接点は、ない。
サークルも違えば付き合う友人たちも全く違う。性別が違うだけでも私にとってはすでにそれが高い壁として立ちはだかるというのに。教室も高校までのそれとは大きさが違う。決まった席もなくばらばらと着席するのでは、たとえ私があとから入室したところで、彼の近くに座ることすらなんだか不自然に思えて。…とはいえ、いつも遅刻してくる彼よりも、無遅刻無欠席な私の方があとから教室に入るなんてこと自体がほとんどないのだけれど。
ゆるい傾斜になったひな壇の中央より少し後ろ…の端。積極的に前を陣取るほど真面目なわけでもなく、かといって一番後ろでこそこそ内職的なことをするほど不真面目でもない。講義のノートは落とさずとるし、それでも時々携帯を開いたりだってする。そんなフツーな私が座るのはだいたいいつもこの辺りだ。
ぱっと見渡す前方には明るい茶色の髪は見つけることが出来ず、隣の席に置いたカバンの中身を探るフリをして盗み見た後方にも彼はいない。
今日も遅刻なんだな……。
自分に全く関係なく、話したことすらない彼を、どうしてこんなに気にしているのか。自分でもたまにわからなくなるけれど、そこに明確な理由はきっとないのだと思う。
ただ、なんとなく。
私が持ってない弾けた何かを持っていそうな気がして。
自分を変えたかった私はきっと、彼のまわりに群がる女の子たちのようになりたかったのかもしれない。
ただ、なんとなく、それだけだ。
「そら!」
空気のみの声が伝えた名前に、思わず勢いよく顔をあげた。声の主は私より少し前に座る流行の髪型をした綺麗な子。微笑みながら冗談ぽく睨んだ表情も可愛らしくて、きっと数秒、私は彼女に見とれていただろう。
そのあとすぐに彼女が「こっち!」と口を動かしながら手招きをしたから、私もつられるようにその視線を辿った。
見れば後ろのドア付近で身をかがめながらひらひらと手を振りかえす彼―広末そらが、いつも通りぴょんと寝癖を残した頭のまま笑っていて。
…昨日と同じ服だ……。