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「で?答えは?」
「え?何の?」
「もー。だから、そらのこと!」
「………ああ……」

そうだなあ……と、濁し答えながら彼女から視線を外した私は再び空を見上げてみる。

あれから、何度もノートを貸して。分からないとこがあるんだけど、なんて電話がかかってきたりした。今では普通に着信履歴に残る広末そら、という文字列。

「好きなんじゃないの?」
「うーん……」

特にお礼、という理由なく飲みに行ったり食事に行くようになった。後輩の海司くんも一緒に広末そらの部屋で家呑みすることだって珍しくなくなって。いつだってしょうもないことで笑っている。つられて私も笑う。楽しい。好きか嫌いか、白か黒かだと言われたら、答えは分かり切っている。

「なんていうか……」

……あれ以来、初めて2人で食事をした時以来、あの苦痛に歪んだ表情を見ることはなかった。もちろん、それについて問いただすことはしてない。変な夢を見ていただけかもしれない。特に深い意味なんて、そこに存在しないかもしれない。それでも。

「…………?」

一緒に過ごす時間が少しずつ増えてきて、思うことは。

『じゃあなんで、この人はいつも楽しそうに笑っているのだろう』

あの時の一瞬の歪みに、ひどく違和感を感じるほどに。
たった一度遭遇した瞬間が、私の中に小さな傷となってしこりとなって、未だにそれが癒えないのは、一体なぜだろう。

「好きっていうか、……気になるというか……」
「それって、好……」
「放っておけないっていうか……」
「ああー……確かに……あれだけノート貸して、とか言われてたら…」
「え。あー………うん、まあ……そうだね」

相変わらず「ノート」の関係は私たちの間を繋ぐ基礎で。

……ノート、かあ……。

少しずれた解釈をした彼女に、私は答えをぼかしたまま曖昧に笑った。この「好き」は、要するに彼女の言う意味での「好き」ではない……のだから、あえて訂正する必要もない。

「ノート」の関係の進化形。他の女の子たちと、私。存在の定義が違う。

そう自問し、解決させる。これまでに幾度となく行き来した思考は今日もスムーズに降りてくる。

「それなら、……まあ、いいんだけど」

意味深な彼女の言葉に、表情を変えないまま続きを促した。なんとなく、他の子が彼を好きだから、とか言われて牽制されるのかな、なんて思って胸の奥がじわり、と酸っぱくなる。

「そらは、」
「………」
「……本気になるとしんどいよ、多分」
「え?」

心臓が胸を強く叩く。

穏やかな学内に響く遠い笑い声が、のんびりと空に溶けた。


Can Pass Trap.
(目に見えるあたたかさに騙されそうになるけれど、)


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