(成美様リク)








こわい思いや苦しくてつらいことは、必ずそれに見合った強さに変えることが出来るんだと思う。









swallow.







「…っ!!」






最悪な目覚め。
寝起きってもっとぼんやりするものだと思っていたけど、どうやら今は特別らしい。
息が乱れ何故か視界も良い。真っ暗な部屋の四角い天井が見える。



息をすることさえも苦しくて、「恐い」という感情だけが体中を渦巻いている。




夢か…。

心臓がばくばくと鳴る。
悪夢から覚めた瞬間そんな心臓の音が聞こえた。



体が、手足の先が冷たくなっている。


隣には慶彦が居るのに、今でもなんとなく夢の中に居るような感覚でならない。
ちゃんと覚めたよね?この隣の慶彦って本物だよね?
普段ではあり得ないような考え方に行き着いてしまう。



夢も確かに恐ろしかったけど、こんな自分にも恐怖を感じる。
夢に捕らわれて、現実が信じれなくなっている自分が恐い。




震えが止まらない。
目を閉じればまた、夢の情景が思い出されてしまう。
だからって目を開けていても、さっきまでの出来事が実は現実だったかのように続けられる気がしてしまう。




幼いときにもこんなことがあったけど、あの時はどうしたんだっけ。




長い溜め息を零す。





あぁ、慶彦に触れたいな。
消えちゃわないでねって、指先くらい、握ってていいかな。





私の冷たい指先は、慶彦の細くて固い指先に触れた。







「空…?」






掠れた慶彦の低い声。
私の控えめに触れ合おうとする手を取って、指を絡ませて握ってくれた。





「ごめ…起こしちゃった……」




「え…?いや違う。なんか、俺が勝手に起きたんだ、今。何でか知らないけど目が覚めて…」



2人しか居ないこの部屋で、2人しかない声は何故か小声。





「空は?眠れない?」




ふと伸ばされた慶彦の手は優しく私の頬を包み込んだ。




やっと、本当にさっきまで夢だったんだ、今は現実で、この暖かい手は本物の慶彦のものだって実感した。






「泣いた?」




「えっ?」





気付かなかったけれど、私はどうやら起きた時から泣いていたらしい。
頬は濡れていた。





すると慶彦は「こっち来て?」って相変わらず掠れた声で言ってきた。
言いながらも慶彦が寄ってきてくれて、私の頭の下に腕を通して、横になったまま向き合う状態で頭を抱えるように抱きしめてくれた。





「体、つめたい。」





後頭部を包む掌はゆっくりと髪を撫でる。







「こわい夢でも見た?」



「う、ん。こわかった…」





体にぴったりくっついて目をきつく閉じて答える。

頭のてっぺんに、慶彦の唇が触れているのか触れていないのか、それくらいの距離を感じる。







「もう大丈夫。俺が居るから。」








低い声で、はっきりと告げられた言葉に深く深く安心した。
張り詰めていた気持ちがようやく解けて、今まで眉間や肩に力が入っていたことに気付く。


とん、とん、とゆったりとしたリズムで動く慶彦の指先は私の後頭部を心地良くたたく。







「ありがと。」






暖かい慶彦の体。
全身で包み守ってくれる彼に、礼を伝える。







「うん、良かった。ふるえ、止まってきた。」




薄く笑っているような声で言う慶彦。





「眠れそう?」




「うん、大丈夫そう…だけど…」




「大丈夫、朝までこのままでいる。」






私の不安を顔も見ずに感じてくれて嬉しくなる。同時にもう不安なんか消し飛んで、幸せに変わる。





規則的なリズムを刻み私をたたく指先が本当に気持ち良くて、だんだんと瞼が重たくなってきた。





好きって、愛してるって言った訳じゃないのに、たしかにそれが伝わるのはこういう時なんだね。





「寝れそうならそのまま寝ちゃいな。おやすみ、空」





落ち着いた声でなだめられ、すっかり安心した私。
前髪の上の方に、慶彦の唇がしっかり触れたのを感じた。














―――……







鳥の囀り。

二度目の目覚め。




暖かくて、柔らかい感情だけが残っているような変な感じ。




慶彦はずっと抱きしめてくれていたみたいで、朝一番に、1日の始まりにこうして愛しい人に触れていられる事実がすごくすごく嬉しくなる。





たまらなく愛しくなった私は、静かに寝息をたてる慶彦をぎゅっと抱き締めた。



すると、小さくうなった慶彦は起きたのか起きていないのか、物凄く力強く私を抱きしめ返してきた。


ぎゅううっと数秒されて、苦しい。だけどやっぱり嬉しい。








「…はよ。」






あ、起きていたみたいだ。
ぼんやりする慶彦はゆっくりと私を離す。






「おはよう。」






彼の顔を見ては頬を緩ませ挨拶を返す。



寝ぼけ眼の慶彦は口角を上げて微笑む。






「朝から幸せそう。」






そう呟く慶彦は聞こえるか聞こえないかくらいの声で「よかった」と言い、私の前髪を梳きながら分けた。



そして、露わになった額に口付けた。



くすぐったくて少し笑うと、慶彦も小さく笑ってきた。





「あんま、可愛い顔しないで。目ぇ閉じて。」





慶彦は少し照れたように目をそらしそう言い、片手で私の視界を封鎖してきた。



すると、ぱくっとかぶさるような口付け。
口付けている間に視界に光が戻ってきたけど、私は驚き開いていた瞳をきゅっと閉じて彼のキスに応えた。同時に慶彦を大切に抱き締めた。









悪い想像から解き放って
幸せな現実に呼び寄せてくれる。
そんな力をあなたは持ってる。











エンド















アトガキ
成美様、素敵なリクエストをありがとうございました。私的には書きやすい内容でして楽しく書かせて頂きました!その割には甘くなっているのか不安という感じです。イメージと違っていましたら申し訳ありません。最後まで読んで頂きありがとうございました!