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「何だこの体たらくは」
「あ、み…緑川…」
「誉くん!!」

制服の高校生が公園で小さく団子に固まっている、その場にそぐわない異様な光景。無関係を装いたいと思いながら声をかけると、一斉にみんなの視線が俺に集まる。その中心にいるのは、エミ。

「…なんかエミ顔赤くないか?」
「緑川くん!ごめん、僕のせいなんだ…!」
「や、ナギサっちのせいじゃないって!だって俺らみんなフツーじゃん」
「…まぁ、ヤスですら影響ねーしな」
「俺たくさん食べたけど、平気だよ?っていうかすごい美味しかった!」
「……話が見えない」

女子2人が俯いたままのエミを覗き込むようにして声をかけて、跳ねたように顔をあげた、次の瞬間。

「あー、誉くん!やっときたのォ?!勉強勉強って、ほんと飽きないんだからー!この、ガーリ勉!」
「あ?」

一瞬で眉間のしわが深くなる俺に一番始めに気付くのは昔からカンジで。…最近は、その役目はエミに変わったと思っていたけれど。

「ほ、ホマレ!落ち着け!コレには深い理由があるんだって!」
「だからそれは僕のせいで…」
「……なんでこいつが酔っぱらってるんだ?」

この顔の赤さ、いつもと違う口調。これがアルコールの仕業だなんて、そんなこと、

「一目瞭然だ」

よくわかったね、と愛想笑いでその場を和ませようとするカンジに言い放つ。

「で?市ノ瀬。何がどうお前の責任なのか、詳しく話してもらおうか」

制服を着たままこんな明るい公園で酔っぱらっている理由を、と付け加えながら睨みつけると、市ノ瀬は申し訳なさそうに深く頭を下げた。

「オイ、ちょっと待てって!緑川、市ノ瀬が悪いのかどーか、まずはこれ食ってみろよ」

集合時間通りに来なかったお前の責任かもしんねーぞ?と付け足しながら、神崎兄が差し出した金色の小さな包み。説明が先だと言いかける俺に有無を言わせずそれを突き出して、俺に食べるように圧力をかけた。

中から出てきたのはチョコレート。なんだよ、と思いつつもそれを口に入れると、少し強くほろ苦いブランデーの香りが鼻を抜けた。

「…まさか……」
「そのまさかだよ。市ノ瀬が海外ロケのお土産って、みんなに買ってきてくれたトリュフ。さっきここでみんなで食ってたんだよ」
「メッチャ美味しかったよ!」
「ヤッちゃん、黙って」
「そしたら、酔っぱらいの出来上がりってワケだ」
「…スタッフに勧められて…少しお酒入ってるってのは知ってたんだけど、まさかエミちゃんがこんなに弱いとは思わなくってさ…」
「いや、異常だろ。この弱さは…」

溜息が出る。いや、こいつがアルコールがだめだってことは、前に一緒に食べたケーキに少し酒が入っていた時から分かっていた。
本人だってそれなりに自覚があったしこんなことにはならないと思っていたのに。

「…お前、一体何粒食べたんだ?酒が入ってるってなんで気付かなかったんだ?」
「…誉くん…。エミは一粒半しか食べてないよ…」
「一粒半でコレかよ…」
「ある意味最強だな」

ざわめくメンバーをよそに、当の本人は上機嫌だ。

「何みんな怖いカオしてんのー?そんな怖いカオは誉くん1人で十分でしょー?」
「!!!!!!」
「ほ、ホマレ!落ち着け!キレるなよ!相手は酔っぱらいだぞ!」
「あははははは!カンジくん!何言ってんの!大きな間違いですー!誉くんはいつだってキレキレだってば!キレキレで、デレデレー」
「お、お前な!」

指をさして笑うエミの腕を掴んで引き寄せた。きゃ、と小さな悲鳴をあげて、慣れた香りが隣に落ち着く。そのことに一瞬だけ安堵した、が。

「もう、こーんな明るいのに…」
「だ、黙れ」
「勉強ばっかりして殻にこもるからモンモンしてくるんだよー?」
「モンモン…?」

今までは心配そうにしていた筈の視線にいかがわしさが加わって突き刺さる。

「エミ。公園の外の自販機で何か買ってやるから来い」
「またまたー!そんなこと言って、まーたお家に連れ込むつもりでしょー?」
「…また?」
「連れ込む……?」
「お、俺は公園の外に行くって言っただけだろ!」
「冷静なフリしちゃって!ね、ね、ナカムー!ナカムーが言ってた通り、こういうタイプに限ってドすけべだって、ほんとだったよー?」
「…な、ナカムー…なんてことを…」
「の、ノリだって!ノリでそういう話になって…!ていうか誉くんのことだなんて一言も言ってないし!!」
「…………中村、次に会った時覚悟してろよ?」
「エーッ!!!」
「でもそういう時だけたくさん好きだって言ってくれるし…ぎゅーってしてくれ…ムガッ」
「な、エミ!行くぞ!!」
「えー?なんで?!」
「いいから来い!」

エミが口を開く度にカンジや神崎兄の口元が緩むのを、これ以上冷静には見ていられない。あんなに申し訳なさそうにしていた市ノ瀬すらも、いつの間にか肩を震わせている。

「おい、エミ!俺だったらそんな時じゃなくたって好きも愛してるも言ってやるぞー?」

ニヤニヤと、まるで普段の仕返しだと言わんばかりに神崎兄が引きずられるエミを呼び止めた。

「あ!オレもオレも!エミちゃんカワイイし、オレだったら毎日言ってあげるから、そんなムッツリどスケベやめて、こっちおいでよー」
「カンジ、お前、調子に……」
「ふふふ。そういうのはねー、大好きな人に言われないと、嬉しくないんだよー」

毒を返そうと足を止めた俺の横で、意外な一言。

「だーい好きな人から、特別な時だけ言われるから、とびきり嬉しいの!ねー?」

ね……、ねー?……だと……?

引きずられていたはずの腕はいつの間にか絡められていて、ニコニコと屈託ない笑顔でエミが俺を見上げる。

「……帰るぞ」
「えー?」

顔が赤いぞ、とか、にやけるな、だとか。背後で冷やかしの混じったあたたかい笑いを感じながら、やっと公園の入り口を抜けだした。

「誉くん、さっきからなんか顔変だよ?」
「………気のせいだ」
「えええ?絶対変だってー!」

こんな顔であんなことを言われて平常心でいられる、そんな思春期の男がいるはずないだろ!

「…じゃあ、今日は私もたくさん誉くんのことギューってして、ア、ゲ、ル、ね?」
「はぁ?!」
「ふふふ……。参った!って言うまで、放さないんだからー」
「……お前あと2年経ったら、俺と一緒に毎晩晩酌しろよ?」
「え?なんで?」
「………」




Life plays a game of no defeat.
(人生はこれだから面白い)



攻めるのもいいけれど、攻められるのも……たまには悪くないかもしれない。……なんてよろめいた、高三の初夏。







end
(20100623)


 


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