(星様リク)






何だかんだでそれが

らしさってやつなんだと思う。




natural





台所で料理を進める彼女の後ろ姿を眺める。

香ってくるのはカレーの匂い。


俺の視線に気付いたのか、空がふとこっちを向いてきた。



「もうすぐ出来るよ。」



そう言ってふんわりと笑いかけてきた。
だから俺もそんな空に少しだけ笑いかけた。



何を話す訳でもなく、かと言って無理に一緒に居る訳でもないこの空間。



存在すら忘れてしまいそうだけどそれが無いと苦しくなるなんて、酸素みたいだ。

人間は生まれたその時に初めて酸素に触れ、それからというもの必要不可欠で自然と欲している。

同じように、俺は空と出会ったその日からずっと、空が欲しいと感じ、必要不可欠な存在になっている。


同時に、海とか水に沈められなかったり何かよっぽどのことが起きない限り、日常生活において酸素を求めていると感じることはめったに無い。


分かってもらえてると思うけど、やっぱり俺の空に対する想いもまた然り。
付き合い始めて何度も経験した、空の必要性。
だから分かってる。
空が傍に居ることは当たり前じゃない。






空にこんなことを長々と話したら、大袈裟だよって笑うかもしれない。



だからいいんだ。
こんなたとえ話はどうだって。



だからって「愛してるよ」なんてのもくすぐったい。
それに何度も言えば、意味を無くしてしまうようで。この言葉を当たり前のように伝えてしまえば、いけない気がするんだ。


だからこそ、たまに、たまらなくなったその時にだけ言おうと思ってる。






「裕太?」




カレーをゆっくり混ぜる空を後ろから軽く抱き締めてみる。
困惑気味の空は目一杯に顔を上げて俺を見てくる。




「ん、なんでもねーよ?」




そんな空が愛らしくて、小さく笑いながら告げると空は照れたように笑った。



この先、ずっとこうして笑ってくれたら幸せだろう。




にこにこしている空のカレーを混ぜる手が止まり、鍋の中が沸騰している。




「空?」



「ん?」



「……火、止めないで大丈夫?」



「う、わぁ!ほんとだ止めなきゃ、」




空が何を考えていたのかが多少気になる所ではあるけど、多分、嬉しいことを考えていてくれてる筈だ。





俺は、慌てる空がコンロのスイッチに手を伸ばす前に火を消してやる。



「なにぼーっとしてんの」



そう言ってやりながら、空の額をペシリと軽く叩いて笑ってやった。



困ったように笑いながら礼を告げた空。

次いで「食べよっか」と首を傾がせて言ってくるから、一緒に準備をした。





色んな言葉を使って空の大切さを説明しようとしてきたけど、やっぱりこの暖かい感じは何て言い表せばいいのか分からない。

てゆーか、これを表す言葉なんて無いのかもしれない。




美味すぎるカレーを食いながらそんな事を思った。
それから、色々考えるのも面倒くさくなった。




「うまいなぁ。」



「裕太いっつもそう言ってくれるね。」



「いつもうまいから」



「たくさん動いてお腹空いてるせいだよ」




言葉では謙虚だけど顔がしっかり照れてるぞ。




毎日、死ぬまでずっとこんな風に飯を食いたい。



あぁもしかして今なのかもしれない。



結婚はずっと前から考えていた。実は同棲する前から。

指輪も少し前に買っていた。

だけど波の無い付き合い方をしているせいか、タイミングを失うどころか今のままで満足していたところがあった。




だけど、今だろう。


俺だけの、俺がそうしたいだけだ。
だけど、一生傍で支えて欲しくて、それ以上の分量で空を幸せにしたい。


そう思う以上に何か必要か?







「ごちそうさま。」



「はぁい、ごちそうさま!」




きれいに頂いて手を併せる。
いつもこの後、片付ける前についつい長話をする。



2人して一度息をつく。


今日は俺から先に口を開く。





「空、」



「んー?」



「そろそろさ、」



「うん。」






「結婚しようか。」






俺のそんな言葉に、空は間抜けな顔を浮かべた。



俺が首を傾がせると僅かに唇を震わせた。





「どんなタイミングで言うんですか、」



「特別なタイミングで言いましたよ?」




平然と言う俺に対して相変わらず驚いている空。




「どうしよう泣きそう!」



口を両手で覆っている空の頭に手を伸ばして軽く抑える。



「なんでだよ。」



「う、嬉しすぎて!」



「そっか。」




空、順番ごっちゃごちゃ。
返事を聞かせて。


空の言葉をじっと待ってみる。




「あ、あの…裕太、」



「はい。」





「…この先ずっとずっと、一生、よろしくお願いします。」







震える空の声。因みに瞳も震えてる。


俺は自然と優しく顔が綻ぶ。



そして口を付いて出た言葉、









「あいしてる。」

















風呂も入って、お互いゆっくりしているとき。
俺は大切なことを思い出した。


あー、忘れてた。やばいやばい。



俺は部屋から指輪の入った小さなケースを持って、ソファーに座りテレビを見る空の後ろに立つ。





「はい、どーぞ。」





少しだけ気恥ずかしい感じがして後ろから空の左手をとり薬指に指輪をつけてやった。




そして、「嬉しい」と言って喜んでくれる空の顎を持ってこちらに向けさせて、優しく口付けた。










家での食事中のプロポーズで

お互い寝間着で指輪を渡した。




格好いいもんじゃないけど、これが俺。








これが空が好きになった俺でしょ?














エンド









アトガキ
星様、素敵なリクエストをありがとうございました!プロポーズとのことでして米山さんらしいものを書きたかったのですがイメージと違っていましたら申し訳ありません。後ろからなにかされることも多くなってしまいました。最後まで読んでくださりありがとうございました!