自分の身体のことなのに、もうどうしようもないくらい思うようにならなくて、歯がゆくてもどかしくてなんだかむしろイライラしそうなくらいに胸がぎゅっと締め付けられる。
私が今一体何をして欲しいのか、この人は分かっているのかな。わかっててあえて知らないフリをしてるのか。それとも彼でさえも余裕なんてなくて自分の感情をぶつけることだけでもう手一杯なのだろうか。普段の器用でスマートな健人くんからは想像もつかないことだけど。
「……え、っと……」
素肌に触れる質の良い毛布は心地よく私を包む。でも今はその柔らかさよりも欲しい。もっと荒々しくて猛々しい、彼の熱が欲しい。
「エミ、眉間。皺寄ってる」
自由自在に滑る男の人のものとは思えないほど綺麗な爪を持つ手のひらが躊躇いがちに頬へ寄せられる。
外気に曝された頬は少し冷たいのか、それとも健人くんの手のひらが熱っぽいのか。なんだかじわじわと染み入るような温さがゆっくりと広がって、そのときようやく身体中に力が入っていたことに気付かされた。
「なんかまずった?気持ちくねーか?」
「…え?そ、そんなこと……」
ないよ、と言いかけて、ふと冷静な思考はそれを制する。
そんな私の顔を見て、健人くんはほんの一瞬だけほっとしたような表情を浮かべたあと、にやりと嬉しそうにそれでいて意地悪く微笑んだ。
「…で?どこ?」
空いている手が再び自由を取り戻す。ん?と耳もとで吐息が落とされる。その艶のある声色に心臓はひときわ強く波を打ち直した。
分かってるくせに。
そこじゃなくて。
そうじゃなくて。
「……ん?」
ぞくっと背中が粟立ちそう。
耳に入れられた舌が湿った音を奏でる度にゾクゾクして余計に神経は過敏になる。
ああ、もう。
今はどうなってもいい。
どんな自分も結局は自分なんだし、それを隠して気取ってなんていられない。
正直に、素直に、自由に。
お願い、触って、舐めて、転がして。ぐちゃぐちゃにして。もう溶けてなくなってしまってもそれはそれで本望だから。
ぼろぼろに崩された最後の砦は目をぎゅっと瞑って叩き壊して。
「…………た、健人く……!」
胸の上で頭を震わせる彼の柔らかい髪の毛ごと抱きしめると、自由なままの唇と舌だけが奔放に遊び続ける。
「あ……そ、……こ!」
ん、とか、あん、とか。
こんな声が出るんだなんて、自分のことなのに知らなかった。彼にこうされるまでは。
「ここ……?」
健人くんの指が確かめるように同じ場所をもう一度擦ると、さらに上ずった声が飛び出して。
与えられる快楽は今日一番のもの。逃げる必要も逃げたくもない。逃したくもない。むしろもっとそれを感じたいのに勝手に腰を捩って身体がずれていく。
「…ここ、そんなにいーんだ?…覚えとく……」
狂わされた私たちはドロドロに溶けてなくなる感覚を得たいがために、今日もお互いを求めあう。
もう戻れない。
この蜜を知らなかったあの頃には。
end