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ふいをつかれてドキッとした。部屋の真ん中に陣取られたテーブルの上には、まだとりあえず箱を開けただけのあつあつのピザと湯気のあがるスープ。うちに来る途中で康人くんが買ってきてくれた、私が最近ハマっているイチゴソーダ。それから、昨日から気合いを入れてなんとか完成させたお手製のケーキ。

これから始めるはずの2人きりのクリスマスパーティが少しずつ近づくカレンダーの日付を見る度にもドキドキしてきたけれど、そんなものは比較にならないくらい。私の胸には一気に血液が流れ込んでパンクしてしまいそうだ。


「えっ…と、やす、とく、ん?」

「………うん?」


呼び慣れた名前を呟けば、きっと弾けるように彼は「いつもの康人くん」に戻るんじゃないか、と思っていた、けれど。

むしろ、かえって私を背後から羽交い締めにする腕の力は強くなり、彼のすっきりと通った鼻筋でかき分けるようにしてむき出しにされたうなじには、熱っぽく湿った吐息がじんわりと落とされて、私の心臓を狂わせていく。


ピッチングもバッティングも正攻法の康人くんは、いつだって正面からぶつかってくる。それは彼の代名詞の野球だけではなくて、私に対してだってそうだ。ちゃんと向き合ってくれる。そう、いつだって。あの時ですら、顔が見たいからって彼は毎回のごとく私を真っすぐに見据えて微笑んでくれるのだ。その顔が、苦痛と解放の狭間で揺らぐ最後の瞬間でさえも。


背後からまわされた逞しい腕の中で、あろうことか私は薄暗い明かりの中で口元を歪ませる彼を思い出してしまった。瞬間、ぶるっと身体の奥が震える。


「いきなり、ど、どうし……、あ…」


はやる胸を抑えるために、冗談にしてしまおうと目論んで、笑いながら振り返りかけた私は言葉を飲み込んだ。


「えっと……や、康人く…」

「…ん?」

「あの……」

「うん」


躊躇なく心臓の上に被せられた大きな右手は、何枚も着込んだ服の上からでもそのあたたかさをストレートに伝えてくる。

臨界点に達しそうな拍動が、2人きりの静かな部屋を大音量で駆け巡った。


もうダメだ。


倒れそうなほど身体が熱い。密着した身体からきっと、全て伝わっているだろう。彼の胸の音が私の背中を突き上げてくるのと同じように。


「て、手が……」

「……ダメ?」


今度こそきっと、指摘をすれば彼の狂気はおさまるんじゃないかと思っていたけれど。

少し掠れた声で甘えるように返された言葉に、いよいよ私の身震いは全身へと広がって。それに気がついたのか、彼の左手は私のお腹を慈しむようにひと撫でした後、侵略者と変化した。



冷めていく料理
(熱は私たちにうつっていく)

 


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