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我ながら気持ち悪い。彼への興味心というか、観察力というか……とにかく、妙な執着心がそうさせるのだけれど、昨日は誰の家に泊まったのだろう?なんて詮索して、少し心がもやもやした。


…懲りないひと。しょうもない人間。


もやもやを払拭しようと、私が持ち出す感情はいつもこうだ。
女にだらしないらしい、俗にいうプレイボーイ種族の広末そらのまわりにはいつだって女の子が溢れている。自分から動きさえしなければ、私が彼に、その他大勢の子たちと同じように、「エミちゃん」なんて呼ばれることはないだろう。だから安心して放っておけばいい。だいたい、ああいうタイプは昔から苦手だったじゃないか。


いそいそと、通路をしゃがんだまま進む彼が、私の隣まで来て、一度止まった。


「……?」


頬杖をつきながらなんだろうと視線を彼に寄越す。どきり、と一度跳ねた心臓は一体何を期待しているのか。


「前。前向いといて!」


音にならない声で注意をされて、慌てて教壇へと視線を戻した。なるほど、優しくないと有名な教授が何かを感じとったのか、こちらをじろりと凝視している。


「………」


再び念仏のような講義が開始された。


「あっぶねー」

「………」


安堵の混じった声に私も少しほっと息を吐く。
と、同時に「私は悪くないのに…」なんて矛盾に気付いた。


教授が黒板を向き直ったのを確認してから、私はもう一度、今度はさらに気をつけて彼を見た。

しかしすでに、私のすぐ横の通路に塊はない。

解放された広末そらは、すでにお目当ての彼女の隣の席へと私の横を通り過ぎていった後。


もぞもぞっと前方で華奢な背中が動いたあと、まるではじめからそこにいました、とでも主張するようにこじんまりとおさまった。


くっつかなくても十分座れる、広い講義室の空白の目立つ座席に、仲良く並ぶ明るい茶色の山が二つ。


ついた頬杖の肘が少し痛い。


会話と呼ぶには足りなさすぎる。
それでも一瞬でも、彼の時間に私が割り込んだ瞬間。

そのほんの数秒は、止まらない時間に流されて、跡形もなくかき消されてしまうだろう。

しかし、刻まれてしまった。
少なくとも私の時間の中にだけは。



Can Pass Life.
(流れが変わるほどの力は持たないけれど。)

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