(まい様リク)
don't tear.
テレビで活躍する彼氏の姿っていうのは、何か、どこか違う姿のように思える。
いや、違う姿といえばそうなのかもしれないけれど。
もっとこう、別人の様で。ふとした瞬間にいつもの裕太は見えるけど、コートで動き回る裕太は安心と信頼の米山選手。
大学生の頃、優しい雰囲気を纏う彼に惹かれて付き合い始めた。
私は裕太も大好きだし、米山選手も大好き。
だけどやっぱり、この画面を通すとなんとも言えない変な感情が湧き上がる。
私は彼女だけど、ファン?みたいな。
ネット越しで倒れたりしていたら、本当に焦る。怪我してないかなとか、大丈夫かなとか、色んな事を考えてしまう。
でもそれって、ファンならみんな思うんじゃないの?
世界と戦う米山選手はみんなの米山選手で
私だけのものじゃない。
今までずっと裕太のこと応援してきたし、今だって本当に応援している。
活躍する姿だって見ていたら、1つ1つのプレーに悲鳴をあげちゃうくらい。
もちろん、嬉しい。
だけど、なんだか、どこか離れて行くみたいで。
このまま私のとこには帰ってこないんじゃないかだなんて、変なこと考えちゃうんだ。
こうして、隣に居るときは、そんなこと思わないって決めてたのに…、やっぱり、考えちゃうんだなぁ。
沈黙は沈黙だけど、なんだか柔らかいこの雰囲気。
好きだ。
胡座をかいて座る裕太の隣で膝を抱いて座る私は、体重を裕太に預けて、首を傾がせてみる。
「ん?どした?」
触れ合うことで、私のこの変な気持ちが和らげば良かったのに、どうやら裕太に伝わってしまったみたいで、そう問われた。
「どうしよう、」
私が呟くと、「なにが?」って次の言葉が言いやすいように聞いてくれる。
「裕太が、だんだん離れていってる気がする。って、ごめん。私もよく分かんないんだけど。」
「どうしてだろ。それは、分かる?」
私のこの無神経とも言える発言にも、真剣に受け答えしてくれるあたりが、うん、やっぱり好きだなって感じる瞬間のひとつ。
「裕太が、全日本で活躍して、試合もたくさん出て、すごい嬉しいのに、」
そこまで言うと涙が出そうになる。
声が震えて、子供みたい。
どうして本音を伝えようとすると、涙もセットで出ちゃうのかな。
「そうゆうことか、」
裕太はそう言うと、小さく「ははっ」て笑ったりなんかするから、驚いてしまった。
「空、離れていってる訳ないだろ?今まで俺がバレー頑張れてんのは、ずっと空が応援してくれてるから。今だってそう。だから、俺がバレーうまくなって、周りから評価もらえればそのぶん、俺ん中の空は特別になるんだよ。」
落ち着いた声で、落ち着いた様子でそんな話を聞かせてくれた。
「空の支えの結果が、今のこの俺。だとしたらさ、近付いてんじゃない?逆に。」
続けて、「俺はそう思ってるよ」って言ってくれた。
こうして、教えて貰わなきゃ分からないなんて。私はたぶん、まだまだ子供。
こうして、優しく笑ってくれるだけで、さっきまでの変な気持ちが吹っ飛ぶなんて。裕太はやっぱりスゴい。
「ばかだな。こんなに近くにいんのに。」
そう言うと、珍しく少し強引に抱き寄せてくれた。
ぐいっと、強く引っ張られたから、体勢を崩して思いっきり裕太の胸に飛び込んでしまった。
「考えすぎ。だいじょうぶ。ずっとそばに居るし、空も居てくれるだろ?」
耳のすぐ側で、聞こえる言葉はダイレクトに鼓膜を揺らす。
言葉の1つ1つ。どうしてこんなに重みがあるんだろう。
裕太の言葉に安らぎがあるのは、私が彼を信じてるから。
一生懸命、大袈裟なくらいに何度も頷いた。
「良かった。空の支えがないと、俺、ほんとダメになると思うから。」
苦い笑いを浮かべながら言う裕太。
「はい、顔上げる。涙拭く。」
ぱっと体を離して、だけど私の肩に手を置いたままでそう言われる。
「別に悲しい話しなんかじゃないでしょ?」
大きくて分厚い裕太の手のひらが私の頭をぽんぽんと軽く押す。
裕太の柔らかな表情につられて、私も少しだけ笑った。
だけど、どうしてか、ずっと溜め込んでいたせいか、涙がどうしても止まらない。
困らせたくなくて、心配もさせたくなくて、止めたいのに止まらない。
「なみだ、とまんないーっ」
私が助けて、と裕太に笑いながら言えば、「なんでだ」って裕太も笑う。
すると、裕太は突然顔を傾けて、私の唇に彼のそれを重ねる。
少しだけ長くて、息がくるしくなる。
息継ぎ程度に一度離れると、1秒くらいだけど目を見つめられる。
そしてまた直ぐに口付けられる。
顔を片手で固定されて、大人びたちょっと深いキス。
口内の感触に、脳内がぼんやりしてきた。
まさにキスってゆう音を立てて、唇が離れた。
「涙、止まった。」
裕太にそう言われて気付いた。
「ほんとだ…」
「良かったね。」
他人ごとのように言う裕太は、へへって笑って、また隣に座り直した。
20分前に戻ったんじゃないかってくらい普通にしている。
違うのは、私のこの気持ちと、心臓の音の速さ。
不思議な感情に哀しくなっていた気持ちはもう少しもない。
これからも、裕太と成長していきたい。そう思う。
心臓はばくんばくんって高鳴って、心地良いキスの名残。
エンド
アトガキ
まい様、とても素敵なリクエストありがとうございました!米山さんの雰囲気を全面に出せればと思ったのですが、ちょっと大人すぎかなとか、色々反省だらけになってしまいました。最後まで読んで頂きありがとうございました!
don't tear.=離れない