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「おい、エミ…」


聞き慣れない声で名前を呼ばれて、一瞬誰のことであるのか分からなかった。それが自分の名前であると気付くまでに5秒。それから、振り返るのに1秒。


捉えた姿を認識するのにかかった時間。
…を、把握するのに一体何秒かかっただろうか。


「…返事くらいしろ」
「…す、すいませ……」


慌ててようやく出て来た言葉が陳腐すぎて笑える。なんのために大学まで行って勉強しているの。

でもーー。

教えてくれないもの、学校では。こんな時にどんな風に振る舞えばいいかなんて。
赤くなる頬をどうしたらおさめることが出来るかなんて、そんな授業は存在しなかった。

「…俺はお前の名前を呼んだだけのつもりなんだが…」
「え、あの、あ…はいっ」
「…別に怒ってるわけじゃ」
「わ、わかってます!ただ、なんだか…」

…なんだか、聞きなれている自分の名前のはずなのに。
急に色づいて艶めいて聞こえるのは、どうして?

口を開いて言葉を紡ごうとすればするほど、頬にあつまる熱。言葉も一緒に燃えてしまったようにうまく並べられなかった。

「……ん……?」



Keep on staying with me.
(ずっとそばにいて)


すっと細められた柔らかい瞳に、伝えたくて伝えられなくて。
もどかしい心がむずがゆくて仕方がない。





end
(20100615→20140415)

 


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