(葉月様リク)









「……。」




「……もっかい説明したろか?アホちゃん。」




「ゔ…、うん…」





高校三年生。
楽しく充実していた高校生活も、勉強に追われうんざりな時期に突入。


私も、この目の前の大きな男も進学。



愛想の良い笑顔で首を傾げる男の後ろには確かに見える。吹雪が。





同級生の福澤に図書室で勉強を教えてもらっているのだが、全く頭に入らない。

これは決して私の頭がバカだからだとか理解能力に欠けているとかそういうんじゃなくて。







「うん、ええやん。…大丈夫、そのまま解いてみ?」







この福澤とかいう男が、好きで好きで好きすぎて吐きそうだからだ。






「で、きた?」





数学か英語か訳分かんない公式で解いて、福澤の顔を見る。

すると、集中スイッチの入った福澤は鋭い目をしながら私の文字を追う。





ばしんっ




「った!」





私の目にうつる福澤の顔は確かにノートに向いて居るのに、頭を軽く叩かれた。





「なんっでここまで来て凡ミスするねん。ばぁか。」





ヘッと笑いながら背もたれにもたれる福澤。





「女の子殴るとかサイテー」




「どこに女の子おんねん。はい、頑張れ。」





ムカつくっ
ムカつくけど最後の一言それだけで全部チャラにして頑張れる。




私は再びノートに向き合う。
福澤程でもないけど、私も頭良い方なんだけどな。
だからこそ、私に解らない部分は福澤に頼らざるを得ないんだけど。





「でーきた。」




「見せてみ?ってこっち向き見にくいなぁ。隣座ってええ?」




返事を返す間もなく隣にガタンと座ってきた。



真剣な横顔。
腹立つくらい、かっこいい。





「ん、ええやん。良くできましたー」





頭をくしゃくしゃと少しだけ乱暴に撫でられる。
反射的に、先ほどのように痛く叩かれるのかと思い肩が跳ねた。





「あとどこが分からへんねん。」






頭に残る「良くできました」のありきたりな言葉と、福澤の大きな手の感触。


顔が熱くなる。

同時に胸がジンと切なく鳴く。




どうせ友達以上恋人未満。
それか兄妹みたいなもん。





だけど…






「空…?」




名を呼ばれてはっとする。





「へ?なに?」





「見すぎやろ。」




「なにを?」




「俺を。」






少し照れたように目を逸らすその態度もいちいち胸を突く。
けど、無意識に見ていたことが恥ずかしくて頭を振った。






「みみみ見てないっ」




「嘘やん。むっちゃ見てた。」




顔をそらしても、のぞき込んでくる。





「集中して下さいねー。」





けらけらと悪ガキの様に笑うくせに言葉だけ真面目な先生。






「見てないったら…」





届くか届かないかのような虫の鳴く声で言い返す。






「ほんで?もう大丈夫そうなん?」





「うんー、たぶん?」





「ほんなら復習。これ解いてみ。」





鬼か。つって言いたくなるようなスパルタ授業だ。
先生でも無いくせに、これまた腹立たしい話しだが先生よりも福澤の方が教えるのが上手い。






あ、やばい。さっきやったばっかなのに。どうするんだっけ…





「福澤あ!どうしよう分かんない!」




「しぃっ、図書室なん忘れんなアホ。」

パニックに陥った私の予想外な声のボリュームに、福澤は焦って私の口に片手の手のひらを当てた。








「………、」







「………。」








至近距離で目と目が合う。




とっとっとっ

駆け足な心拍数。





福澤のやたら大きな手のひらは、私の口を押さえていた筈だったのに今は頬を包む。







えっ、ふふふくざわ!?







