火照った身体も、色々なものが混じった独特のにおいも、静かな部屋だって何ひとついつもと変わらない。ただ違うのは、普段なら松田さんが背負っている天井を私が背負って、仰ぎ見ているはずの松田さんを見下ろしているということか。
さんざん弄ばれた私の身体はすでにぐにゃぐにゃで、されるがままに松田さんの上に跨がされたけれど、姿勢を保持するのは難しくて、それには彼の胸のあたりに両手をつくしかなかった。足の付け根の熱気と湿気とを気づかれるのは恥ずかしいけれど、そうさせた張本人だ。今更なのかもしれない。それでもぺたんと座れば彼の腹部を汚してしまうとかそんなことを考えては、私は身の置き所に困り、そわそわと収まりどころを探した。
「もじもじしてどないしたん?」
「だって」
「うん?」
何かを企んだような含みのある笑いを浮かべ、松田さんは私の腰を両手で掴んだ。くすぐったさもあるけれど、もうどこに触れられても必要以上に反応してしまう。息を呑んだはずなのに、声が漏れた。
一度瞑った目をそっと持ち上げれば、私の下で松田さんはおかしそうに口元を緩めいている。
「な、なんで笑うんですか?」
「えー?」
なんもないから、って彼は言ったけれど、やっぱりその顔は何も理由がないようには見えない。松田さんに触れられているときの自分なんて、どんな顔をしているのかわからないから、なんだか急に恥ずかしくなった。
腰を浮かして、そのまま彼の上から退散しようとすると、支えにしていた腕をとられ私は簡単に倒れ込む。目の前には松田さんの鎖骨。ごそっと頭を動かすと、ぎゅっと腕の中にしまい込むように抱きしめられた。
「逃がさへんって」
「え」
「…あかんで?どこ行くつもりやねん」
「どこも行きませんけど…」
「うん?」
「…だって、なんか変な顔してるのかなって」
「何が?…って、ああ、俺が笑うてるからか」
少しだけ緩んだ腕の中で、もう一度身体を少しだけ起こして松田さんの顔を見れば、彼はふ、と口の端だけで笑いを作る。ともすれば挑戦的で意地悪な表情になりそうなのに、不思議だ。どうしてなのか、その顔にはやさしさとか愛おしさとか、柔らかくてまあるいイメージの言葉しか浮かばない。
「…っ!」
油断した身体に、一瞬にして突き刺さった衝撃に、ひゅっと空気を飲み込んだ。
「あ、……ま、って」
「…そういう顔、ここから見るの、眺めええなーって」
「何、言って…あっ…う」
増やされていく指がナカをかき混ぜる。ぐちゅぐちゅと、部屋を満たす水っぽい音が耳にまとわりついた。
「や、あ…ま、松田さ…」
「…今日はこのまま、…エミちゃん好きに動いてみ?」
「え?」
一瞬意味が分からない私からずるり、と指は抜かれ、再び腰に手のひらが添えられる。
「え、ちょ…」
まあまあ、と松田さんはなだめ言葉と一緒に、簡単に私の腰を持ち上げると、場所を選ぶようにそっと移動させた。
「…っん」
探るようにあてがわれた松田さんのものが、さっきまでかきまわされていた場所にあたる。標的と照準が重なったかのように、片手の添えられた私の腰はそっと下ろされていく。指とは違う、ナカを押し広げる甘い感覚が一瞬で身体の中を突き抜けて、熱を帯びた吐息が漏れる。目の前でちかちかと星がまたたいた。
「…ん、…はあ」
つながった、という満ちる感情でいっぱいになったものの、松田さんは動く気配がない。あれ、と彼を見れば、にやり、と珍しく意地悪な顔で笑った彼と目があった。
「…エミちゃんのええように動いてみ?」
「い、いいようにって…」
「今更恥ずかしがること、なんもないやろ?」
「うっ……」