芸恋小説 | ナノ

畳の匂いがする。この状況に耐えようとすると、その度に指先に力がこもり、立てた爪ががりっと音を鳴らした。

「ん……っ、あ、うぅ……りょ、た……く……」
「ダメだよ、黙んないと」
「だ、ッ……う、あ、あ、」

グチュッグチュッと粘度の高いものがあわ立つ音が天井へと響く。床の上に倒れ込んだ私の隣に同じように身体を横たえた亮太くんは背後から楽しそうに小さく笑った。

「トロトロだね、エミちゃん」
「んっ……や……だって」
「だって、何?」
「亮太くんが、ああっ、んんん…!」

私の返事を聞く気もないのか、彼は強引に指の本数を増やした。同時にくるくると中心の芽を捏ねる。パンッと何かが弾けるような音すら聞こえそうな衝撃が身体を走って、消えていきそうな理性の奥にさっき見た亮太くんの笑顔が浮かんだ。



Waveの看板番組にゲスト出演した私は台本通りに一磨さんと目線をあわせて笑って肩をすくめた。それからいつも通り京介くんが私を口説いて、(ここは台本なのか素なのかよくわからないけれど)翔くんが京介くんに突っかかって、一磨さんがそれを制する、という流れでトークが進む。心当たりはこのあと。グロスのせいで唇に張りついた髪の毛一本を、一磨さんが回ったままのカメラに映らない死角で取り除いてくれたことか。
親切な一磨さんにアイコンタクトでお礼を伝えたあと、ふ、と視界をかすめたのが亮太くんの視線だった。
あ、見られてたんだ、と思った私に向けられた感情の読めない表情は一瞬で、そのあとすぐにいつもの笑顔を浮かべた亮太くん。
収録は一段落し、このあとの別コーナーの撮影まで休憩をとりに楽屋に戻った私を尋ねた彼に、「二人きりで会えるのが嬉しいな」なんて心を躍らせて。迷いなく部屋の中へと亮太くんを招き入れた私は、次の瞬間、こぼれそうな作られた笑顔を目の当たりにした。

一瞬走った背筋の悪寒は間違いじゃなかったんだ、と思いつつ、反論しようと、力づくで四つん這いに押し倒された身体を起こしながら振り返った私に、亮太くんは笑顔に見えない笑顔で「声出しちゃだめだからね」とささやいた。
返事をする間もなく、まるで手品のようにあっという間にたくし上げられた衣装は、ブラと一緒に胸の上でまとまって、露になる二つの膨らみを強調した。
亮太くんが背中から回した手で下から胸を救い上げては中央に押し付けて鷲掴む。彼の指の隙間から飛び出した先端はその指で挟まれて転がされてつままれて。その度にびりびりと足の先から付け根に向かって電気が走るから、私の動きはまるで古いフィルム映像のようにカクカクと滑らかではない。

つつっと艶かしくウエストラインを降りた指先がヒップをくるりとひとなでして、またウエストへと戻っていく。ああ良かった。これ以上弄ばれたらきっともう声なんて我慢出来ない。仕事と仕事の合間だというのに、亮太くんが欲しくてきっとたまらなくなるだろう。

「何、エミちゃん胸だけでこんなに感じちゃうんだ?……楽屋だから?」

耳に唇を押し付けながら囁かれて、吐息が脳を刺激する。そのまま耳の中に侵入してきた舌はなまぬるくグジュリグジュリ、と理性を奪い去るような音で私を攻めたてた。

「ち、が……」
「そんな顔して、ほんとやらしいね。清純派って何?って感じ」

その言葉、そのまま亮太くんに返すよ、と思った私に彼は追い打ちをかける。

「どんな感じ?ちょっと説明してみてよ」
「や、耳元で……」
「耳もそんなにイイんだ?覚えとくね」

今亮太くんはきっとにっこり笑ってる。誰も右に出ることを許さないかわいいアイドルスマイルで。

「ね、気持ちいいんでしょ?」
「う…ち、が……」
「ほら、白状したら?」
「や、亮太く…だ、め…あっあっ……や、やめ、」
「やめて欲しいの?本当に?聞いてみてもいい?」
「え?」

言うが早いか、腰のラインを彷徨っていた手のひらがそのまま下着の中に降りて来る。

「や…!」
「ほら、声出したら聞こえちゃうよ?…山田さん、今日来てたよね?」
「………!」


布の上からと動きは一緒のはずなのに、肌が直接触れあうだけでその感覚は全く違う。少しひんやりした手のひらが、下着の中で遊びながらも少しずつ下へ下へと降りてきて、もうひと撫で。

「……っ!!」

空気を飲み込んで喉がひゅっと音をたてた。かろうじて残っていた身体の力は吸い取られるように消えていく。支えられなくなって崩れ落ちると、畳の香りが生々しく私を包んだ。

「…ほら、すっごいよ?びしょびしょ」
「……や、やだ……!」

言わないで、と懇願する声は吐息に溶けて消える。構わず亮太くんはぬるぬると入り口に溢れた蜜を塗り付けたり、少しだけ指を入れてみたり。まさに「弄ぶ」という言葉がぴたりと当てはまるように感じられた。

「あれ、どうしたのもじもじして」
「んう……」
「…もの足りなくなっちゃった?」
「!ち、ちが……!」
「そっかー。どうしよっかなー」

にやり、と亮太くんの意地悪な微笑みはまだ消えない。たまらない、胸が苦しい。欲しいの、と素直に伝えれば…、とかすめる欲と理性が交錯した。

「ほんと、エッチな身体だよね…」

ぐいっと頭ごと顔の向きを変えられて、視界に亮太くんが飛び込んで来た。ふ、とまぶたに優しい感触が触れる。一瞬のキスは、それまでの意地悪な攻撃からは想像できないくらい、慈愛に満ちていた。

「亮太く……」

好き、と小さく声が溢れた。咄嗟に飛び出したその一言に亮太くんは一瞬だけ驚いたような表情をして。それから、返事だと言うように、ちゅっと微かなリップ音を立てながら、唇が軽く触れた。

柔らかな彼の前髪が触れて、その距離で見つめあう。やっとちゃんと顔を見ることが出来た。かき回されて帯びた熱が消えないまま、きっとこのあとキスはもっと深くなる。そう予感して、少しずつ瞳を閉じた。

「はい、おーわりっ」
「え、……え?!」
「え?って、何、エミちゃん。何期待してるの?」
「………!」

ぽかん、と見返した彼はにやり、と笑って「ここ楽屋だし、もうすぐ出番だよ?」と続ける。

「え、あ、う……ええー?」
「…このあと歌コーナーでしょ?…喘いだあとちゃんと歌えるの?」
「あえ……、ちょ…、ちょっと!」
「それに、エミちゃん、結構声大きいしね。こんなとこじゃ無理でしょ」
「亮太くん!!」

にっこりと笑う彼は焦る私になんておかまいなく少し乱れた衣装を直しながら身体を起こした。

「だ、だってもとは亮太くんが…!」
「ん?何?……したいの?」
「……!」
「……おあずけだよ、エミちゃん」
「なんでそんな…」
「さあ?どうしてかな」
「………」
「ほら、エミちゃんもおっぱい早くしまって……」

腑に落ちないまま私も着衣を直し、立ち上がろうと顔をあげると。

「……つづきは、今夜、ね?」

待ち構えていた亮太くんが耳元で一言。見下ろす彼の視線は私しか知らない色っぽさが滲んでいる。反射的に身体の中心が発火したように熱を生んだ。





燃やせジェラシー

……ヤキモチだってことはわかってるけど。それは飲み込むのが私なりの勝ち戦。


 


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