(りぃ様リクエスト)









アンサー





裕太に家まで送って貰っていたところ、たまたま会社帰りの私の父と鉢合わせた。


その時の裕太の言葉と行動が忘れられない。


私が裕太を「彼氏」と紹介したら、裕太は私の手をぱっと離して一歩前に出た。
そして、


「空さんと真剣にお付き合いさせて貰ってます。」


そう言い深々と頭を下げた。


あの時にずっしりと感じた重さ。私の前では見せない裕太の丁寧な言動に少し照れた。
そして驚きからじわじわとこみ上げてきた気持ちは暖かい嬉しさ。


だけど、その裏側に張り付いたわだかまりも、嘘ではなかった。



心につかえる暗く重い何かがあの日から晴れない。



長い間恋人として付き合ってきた。
私は裕太のことが心の底から大好きだ。
いくらかケンカをしたこともあったけど、そのどれもが私にとって大きな意味のあるものだった。

年齢とか、付き合ってきた年月とか、確かにそろそろ結婚のことも考えなければならないのかなと思う。


いつかは結婚したいとは思ってはいたのだけど、いざ現実的に考え出すと得意のネガティブ思考が出てきてしまう。



私はちゃんとこれからの裕太を支えて行けるの?
裕太がバレーで悩んだ時に私に出来ることはある?
裕太がこれから1日でも長くバレーを続ける為に私はパートナーとしてきちんと管理が出来る?
そんな気遣いで裕太に無理をさせてしまうんじゃ…


ねぇ、本当に私でいいの?



ラブラブな夫婦、なんてただの理想だ。
私は今まで裕太に守られてばかりだったような気がする。夫婦になればそればかりでは駄目なのだろう。

考えれば考える程嵌って抜け出せない。
何日も何日もそうして苦しい日々を続けている。



確かに大好きで、愛しているけど。
だから、本当に本当に大好きだから、別れるなんて嫌なんだ。


だけど、もしかしたら、こんな風に考えてしまう時点でもう、終わっているのかもしれない。



リーグが終わった頃に私は決心した。
裕太に別れを告げること。



「ごめん、裕太。なんか、全部分かんなくなっちゃったよ…」


裕太の顔が霞んで見えなくなってきた。
この目に溜まるたくさんの涙が零れた時に、裕太の表情がどんなものかが分かるだろう。


「空…?」


「私、私自分に自信がない…不安で、どうしようもない。」



涙は零れた筈だけど、とめどなく溢れるせいで、いつまでたっても大好きな裕太の顔が見えない。



「自信がない?不安?どういう意味、何に対して?」



少し苛立った様な声に私は怖じ気づく。



「この先、ずっと、裕太を支えていける程、…私は強くは無いでしょ?」



震えた声でそう言うと、裕太は黙ってしまった。



「だから、ね、」



言わなきゃ。私から、言わなきゃ。

そう自分に言い聞かせる。
震える指先を掌に握るとすごく冷たくなっていた。



「別れよ……、」



小さな声で、届いたかどうかも分からない。
出来れば、届いていなければいい。
だって、今でも好きなんだもん。


俯いていると、裕太の足が動いたのが見えた。


そして気付けば裕太の腕の中に居た。

裕太は私を胸に押し付けるように強く抱きしめるから、私はつま先立ちになる。





「何で泣いてんの。」



押し出したような掠れた低い声。





「勝手なこと言うなよ…」





悔しそうなその声に、胸がぎゅっと締め付けられて苦しい。





「たしかに俺はスポーツ選手で、この先何が起こるか分からない。だけど、何が起きても俺は空と居たい。」




少しだけ声を張って、芯を持った言葉。


違うんだよ、裕太。
裕太を不安がってるんじゃない。





「裕太、違うの…、私は、私が不安で…だってほら、私なんかじゃ…」




「俺は!」





私の訴えを遮り、さっきよりも声を張った裕太。





「空が隣に居てくれさえすれば、それでいい。」





少しだけ緩められたら腕。それから優しくなった声。

そして、大切そうに紡がれた言葉は私の潰れそうな小さな心に響き渡った。





「空がそばにいてくれるだけで、元気にもなるし、癒されるし、幸せになれるから。…どんな時もそうだ。」





ふんわりと、離された腕。両肩に乗る裕太の大きな手。

私と目線を合わせるために屈められた身体が愛おしい。




「だからそんな悲しいこと言うな。」





ようやくまともに見れた裕太の表情が悲しそうに歪んでいた。
だからまた、じんわりと視界が曇ってしまった。






「裕太あ…」




涙でぐちゃぐちゃになって、きっと私は今ヒドい顔だ。

だけど、裕太のくれた言葉が、抱き締められた感触が、私の変なわだかまりを吹き飛ばしたから。






「ごめん、なさい…、大好きだよう」






私がぐちゃぐちゃな顔のままそう言うと、少しほっとしたように困ったみたいに笑った。





「なんでそんなことになったんだよ、もう。」





苦笑いをしながらそう言い、掌を私の後頭部にやり再び抱き締められる。今度は優しく。







「気負わなくたっていいんだよ。それはね、俺の仕事。」




「え…?裕太だって、気負わなくても…」




私は大丈夫だよ、と言いかけたところで次ぐ言葉を聞いてみる。




「この間、空の父ちゃんと話した時に思ったんだよ。あぁ空は俺だけのものじゃないんだなって。」





一呼吸置いたけど、抱きしめたまま。
私はそんな話を一生懸命聞いて意味を探す。





「これから色んなことを、今まで以上にもっとちゃんとしなきゃいけねんだって。人を護るってそうゆうことか、て気付いた。」







私だけじゃなかった。
あの時、私も裕太も大切なことを感じたんだ。
裕太も色んな気持ちになったんだ。






「その上で、言うから、よく聞いて。」





抱き締められた腕の力が強まる。


ばくんばくんと鳴る心臓の音は、私のだろうか。
それとも、裕太の?









「結婚、しようか。」








耳元で次がれた言葉。


顔は見えないけれど、照れ屋な裕太らしい。



だけど、声とかで分かる。


本気なんだって。

私には、この人しか居ないんだって。





私は腕を回してぎゅっと力を込めた。







「よろしくおねがいします…っ」






声が震えた。
だけど別れを告げるときなんかより、よっぽどすっきりと喉を通って声も大きかった。







再び離された腕。
見上げた裕太の顔は、恥ずかしそうに目をそらしたけど幸せそうに綻んでいた。



私は泣き笑い。


大丈夫。あなたとなら、きっと大丈夫。





「愛してる。」





私は思ったことを真っ直ぐに伝えた。


そうしたら、ゆるく笑った裕太は私の唇に触れるだけのキスを落とした。










私、思うんだ。
あの時私を襲った不安は、2人の恋人としての最後の試練だったんじゃないかって。
そしてそれは必ず1人じゃ越えられなかった。


あなたとじゃなきゃ、越えられなかった。




どんな壁を越えてきたって
最後の試練を越えてやっと
私たちは本物になれるんだと思う。











「俺も、空を愛してる。」





















エンド








アトガキ
りぃ様、素敵なリクエストをありがとうございました!ハッピーエンド、ハッピーエンドと思っていたのですが序盤が切なくなってしまいました。切甘な感じになりました。リベンジの阿部さんでした。イメージと違っていましたら申し訳ありません。最後まで読んで下さりありがとうございました!