SP小説 | ナノ
「ねえ、そっちもうちょっと引っ張って」
「ああ?これ以上無理だって…って、あっちじゃねーの?」
「え?……ん?これ、縦横逆なんじゃない?」
「はあ?はじめにちゃんと見ろよ」
「海司だって気付かなかったでしょ!」

小さな言い争いをしながら、ベッドの周りで私たちは悪戦苦闘していた。つい先日買ったダブルベッド用のシーツは限りなく正方形に近くて、交換する度にこうやって二人で右往左往する。

「できたー!うひゃあー、ふっかふか!やっぱり下ろしたては違うね!」
「おい、まだベッドの位置直してねーだろ」

少しずつ冬の匂いを強くする夜に備えて、私たちは新たにボアシーツを装備した。袋から出してすぐのふんわりした柔らかい毛足の誘惑は強力で、たまらずベッドに飛び込んだ私に、海司は呆れ顔でいつも通り小言を一つもらしてから、よいしょ、と私ごとベッドを壁側に押し戻した。

「えへへ…」
「なんだよ」
「子どもってこういうの喜ぶよね。遊園地みたいって」
「ああ、子どもな」
「ふふふ」
「エミもかよ」

そう言って海司は昼間干していた毛布を手元で広げたかと思うと、ばさっと一気に私に向かって投げ掛けた。一瞬で目の前が暗くなる。

「ちょ、ちょっとー」
「ははは。そういやお前、昔もそんなことしてたよな。オバケだぞ〜とか言って」
「もう!」

それとこれとは違うでしょ、と言いながら毛布から顔を出す。笑いながら海司が膝を乗せて、ぎしっとベッドが少し沈み込んだ。

「ほら、昔みたいにさ。毛布かぶったまま変な動きしろよ」
「ばか!」
「ほら、もっかいやれって」
「もー!海司がしたらいいでしょ!」

働いたのは反撃という名のいたずらごころ。一瞬の隙をついて、毛布を海司の頭へばふっと引っ掛けた。

「うわ!」
「へへ、スキアリ!」
「くっそ、エミなかなかやるな…」

海司もノってくれているのかな、なんて笑いがもう一度こみ上げたときだった。

「そら!」
「うひゃ!」

目の前の毛布オバケから太陽の香りがしたかと思うと、目の前は再び真っ暗になって。

「……捕まえた」
「………」

毛布の柄を透けた部屋の灯りが二人を包む。毛布の中で向かい合う二人を。

「……エミ」

いつの間にこんなに近くにいたのだろう。目の前の海司がそっと私の頬に手を添える。少しずつ慣れてきた視界はもう、海司しか見えなくて。

「か、い……」
「…………」

真面目な瞳に呼吸を飲み込んだ。その瞬間、さっきまでじゃれあっていた、まるで幼なじみがそのまま大人になったような二人の空気は一瞬で消えてしまう。

次の呼吸はきっともう、お互い相手の中に飲み込まれるのだろう。薄く開いた唇の間から。




楽園
(二人きりの二人だけの、)


 


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