芸恋小説 | ナノ

予想通りのベたな展開。きっとこのあと、どこに手が伸びてきてどこをまさぐって、そしてどこになにを挿し込まれて、私の身体がどうなるのか、なんて簡単に想像がついてしまって。それが余計に胸を締め付けるようにときめかせ、おなかの下をじくじくと刺激する。

耳年増、…というほどには年増ではないけれど、未経験のことには誰だって興味もわく。かといって人に聞いて回るわけではないから、想像はあくまで想像の範疇でしかない。だけどきっと、私の背に手を添えてその身体をシーツに沈めた、目の前のこの優しい人は、おそらく変な性癖なんてあるはずがない、と、思うわけで。

(性癖って……)

自分で思った言葉が生々しくて、一人顔が熱くなる。私の顔の横に手をついたままふっと松田さんがほほ笑んだ。

「顔隠さんといて」
「や、だ、だめです」
「なんで?顔見たいんやけど」
「は、恥ずかしい、から」
「…そうなん?ま、ええか」

こっちがお留守やで、と、小さく笑いながら、彼は私の胸の上に口づけた。

これをどう表現したらよいのだろう。これが快感というものか。生暖かい柔らかいものが胸の突起を転がしながら遊んでいる。鎖骨で揺れる前髪がくすぐったくて、思わず身をよじった。

ちらり、と私を盗み見た松田さんと目が合うと、彼はそのまま強く音を立てながら吸い上げる。んっ、と予想外に甘ったるい声が出て、反射的に口をふさいだ。

吸い上げた強さとは正反対の優しい手のひらが私の頭をそっと撫で、そのまま頬に降りてくる。首筋をなぞって鎖骨を通って、胸の上で一休み、…かと思ったけれど、そんなはずはなく、彼の手は絶え間なく握って開いて滑らせて摘まんでを繰り返した。

「…あ、ん、ふっ……や、」

静かな部屋に響くのは、飲み込んでいるはずの私の声。隠しきれない呼吸は荒く、空気に放たれていく度に身体が熱くなってくる。松田さんはもうあまり喋らなくなった。そのかわり、手も指も唇も全てが忙しなく私の身体を這い回る。その度に少しずつ浮く腰としなる背中。反応すればするほど、彼は楽しそうに嬉しそうに、そしていとおしそうに私の身体を弄ぶ。

「あ、も……、ま、松田、さ……」

未知の身体の反応にこれ以上はもう自分がおかしくなりそうで、狂いそうで。私だってこの人を愛おしく思っている。それなのに、どうして、切ないほどに胸が痛いのだろう。

(好きすぎると、…涙が出そうになるんだ…)

落合エミという人間をずっと生きてきて、初めての発見。切なさは火をつけたように燃え、胸は震え、身体は痺れ、私は溶けて消えてしまいそう。
だけどそれで松田さんの中に混じれるならばそれでもいいかもしれない。


何度も抜き差しされた彼の指が、まとわりつく水音とともに抜き取られた。顔をあげた松田さんと一瞬視線が通う。
あ。ついに、来るんだ、と思うと同時。かちん、と身体がこわばった。

この先のことは、未知との遭遇だけど、でもなんとなく察しがつくから。

だけど。

そっと彼が触れたのは、胸でも、おなかでも、はたまたそのさらに下の茂みの奥でもなくて。

「……ん、」

やさしくいたわるように。重なったのは、二人の唇。





慈愛。

 


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