(愛様リク)
本当にもうダメかもしれない。
スーパーマン
仕事から帰って、携帯を開くとそこには有り得ない程のメールと着信。
同じ名前がザッと並んで、嫌になる。
「今なにしてる?」
「今どこにいる?」
「見つけたよ。仕事がんばれ」
「なんで避けるの?」
「返事返してよ。」
そんな内容。
そして、たった今届いたメールは…
「おかえり。」
この人と別れて一週間。ずっとこんな日々が続く。
"慣れ"って怖い。
初めの頃は本当に恐くなって、どうしようと怯えたり、よりを戻そうかとか色々考えてしまったりしていたのだが、今はただ気味が悪く感じるだけだ。
本当にどうにかしないと、私の精神がおかしくなりそうだ。
とりあえず今日は、携帯の電源を落として眠ろうかな。
誰かに相談しよう。それって、男の方がいいのかな。だって、女の子だととばっちり受けたりしたら、きっと耐えられなくなっちゃう。
となると、幼なじみで大切な存在の、達哉に相談しようかな。
あぁでもダメダメ。
達哉はもうただの幼なじみの男友達じゃないんだ。
日の丸を背負う、トップアスリートだし。何かあったら大変だ。
そんなこと考えただけで、背中がぞっとして恐くなった。
私が今元カレにされていることよりも、達哉に何かあるほうがずっと恐いじゃないか。
そんなことを考えているうちに、朝になってしまった。
眠れない。
こんなこと、考えたらいけないのかもしれないけど、達哉と一緒に居るときのあの何とも言えない安心感というか、落ち着く感じ、それが欲しい。
これは私だけが感じるんじゃなくて、達哉が放つ雰囲気そのものだから、きっと達哉と一緒に居る人の全てが感じるものなのだろうけど。
思えば、小学生の頃も中学生、高校生の頃も、何かあればお互いの家に行ってたっけ。
もう子供じゃないんだから、いつまでも頼ってちゃいけないんだけど。
寒いけど頑張って布団から出て、身支度を済ませる。
出たくない、外に出たらまたあの人が見ている。
嫌だ。嫌だ。もうこんな思いしない為にも、よりを戻した方がいいのかな?
早足で仕事に行く。
仕事場は1人じゃないからいくらか安心できる。
そこでやっと携帯に電源を入れる。
やっぱり、着信もメールも増えていた。
一応なにかあったらいけないから、一通り目を通す。
すると、昨日の夜中に達哉からの着信があることに気付いた。
何かあったのかな、昼にでも折り返してみようか。
*
『もしもーし』
「あ、もしもし、達哉?ごめん昨日、電話出れなかった。」
受話器の向こうが何やら騒がしい。練習前か、練習後か、それとも昼ご飯の為のつかぬまの休憩か。
「てゆうか、今大丈夫?」
『んー、今都合わりぃねんそれが。近くでゴリラが騒いでるから。』
近くのゴリラつまり清水君に言うように、私に伝えてきた。それがなんだか面白くて笑ってしまう。
「また、かけ直そっか。」
『あー、えぇねん、大した用事ちゃうかったし。』
「ん?どうしたの?」
『どうって訳もないねんけど、どうしとるかなぁ思て。最近ぜんっぜん連絡寄越さへんから、お兄ちゃん寂しいやん。』
「誰がお兄ちゃんよ。私いつから達哉の妹になったのさ。」
『誰が妹や。弟や、お前は。』
失礼だ。私の貴重な昼休憩をこんなしょうもないお喋りにつかうなんて。
「失礼ー。もう電話切ったろうかなー。」
『待てやお前、…あ、忙しい?』
だけどやっぱり昔から馴染みのあるこの雰囲気は、嫌なことも忘れられるくらい落ち着く。
「忙しいっちゃ忙しい。また電話しよーよ。夜とか夜とか夜とか夜にでも。」
『はいはい夜な。ほな今夜したるわ。』
「たのんだー。んじゃあまたー。」
『はいはーい』
不安で眠れない暗い夜に、その声が聞けたなら。
*
今日はまだ夕方といえる時間帯に仕事が済んで帰る。
夕方と言えども日が落ちるのが早い季節。
もう辺りは薄暗くなってきた。
歩いて家に着くまでは、ただ恐い。あの人がどこから私を見ていて、いつ私に話しかけてくるのかと思ってしまう。
早くなる足。
「空。」
暗闇の中。先にある外灯の光にあてられた人物が私の名を呼ぶ。
嫌ってほど聞きいた声。
スーツ姿の元カレだった。
