(こげどん様リク)
こんなつもりじゃなかった。
だけど、だって、でも、って…
意地っ張りで強情な自分を、こんなに憎んだのは、生まれてこの方初めてだ。
嫌な沈黙が流れる。
元々何が原因だったのかも分からないくらい、最終的には話がそれた。
お互いの悪いところをただ見つけては言い合うだけのケンカ。
きっと元々の原因だって、たいしたことない。
だけど、過去を掘り出すなんて男らしくないし、達哉らしくない。
私が悪いなんて思えない。
どうにかこの重たい沈黙を破りたくて、口をついて出てきたのは、弱い弱い私の逃げ道。
「帰る。」
カバンと、椅子の背もたれにかかったアウターを乱暴に取り、立ち上がる。
「勝手にせえ。」
なにそれ。信じらんない。
普通止めるでしょ。
ほんと、訳分かんない。
達哉の無機質に呆れたように発せられた言葉に、胸がぎりっと音を鳴らし、鼻の奥がツンとした。
涙の出る前兆のようなそれらの痛みを感じ、堪えながらも背を向け店を出た。
*
自分の家に着くと、ふっと涙がこぼれてきた。
張ってきた糸が弾かれたようだ。
そして頬を伝うものは、壊れた蛇口のよう。
ものすごくイライラして、宛のない悔しさが溢れる。
一通り泣き終わると、今日が自分の誕生日であったことを思い出した。
あーあ、人生で一番、つらい誕生日だ。
達哉のバカ。
バカ、と何度も繰り返す。
そして、最後に行き着いたのは、
「好きだよ、ばか。」
そう、好きなの。
好きだからこんなに腹が立つ。
好きだからこんなに苦しい。
たまにしかケンカなんてしないのに、どうして今日なのよ。
このままじゃ、いや。
と、思ったって、やっぱり得意の強情が邪魔をする。
仲直りしたい、けど謝りたくない。
そこで揺れ動く私は、どうすることもできない。
少し歩こう。ゆっくり考えてみよう。
そう思い至ってからは、早かった。
今日行くはずだったイルミネーション。
足が勝手に向かっていく。
まるで「終わり」に足が進むようで怖い。
溜め息は白い息となって消えてていく。
きらきら眩しいはずの無数の光。
今の私には霞んで見えて、目を細める程眩しいとは思わない。
向かい側に幸せそうに笑い合う恋人達が居るのが見える。
そして思ったことは、1人で歩くことが、こんなにも寒いなんてってこと。
隣に達哉が居ると、それだけで暖かいのに。
どうしよう、涙が溢れそうだ。
立ち止まり、下唇を噛んだ。
すると、ふと冷たい風が止んだ気がした。
左側には存在感。
私、立ち止まっちゃって、邪魔だったかななんて考えて、その場を去ろうとした。
「ちょっとお姉さん、ひとり?」
聞き慣れた声が、上から降ってきた。
そう、私の左側で冷たい風を止めたのは、達哉だった。
どうして、ここにいるの?
ただ驚き目をみはるしかできない私に、再び「おひとりですか?」とよそよそしく聞いてきたから、
「ひとりですけど。」
と、睨みながら返した。
「へぇ、奇遇やね。俺もひとりなんすよ。」
相変わらず棒読みな発言。
「てゆーか、なんでここ居るのよ。」
今達哉の顔を見れば、涙が零れる自信がある。だから見れない。
「そっちこそ。俺はまぁ、…色々考えたくて?」
謝ればいいのに。私が一言「ごめん」って言いさえすれば、ちゃんと解決出来るだろう。
じゃなきゃ達哉は偶然ここに来て、私を呼び止めたりしないもの。
だけど、口から出たのは「ふーん」なんていう心無いものだった。
「空。」
呼ばれて、思わず達哉の顔を見上げると、意外にも軽々しく、困ったような笑顔をうかべていた。
そして、
「ごめんな?」
なんて、こんなにも簡単に、素直にストレートに言われてしまった。
じわじわとまた、涙がたまる。
隣で私を暖かくしてくれてるのは、紛れもなく達哉で、達哉にしか出来ないことで。
私はただただ涙を流したままの顔で謝った。
「私もごめん、ほんとにごめん…」
そしたら「お互いさまや。」と、少しだけ大人びた様子で言われた。
「あんま泣くとブッサイクんなんで。」
笑いながら頭を撫でて、その後、私の後頭部を持って抱き寄せてくれた。
いつもより控えめな抱きしめ方で。
「泣かせてるの、だれよお!」
達哉に顔を埋めながら喚いてやると、「はいはい、ごめんごめん。」とあやすように後頭部を撫でながら体は横揺れする。
「せや、大切なこと言い忘れとるわ。」
そう言うと、達哉は私を離して、だけど肩を持ったままで目を見つめられる。
少し身を屈めた達哉は私に目を合わせ、微笑む。
「誕生日おめでとう、空。」
今まで、たくさんの人に言ってもらったけど、こんなに嬉しくて、どきどきしたことは無い。
「ありが、とう…」
礼を言う途中でまた溢れる涙は抑えきれなかった。
「生まれて、俺と出会ってくれてありがとうな。俺お前に教えてもらうこといっぱいあんねん。」
また泣かすようなことを伝えてくれた。
そして「今回のケンカやてそうやし。」と苦い笑いを浮かべた。
「ま、この先ずっと、毎年かかさず祝ったるから、よろしく。」
そう言うと、濡れた目のすぐ下の頬に一度口付けられた。
私が頑張って頷いたら、「泣きすぎや」って笑った。
だから私も笑ってみた。
たぶん、達哉も思ってるだろうけど、ケンカした後でこうして同じ場所で待ち合わせてもいないのに会えるのは、やっぱり私たちだから出来たことなんだ。
ずっとそばに居るから、
この先もこうして、素敵な言葉と口付けで祝ってね。
人生で一番幸せな誕生日をありがとう。
大好きだよ。
エンド
アトガキ
こげどんさま、リクエストありがとうございました!イメージと違っていましたら申し訳ありません。とっても素敵なリクエストでした!楽しかったです。ここまで読んで頂きありがとうございました。