(さや様リク)
年齢もだけど、精神的にも私よりずっとずっと大人なあなただから、
私ももっと、
背伸び
4年の差は意外にも広かった。
だって私が高1の時に彼はもう大学生だったんだ。
私が裕太君の隣で指折り数えていると、裕太君は顔をのぞき込んできた。
「4ヶ月、はもうとっくに過ぎたよな?」
胡座をかく膝の上に肘を置いて頬杖を付き首を傾がせる裕太君が呟いた。
「あ、違う違う!4歳差だなぁって…」
「あぁ、なるほど。…で、なんでそんなに辛気くさい顔してんの。」
えっ、そんなに顔に出てたかな。
そう思い焦って自分の頬を両手で挟んだ。
すると裕太君は「ははっ」と小さく笑った。
こういう何ともない仕草にも胸がきゅうっとなってしまう私は、ますます頑張りたくなる。
遠征でなかなか帰って来れなくても寂しいなんて言わないでじっと我慢出来たり、ちゃんと余裕を持って行動出来るようになりたい。
さっきみたいに、気付かれちゃうようじゃまだまだ。
「空ちゃーん?」
「……うん?」
裕太君に釣り合うように、
「……?」
裕太君の視線を頬から感じる。
ちらりと視線だけで目を向けると、不思議そうに顔を傾けていた。
視線がぶつかると、裕太君はふんわりと笑いかけ座ったまま私の方に体ごと向けてきた。
そうして、逞しい両手を斜め下へと広げた。
「おいで?」
私の訳の分からない唐突な不安。
それさえもこうして受け入れてくれるのだから、やっぱり裕太君はお兄さんで、対等だなんてほど遠いじゃないかと苦しくなった。
動けずにいる私に裕太君は優しく腕を回して、少し強引に引き寄せて抱き締めた。
ぐいっと体を寄せられて、気付けば分厚くて広くて温もりのある裕太君の胸の中に居た。
「こら。おいでって言ったんだから素直に飛び込んできなさい。寂しいでしょーが。」
少し笑いながらふざけ気味にそう言う裕太君。声が頭の上で聞こえてきて脳に振動を与える。
寂しい、この言葉も、私が言う寂しいと裕太君の言う寂しいはどうしてこんなに違うんだろう。
私が言うと子供っぽくて、裕太君が言うと大人っぽくて。
もしかして、裕太君は私を喜ばそうとしてるからかな。
私の言う寂しいはいつだって自分のためだ。
この違いかな。
「返事ー。」
「は、い…。」
だけどまんまと私の心は素直に喜んで、裕太君の言葉に照れて口ごもる。
「何が不安かな。」
落ち着いた声で、小さい子供をあやすように横に小さく揺れながら彼が聞いてきた。
こんな小さな揺れがまた、心地良くて困る。
「私も、はやく大人になりたい。」
「もうなってると思うけど。」
「もっと!……裕太君に、追いつけるくらい…」
裕太君の胸板に向かってそう言えば、「うーん」という小さな唸り声が聞こえた。
「大人になりたい?」
「うん、」
「じゃあさ、俺とキスしようか。」
「わかった。……って、ぇえ!?」
「リアクション100点。」
いや求めてない!
拍手とかいらない!
キス?そんなの、よくするじゃん。今更した所で大人になったとは言えないし、何よりそういう問題じゃない。
「正しく言えば、して。」
「誰から誰に?」
「空から俺に。」
言いたい事はたくさんあるけど、裕太君だからきっと何かあってこんなことを言っているのだろう。
そう信じてみよう。
「はいじゃあ起立。」
「えっ?立つの?」
ヨイショと立ち上がる裕太君。
困惑しながらも私も立ち上がる。
「と、届かなくなっちゃうよ。」
彼を見上げながらそう言う。
「じゃあ、俺はどうしたらいい?」
「ちょっと屈んでほしい、かな。」
尚も裕太君は優しい表情で、私の考えを引き出すように問うてくる。
少しだけ屈んでくれた裕太君。
「これくらいでいい?」
「うん、たぶん、」
頑張って背伸びをすれば届きそうな距離になった。
「じゃあ、どうぞ。」
「はいっ、」
私は手を伸ばし、彼の顔を両手で包むと薄く瞳を閉じていく。
背伸びをギリギリまでして、唇が触れ合う頃には片足が浮きそうなくらいだった。
唇と唇の表面が触れ合うだけのようなキスをして、すとんと離れる。
すると、裕太君は少し照れたように笑って言った。
「良くできました。」
そう言うと、私の頭を抱くように後頭部を優しく持ち抱きしめてくれた。
「それでいいんだ、空。」
抱き締めたまま言う裕太君の言葉を待つ。
「空が届くところまでで十分。あとは俺が調整してあげる。」
優しい言葉の選び方。
微笑みながら言ってくれているのが分かるような声。
「空は無償で俺に幸せをくれる、だから俺は空が俺に幸せをくれる手伝いをするだけ。」
そこまで言うと、後頭部にある裕太君の掌が動いてゆっくりと撫でてくる。
「空、歳の差なんて気にしなくていいんだ。釣り合うか釣り合わないかは大人だとか子供だとかとは関係無い。」
ゆっくりと話してくれるお陰で、しっかりと脳に留まって心に響く言葉達。
「俺と空はうまく釣り合ってると思うんだよな、このままでも。」
体をゆっくりと離されて、裕太君をじっと見る。
すると裕太君は「なぁ」と言ってきたから、深く頷いた。
私は出来るだけの背伸びで十分。
それ以上を求めなくても大丈夫。
今まで通り裕太君を好きでいて
裕太君を支えて行こうとすることが
彼を幸せにしているのなら
それだけでもう、いいんだって気がする。
「無理しなくていい」とそう一言、言ってくれたのならそれで済むのかもしれない。
だけどこうして、ひとつひとつ教えるように気付かせるように言ってくれるおかげで、
私は大切なことをひとつひとつ感じることができるんだ。
エンド
アトガキ
さや様、素敵なリクエストをありがとうございました!年下彼女とのことでしたが歳の差みたいな感じにいつのまにかなっていました。はたして甘くなっているのか不安です。イメージと違っていましたら申し訳ありません。最後まで読んで頂きありがとうございました!