(みひろ様リク)




気にしている。

等身大の鏡の前で痩せなきゃなと思いながらも自分の一番嫌いな場所、お腹を押さえる。

息を目一杯吸ってお腹を細くさせた。その後にふぅと息を吐く。


この瞬間の絶望的なこと。




ガーン、という言葉、いつどのように生まれたのか知らないけど、今の私の頭上に浮かぶとすればその言葉がぴったりだ。




すると私の後ろを裕太が通り過ぎたのが鏡に映った。

間もなく後ろ歩きをして戻ってきた裕太。

鏡越しに目と目を合わせる。




すると、不意に私の頬に裕太が口付けてきた。






コンプレックス









「いひひ」






小さなリップ音の後、わざとらしくそんな風に裕太が笑う。
可愛い、そう思う。



私は鏡を通してこの瞬間を見てしまったため、妙に恥ずかしくて、変な感覚だ。





裕太があまりにも可愛いし、おっとりしてるし、私は自分が昔よりにダメに見える。

いや、裕太のせいじゃないけど。
私のダメさが際立つという感じだ。







「なに難しそうな顔してたの。」


和やかな雰囲気を持つ彼は思っているより甘い。

崩れそうになった顔を堪えるべく唇を固く結んでみたけど、赤くなる顔はどうしようもない。







「いや、うー…自分が嫌だなって」




「えぇ、それでそんなうかない顔してたんだ。」





私がそう言うと小さく裕太は笑ってそう返した。





「だって…太ってるし……」





小さな声でもごもごと言ってみると、裕太は驚いた顔を浮かべる。





「俺は、空くらいが丁度良いんだけど?」





ふんわりと後ろから抱きしめられる。


目の前に映る鏡には、同じようにふんわりと笑う裕太の顔。

優しい人格がこうした笑顔に溢れている。






「けど……」






「うんー…なんて言えばいいかな…」




まだ私が納得出来ずに顔をしかめていると、裕太は困ったように呟く。






「えーと、俺は、俺が好きなものは全部同じように空にも好きであって欲しい。」






どういう意味か分からず黙って脳内で言葉の意味を整理する。




「ははっ、分かってない顔してる。」





裕太がくしゃりと顔を崩して笑ったから私も苦く笑った。





「俺は空の全部が好きだよ。だから、空も自分のこと好きになって欲しい。」






回された腕にきゅっと力を込められた。
こうされると、あぁ私大切にされてるとそう思ってくる。





「俺もさぁ、自分のこと嫌だぜー?」





「え、うそだ!」





「えー何でよ。でも前ほど嫌じゃ無いのは、空がこんな俺を好きになってくれたからだと思う。」





「そっ…か…」






うんうんと頷く彼。






「だからそんな顔するなよ、ね?」






そう言うと私の頬を摘んでぶにぶにとさせる。




そんな仕草をされて少し笑ってしまった。





「分かったかー」





「はい!」





「うん、よしよし。」






私からゆっくり離れて頭をポンと叩いた。


そして歩いて行く裕太はソファーに「よいしょー」と言いながら腰掛ける。





「はぁー、女の子ってなんでそんなこと気にすっかなぁ。」




独り言みたいだがしっかり聞こえてくる。



「ねぇ空。」




「そりゃあ気にするよ。好きな人に嫌われたく無いもん。」





「そんなことで嫌うような相手なんて所詮それまでの相手だったてことだよ。」





な、なるほど…




「空は安心していいよ。」





「え?」





「よぼよぼの婆さんになっても愛してるから。」






思ったよりも甘いことを言ってくれる。それでもカッコつけてる様に見えないのは何故だろう。





「そんなの、私だって一緒だよ!」





少しだけ声を大きくして言うと、目をぱちくりとさせた裕太は照れたように笑った。









君は直ぐに消えてしまうような言葉をくれるけど、
消えずに私の心に残るのは、
君の言葉が今までに、
嘘だったことがないから。
それと同時に、言動すべてに、
目に見えない安心感が
詰まっているから。








こんな私を好きになる。
ぜんぶ君が好きだから。














エンド







アトガキ
みひろ様、素敵なリクエストをありがとうございました!優しく包み込むことに全力を注いだものの、大して甘くないようなそんな気もしましたが、米山さんだからこそこういうこと言えるんじゃないかなぁと想像しながら書かせて頂きました。イメージと違っておりましたら申し訳ありません!最後まで読んで下さりありがとうございました。