薄目で接近してくる福澤の傾いた顔。時間はスローモーション。



どうすれば良いのか分からず、ギュッと固く目を閉じた。










―――ガラガラ、バンッ




「おーい、あと10分で下校時刻だぞー!時間には帰れよー!」







「「ッ!?」」







静寂な図書室には似つかない程乱暴に開けられた引き戸と、良く通る生徒指導の男性教師の声。




私は、というか多分福澤もだから、2人は驚き言葉にならず、物凄い勢いで一瞬にして距離を取った。





私はガタンと立ち上がり「ア、モウコンナ時間カー」と片言な日本語を発し、

福澤は滑らかとは言い難いが自然な感じで椅子の後ろに立ち、机を背にして両手を上げ伸びをした。




つまり今はお互い背を向けているのだけど。







……い、今、ききききす…、






顔の熱が収まらない。



ちらりと目だけで福澤を見上げる。




片手は腰に当てて、何を思い悩んで居るのか険しい顔で俯いている。







「ふ、福澤…、」




「なん?」





思ったよりいつも通りな感じでこっちに向いてきた。


だから私はホッと胸をなで下ろした。





今ここで気まずくなるのは嫌だから、私も平然を装った。


内心ばっくばくだけど。







「さっきの問題、あと10分で説明お願い!」



「お願い?」



「お願いします!福澤さま!」


「よろしい。えー、ここは…」





また少し意地悪な笑顔も見せてくれて、さっきの甘い出来事が全部幻だったかのようだ。





その後福澤の説明は10分もかからずに上手くまとめられていて、私も理解出来た。






「福澤、どうしよう私、100点取れるかも!」




「浅はかやなー。」





「ありがとうございました。」




深々と頭を下げてみる。



「はいはい、おつかれ。あ…空、」




「ん?」




「さっき、ごめんな?」






机に両手を付いて、俯きながら詫びられた。





「いやっ、べつに、だ、いじょうぶ……」





「大丈夫とかあかんて。もっかいやったるで。」





冗談じみた言葉なのに、福澤の顔が真顔だから本気のような気がして頭が混乱する。







「好きやねん、空のこと。いっつも勉強教えたっとんやからお礼に付き合え。」






どんな告白の仕方……






「じゃあ勉強教えてもらった代わりに、私もひとつ教えてあげるよ。」





「……?」





「私、昔っから、本当に昔っっから、福澤のこと好き。知らなかったでしょ。」





「へ、ほんま?」




「ほんま。これで福澤もテスト100点取れるね。」




「何のテストやねん。」




「恋?」




「さっむ。」





控えめに笑う私に、福澤ははにかんだような笑顔をした。






「帰ろか、ってその前に辞書返さなあかんな。」





自身が使っていただろう辞書を持ち、数ある本棚の元へ向かう福澤。



私もカバンを持ってついて行ってみる。






体を屈めて本棚に辞書を収めた後、福澤は私の手を掴んだ。





指を絡ませそれを顔の横に持って行く。



少し力強く押されて、私の背中は本棚と仲良しこよし。







「うはは、かわえーなお前。」





がちがちに固まってしまった私を見て、そんな体を解すかのようにとろけそうな言葉を紡ぐ福澤。


普段は大人っぽいくせに、笑う度に細められる目があどけなさというか子供っぽさを生む。






「こわい?」




心配そうに問われぶんぶんと顔を横に振る。






すると、柔らかく、ほんの1秒、

触れるだけのキスが降ってきた。







「帰ろかー」



「帰ろー」





2人してにやついたまま図書室を後にする。



絡ませた指はそのままで。









「空、100点取れるとか言ってたやん。」



「うん、取れそうな勢いで分かった。」



「ほお、なら100点取れへんかったら何してくれるんやろか?」


「ぇえっ!?何それ!」



「あれだけ教えたのに、何も無いとか無いやろ。人として。」



「う…、わ、分かった!取るもん!絶対とる!その代わり、私より福澤のが点数低かったら、ジュース奢ってもらうから!」



「ぶっ、ははっ、何やねんそれ、色気無いな!」










高校三年生。
楽しく充実していた高校生活も、勉強に追われうんざりな時期に突入したのだけど、









こんな時期に、色がついた。












エンド







アトガキ
葉月様、素敵なリクエストをありがとうございました!まずタイトルが面白いことになってしまいました。同級生どうしなので、不器用さとか思い切りの良さとかを出したいなと思い書いていったのですが、何故か付き合う前で、気づけば告白するところまでも勝手ながら盛り込んでしまいました。イメージと違っていたら申し訳ありません。長くなりましたが最後まで読んで下さりありがとうございました!