ないじゃんっ」



空は「訳分かんない」と言ってパニックな様子。



「優が、海外行くの、ほんとは嫌だったもん…でも、優の夢には必要だったんでしょ…?毎日寂しくても、すごい辛くても、ずっと我慢したんだよ?なのに、なんでそんなこと言うの?」



泣きながらも訴えかけるように言う空の言葉に胸を打たれる。




「優、今までずっと我慢してきたのに、やっと会えたのに、別れるなんて、イヤだよ…」



空の赤くなった目とか、今まで見たこと無いくらいにくしゃくしゃに崩れた顔とか、それらを見ていたら十分なくらいに頭の中が冷えてきた。




「っ、ごめん。」




頭をもたげる空を抱き締めて謝る。
しばらくすると空の涙がじんわりと熱く体に感じられた。




「我慢してた…。寂しかった。ずっとだよ?でも待ってたよ。ずっとずっと。」



俺の体の中でそう言われて、申し訳ない気持ちが溢れる。



「まじ、ごめんね。ひとりでに寂しい思いさせたね、」



抱きしめる手を強めると、空もぎゅっと手に力を強めてきた。



「やっと、帰ってきてくれた」



空のその言葉に胸の奥がじわっと熱くなった。




「優から連絡ないから、忙しいんだって思ったの。だって優なら無理して私の相手してくれるでしょ?私は優に無理させたくないもん。」



この小さな体で、俺よりもっと沢山のことを考えて、背負っていたんだ。



「ばかだな、無理とかじゃないよ。連絡とれたら癒されるよ。」



「じゃあ、これからするよ?」



「いーよ。いっぱいして?そしたら男に会う必要もない?」



「だから、友達だって!…でも、優のこと不安にさせるんだったら、2人で会ったりしない。」



真剣に、真面目に俺に向き合ってくれている、そう感じた瞬間。


鼻声でまだ泣いているのが分かる。



体を離して、俺を見上げる空の顔を見つめると、まだ切なそうな表情を浮かべているから、俺は苦く笑った。




「ごめんね、もう二度と別れるなんて言ってやんない。大好きだよ。いっぱい待ってくれてありがとう。」



そうやって言ってるうちに、みるみるうちに空の瞳が涙に揺れる。



涙が零れそうなところで、赤くなった鼻を指先で軽くつまんでやる。


そしたら小さく笑ったから、その反動で涙が零れてしまったけど、やっと再び空の笑顔が見れて安心した。




「私も優が大好き。だから、迷惑かけるようなこんなワガママ言いたくなかったのに、」



そこまで言うとまた、くしゃりと苦しそうな表情に変わる。



「ごめんなさい。最初で最後。もう言わないから、今日は言わせて?」



空があまりにも苦しそうだから、少しでも楽になれるように変わりに俺が少しだけ微笑んで「いいよ。なに?」って促す。

空が言う、最初で最後の言葉。




「優…、行かないで…っ」



押し殺して紡がれたその言葉は、俺の気持ちを大きく揺らして、空の本心だと思えば余計に切なくなった。




「これを言えたら良かったのにって、何回も後悔した。…だけど、やっぱり、優が一番輝けることを応援したいの。だから、この願いは叶わなくていい。」



結果が出ずに悩んで、難しい海外生活で、空がもしこの言葉を俺に伝えていたとしたら、確実にメゲて帰ってきただろう。


こんなに思いやりのあって、俺よりも俺のことを理解してくれている人は、空以外居ない。



「ありがとう。」



丁寧に、この五文字を大切に大切に伝えたら、たくさんの涙で濡れた頬を柔らかく緩めて泣き笑いの空。



そんな空の感触が懐かしくて、欲がたくさん溢れて、空の唇に口付けた。




「…優、ここ外だよ!せめて中あがってから、」


「しらなーい。聞こえなーい。」



意地悪な顔が空にはバレたかな?


間髪入れずにまた空にキスをする。



「こら、口開けなさい」


「いやっ、家でならいいけど!」


「むり。今。ほら、はやく!お願いっ」


「そ、そんなお願いされたって…っん!?」



隙あり!

ごめん、思惑通り。
言い返したら自然と口は開くでしょ?



この唇を離した後で殴られない為にも、腰が立たないくらいのキスをしてあげよう。





たくさん泣かせてごめん。

でもね、あんなに冷静になれなくなったのも、人目を気にせずこうしてやるのも全部、空だからだよ。


いつもありがとう。

本当に、大好きだよ。




唇を離した時に、空は息を乱して俺にしがみついていた。




「はやく帰ろ?」



「そうだね。」







きみのこころ



離れて過ごしたぶん、
隣で触れ合ったまま
たくさん話を聞かせて。








エンド






アトガキ
りぃ様素敵なリクエストをありがとうございました!けんかになって…ないですよね。なんだかただの言い合いみたくなってしまいすいません。更にお待たせして申し訳ありませんでした。最後まで読んで下さりありがとうございました!