ずくん、と心臓が鳴った気がした。
強張る私に対して、彼は何ともないように優しく微笑んできた。
「ご、めん。」
何故か分からないけど、とっさに謝ってしまった。
「なんで謝るの。俺、まだ空のこと好きなんだ。諦めらめきれないんだ。」
近付いてそう言ってくる、私の、前好きだった人。
素直な言葉に顔が上げられずにいたら、腕を掴まれた。
「だから、別れるなんて言うなよ、なぁ、空だってまだ俺が好きだろ?」
ふっざけんな、なんて思いつつ、この人を私がこんなに傷つけたという真実が、私をダメにする。
「ごめん、けど私、もう、好きじゃ、ない…」
それでも必死に絞り出した言葉。
ぎりっと腕を掴んだ彼の手が強くなる。
「いた…っ」
離して、と私もなんとか抵抗するけど、元カレの口から出る言葉はますます私に傷を作っていく。
「もう離してっ」
そう言ったと同時に涙が溢れてしまった。絶対泣くもんかと思っていたのに。
いやだいやだと暴れていたら、ふと後ろから声が聞こえた。
「なんしてんねん。」
それは聞き慣れたあの落ち着いた声の主。
振り返ると、達哉は驚いた顔をしていた。
「あー、すんません。これ、俺のやから離したってくれます?」
達哉はいつもの上手な愛想笑いを浮かべもせずに、私の肩と元カレの肩を引き離した。
元カレはというと背の高い達哉に少し引き気味だ。
「なんだ、お前…」
「せやから、離したって。泣いとるやん。空泣かすとか、俺わりと怒ってんで。」
達哉はそう言うと少し冷たく笑った。こんな長身に言われたら誰だって怯むだろう。
そして不機嫌そうな表情を浮かべた元カレは去っていく。
そう、こんな風に真っ向から勝負出来ずに逃げるところが私は嫌いになったんだ。
「はぁ、お前なんしてんねん。空かて一応、一応な?女なんやから気ぃつけぇや。」
やっと笑う達哉。私の涙は変わらず流れるけど、笑う達哉につられて頬を緩ませた。
「一応じゃなくても女。」
詰まる喉で喋りにくいけど、頑張って言い返す。
…ていうか、「俺のやから」って言ったよね、達哉。
そんな忘れかけるような言葉が急に私の頭の中に舞い戻ってきて、柄にもなく赤面してしまう。
「ほんなら、女の子な空に言ったるわ。お怪我ありませんか?」
「なによぅ、紳士ぶっちゃって。」
そんな風に返しつつも、達哉ってこんなにかっこよかったっけ?なんて思ってしまった。
すると達哉は「ほら行くで」と、歩き出した。
「ひ、1人で帰れる。」
「えーよ。送る。」
ばふっと大きな手が私の頭に乗って、まだまだ溜まっていた涙が弾みで零れた。
「空、今の誰やった?」
「元カレ。」
「あ、もしかしてアレ?俺邪魔したとか?」
まさか、そんなわけない。助けてくれた。
そう思いぶんぶん頭を振る。
「まぁどっちにしたって、空泣かすよーな彼氏やったら認めへんわ。」
ふざけるように笑う達哉。
「お前ほんま昔っから危なっかしいなぁ。」
「…そんなこと、」
「ちゃんと目の届くとこおれや。」
涙の跡に冷たい風があたって冷える。
頬は熱くなっていくから、その涙の跡がやけに心地良い。
冗談のように笑いながら言う達哉に、本気かどうか分からず黙ってしまう。
「聞こえた?そばに居れって言うたんやけど。」
どきん、と胸が鳴った。
驚いて達哉の顔を見上げると、落ち着いた様子でこちらを見ていたから視線がぶつかった。
「さっき、さっきの奴帰す理由で言うたけど、ほんまに俺のもんなれよ。」
立ち止まった達哉が今度は真剣な表情でそう言ってきた。
「え……」
「あかん?」
こんなに完璧にされて、だめなわけない。
また涙が溢れる。
大袈裟に頭を横に振る。
「よし、ほんなら心置きなく守れるな。」
にっこり笑う達哉を見て、私も笑った。
守って欲しくて頷いた訳じゃないけど、
たとえば達哉なら逃げないし、
私なら達哉を支えられる。
私だけのスーパーマン。
これからもよろしくね。
エンド
アトガキ
愛様、ステキなリクありがとうございました!ものすごい長くなってしまいました。イメージと違いましたら申し訳ありません。遅くなった上に長々とすいませんでした。ここまで読んでくださり本当にありがとうございました!